電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

橋本健二『新・日本の階級社会』を読む

2021年02月13日 06時01分00秒 | -ノンフィクション
2018年1月に刊行の講談社現代新書で、橋本健二著『新・日本の階級社会』を読みました。「新」とあるからには「旧」があるのでしょうが、理系の石頭を自認する当方には全く記憶がありません。それもそのはず、著者はどうやらジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団の大ファンらしい(*1)という共通点から興味をもって選んだ読書です。

いやいや、それにしても日本の「階級社会」がテーマです。かつては一億総中流と言われた日本社会内部の格差が問題視され、「氷河期世代」とか「ロスト・ジェネレーション」などと呼ばれて「ワーキング・プア」が大きな話題になったことは承知しておりますが、現在の社会の状況が大きく言ってどうなっているのか、そのとらえ方とは別に、社会の実態の方には興味があります。

本書の構成は次のとおりです。

「格差社会」から「新しい階級社会」へ───序に変えて
第一章 分解した中流   
第二章 現代日本の階級構造
第三章 アンダークラスと新しい階級社会構造
第四章 階級は固定化しているか   
第五章 女たちの階級社会
第六章 格差をめぐる対立の構造
第七章 より平等な社会を
参考文献
あとがき

本書のデータは、かなり多面的な指標をもとに分析されていますが、個人あるいは世帯の年収が重視されるのは調査が行われ統計が存在し把握しやすいという理由が大きいのだと思うけれど、「資本家階級」などというとスゴイ資産を連想しますので、なんだかイメージが違いました。

本書では、資本家階級、新中間階級、正規労働者、アンダークラス(非正規労働者)、旧中間階級の4+1階級という区分になっています。この中の、アンダークラスという区分の増加は、まさに「超氷河期時代」「ロスト・ジェネレーション」「ワーキング・プア」などの言葉が指し示す人たちが主流のようで、このまま高齢期に突入したときには、かなり深刻な問題になりそうだというのは理解できます。とくに、生活保護費がパンクしそうな予想が、素人にも容易に想像できてしまいます。その意味では、解決の道を示し得ているとは思えないのですが、現代社会の現状を統計数字としてリアルに把握する上ではたいへん役立ちました。



本書を離れて、自分が見聞した経験の中で、触発されて思い出したものをいくつか挙げてみると:

  • ある20代の女性と10代で障碍を持つ若者(男子)の対立の場面。収入の少ない男の子が、女性の安定した収入をうらやむ発言があったとき、女性は「私も努力したのよ! キミは努力していない、その差よ!」と言い放ったのでした。極端な自己責任論の無慈悲さを感じました。
  • 30代で失明した妻を70代までずっと支え続けた祖父の言葉。目の見えない人を24時間ずっと世話をすることはできない。大事なことは、できるだけ自分でできるように環境を整えることだ。具体的には、床にモノを置かないことだ。
  • 定時制高校で一年生の担任をしていた若い先生の話。16歳になりアルバイトができるようになった母子家庭の生徒が、頑張って昼間働いて6万円の給料をもらえることに。そうしたら、親が病気で生活保護を受けているために、そのうち4万円は没収されてしまうことがわかり、手元には2万円しかのこらない。3ヶ月後には、「どうせ取られるのなら、働かないほうが楽だ」と言うようになったとのこと。働かないほうが楽だと教えてしまう制度ではなく、働いて車の免許を取るための費用を貯えるなど、今の境遇を脱しようとする前向きな姿勢を育てる制度であるべきなのでは。せめて働く定時制高校生には例外規定を設けるくらいのことがあってもよかろうに。


(*1):ジョージ・セルを知っていますか:Do you know George Szell ?

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