電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

上田岳弘『ニムロッド』を読む

2019年02月02日 06時03分36秒 | 読書
講談社の文藝雑誌『群像』の2018年12月号で、上田岳弘著『ニムロッド』を読みました。第160回芥川賞受賞作の1つですので、実にタイムリーではあります。

「心臓麻痺」で停止したサーバーを再起動するのが中心のサーバー管理の仕事をしつつ、仮想通貨のマイニングをはじめ、実用にならないダメな飛行機の話(*1)を書いてくる男や、染色体検査で異常がわかった胎児を中絶した女、皆が同じように考え一つになってしまうのを塔の上から眺める話、左目だけから流れる涙など、色々な素材をつなぎあわせて、現代の雰囲気の中に昔の人と変わらぬ疑問を投げかける話、と読みました。

サーバー管理の日常は職業や仕事の、仮想通貨は金儲けの意味を問い、駄目な飛行機の話にはどこか虚無感が流れます。染色体検査のエピソードは夫婦や愛情やハンディキャップと人生の意味に苦味を与え、塔のエピソードには疎外感や孤独感が流れます。現代風のよそおいの下に内包される普遍性。おそらくは、だから多くの人に訴えることができるのだとも言えるでしょうか。

(*1):このサイトは実際にありました。ダメな飛行機コレクション



余談です。

1台や2台のサーバーならば、管理するのも楽しさがあるでしょう。純粋な好奇心から、様々なプログラムがどんなふうに動いているのかを知るのは実に興味深いものです。しかし、管理しなければいけないサーバーの数が数千台を超えるようになると、これを1台1台こまかく管理するのは事実上無理でしょう。不具合が起これば再起動するだけの作業員になってしまうのも無理はありません。好きで入った仕事が、やがて苦痛になり、意味が感じられなくなる。台数の、もっと言えば数量的な増加は仕事の質を変える、ということでしょう。実感としてわかります。


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