電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

箒木蓬生『悲素』(上巻)を読む

2018年03月22日 06時01分19秒 | 読書
新潮文庫で、箒木蓬生著『悲素』(上巻)を読みました。1998年に起こった和歌山毒カレー事件を題材とした小説で、名前こそ変えてありますが、事件の流れや背景はそのままですので、ごく自然に理解できます。

主人公は、九州大学医学部の衛生学教室の教授。1998年夏の和歌山毒カレー事件で、カレーから青酸を検出したという報道に、「違う」と違和感を持つところから始まります。青酸すなわちシアン化合物ならば、もっと急性で激烈な毒作用を示すはず。そうこうするうちに、和歌山県警から協力の依頼が入ります。使われた毒がヒ素であるとも。捜査への協力は、被害者である患者の診察からでした。そして、事件の背後には、カレー事件以前に別の犠牲者が存在するらしいことが判明します。真相が明らかになることはないと確信する恐るべき毒殺魔に対して、医学が真実を明らかにすることができるのか。



これは小説であると思いながら、当時抱いていた疑問が解き明かされることに納得しつつ、その結果さらに暗澹たる思いに至るような、なんとも不思議な読後感です。実に下巻が待ちきれない、一気読みです。

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