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志情(しなさき)の海へ

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池上永一「トロイメライ」 第二章「黒マンサージ」ーー琉球の正義?隠喩としての現在がくっきり!

2010-12-10 22:27:32 | 政治の潮流
池上永一『トロイメライ』            琉球史特論  2010/12/9
                                   
第二夜「黒マンサージ」―殺人事件について

第二夜は、第一尚家の末裔の名残を見せる黒マンサージがこの物語の中心に位置する義賊である。先導役の武太は筑佐事で、物語の大枠の人物は、涅槃寺の大貫長老、十貫瀬の「をなり宿」の三姉妹たち、また 王の厨房、寄満(ユインチ)の役人城間親雲上である。そして物語を前に推し進める切っ掛けが冊封使の福建州出身の船頭・謝海によるジュリ・加尼(カニ)の強姦と殺傷である。

大筋では波の上でアダンの芽を摘みに来た鍋が何者かに襲われ、黒マンサージに助けられることがイントロになる。麝香の香りが漂っていた。今回の料理はアダン料理である。白いタケノコのような味とシイタケの味がする。チャンプルー、酢の物にする。小麦とヒラヤーチーの話も出るがいつ頃から小麦が食されたのか?ヒラヤーチーはいつ?

加尼と城間親雲上の逢瀬――をなり宿の鍋が暴漢に襲われ、黒マンサージに助けられる。
琉球の庶民の正義のヒーローの登場である。殺人事件の解決が王府の法の力を超えた所にある。琉球の政治的枠組みが語られる。殺人を犯したのは冊封使の重要な御冠船の船長(船戸)である。国を超えた政治の枠組(治外法権)で無罪放免になるところを武太は追いかけ、また黒マンサージが見逃さない。謝海はガビシで成敗された。しかし、清の冊封使の動向はあくまで個人としての謝海の行動が描かれるだけである。

≪物語の政治的枠組み≫
 琉球王府――薩摩の在番――清王国の冊封を受ける[朝貢国]冊封体制
                  国体の維持のために超法規的にもてなす。
                  天使館[迎賓館]に滞在
                  父子の関係、清を後ろ盾に薩摩の完全支配を免れる。
       首里王府―――――那覇(庶民の街)

国家最高意思決定機関{評定所}(朝薫)―――――大与座、平等所(武太)
政治的構造が鮮やかに描写されている。そして比喩としてこの構図は日本、アメリカ、沖縄の政治的、パワーポリティックスがまた浮かび上がる。(フーコの「知と権力」が敷衍できると若い古謝さんは言及)

そうした構図の中で社会の底辺に位置するジュリが冊封使の船頭に殺害された。さてどう解決するか?が物語の中軸になる。そこに正義のアウトロー的ヒーロー、黒マンサージが登場する。もちろんワンと自らを呼ぶ武太もまた庶民の心情の代弁者として立ち向かう。(黒マンサージはどうやら第一尚家の末裔のニュアンスを漂わせる。『テンペスト』でも復興を暗示する尚家は第一尚家の隠喩が滲んでいたように記憶しているーー)

≪階層社会≫
  冊封使――王府・士族(王侯貴族)――下級士族(城間親雲上)――――庶民
  薩摩の在番
  科試           (雲の上の天上界・異次元)――武太の立ち位置から見える首里王府と士族層の世界
≪経済構造≫ 
  貿易――交易船、薩摩との昆布先物取引、
商業、物つくり産業?(織物)、農漁業
  風俗産業(食べ物屋、辻遊郭)
≪地理的条件≫
 長虹堤――浮島(那覇)と首里をつなぐ―冊封使を首里に誘導する道の役割
      権力の府と那覇(港町の庶民)を結ぶ道
涅槃院(寺社)――第二の公共―貧困対策、王府が行き届かない奉仕、庶民の憤懣の受け皿
         (大貫長老)、アジール
をなり宿―鍋、竈、甕(ナビー、カマドゥ、カミー)那覇の庶民の代表・琉球の食も美、やはりアジール的空間

 ≪正義は誰が代表するか?≫

国家と庶民を超えた存在(虚構)=正義 のシンボル―「黒マンサージ」
小説[物語・表現]は、システムの境界を描くことが可能である。それはある面で理想の表出でもありえる。

≪多様なイメージ≫

人物造形のイメージ:黒マンサージ、大貫長老、筑佐事、その他、主キャラクター数名

視覚的イメージ:深紅の番傘、黒手巾、紅柄、乳白色、鮮烈はオレンジ色の目
 
聴覚的イメージ:干瀬節

臭覚的イメージ:ジャコウ、ビャクダン、優しい香りが鼻孔に広がる

身体的イメージ:長身、軽やかな身のこなし、目元美人、鼻筋美人、口元美人
        気品のある最小限の動き、計算ずくで笑うジュリの笑顔

衣服のイメージ:絹、チーパオ、腰紐、マンサージ、

セクシュアル/ジェンダーイメージ:ジュリ

飲食のイメージ:ジーマーミー豆腐、アダンの芽、シンメー鍋、黒砂糖、泡盛、チャンプルー
         カマボコ、キヌサヤ、千切り、アク抜き、タケノコ、シイタケ、ターウム団子

地理的イメージ:浮島、長虹堤、海、アーチ門、天使館、アダンの芽の食が一気に八重山と
        那覇を結びつける

ユーモアのセンス:貧乏筑佐事、俸禄泥棒、ことばの繰り返しなど、
         「私たちも暴漢に襲われてくる」

アイロニーのセンス:武太の正義感が黒マンサージに負けるが取り締まる側の義侠心

≪ムード≫あるいは物語全体のリズムは構成からも触発される。候文や琉歌もその仕掛け

≪修辞≫ 

 直喩:涼やかな目元、楽器のように、現場を目撃したかのような臨場感、旗のよう、
    黒鷺のような軽やかさ、無防備な笑顔
 隠喩:首里王府の末期のグローバル・ポリティクスと現在をだぶらせる/密約
 漢文・候文:口上覚(二か所)
 琉歌:よたりたまちらち呑む間のうきよ さめて欲悪のつかはきやしゆか
 繰り返し:お前が憎い、アガッ、

≪ウチナーグチ≫
  糸満クトゥバ「イユグァーコーチョランニー」、ワン、ワッター、アガッ、フリムン
  クスマヤー、シーバイマヤー、サナジ、

≪沖縄の習俗≫

  歌・三線――武太は三線の名手
  空手、闘技、技、ガビシ(写真で紹介)、
冊封使の扮装や習俗:チーパオ(写真で紹介)

≪琉球の民俗・習慣≫ 
  ティル(肩籠)、バーキ(笊)

≪授業での討議≫

ヒラヤーチーは中国福建や台湾などでも広く食されている。
小麦は渡名喜島の御嶽から出た。どうも古い痕跡が残っている。
候文は中国・琉球史に強い前田さんと松川さんに読んでもらって解釈もーー。
冊封使歓待の時の献立も写真で紹介する。あひる、じゅごん、あわび、ぶどうまである。
レイシ、バナナ、さざえ、もーー。なかなか珍味満載?これはネットでも紹介されている。

イメージとしての沖縄とは何かも話題になった。沖縄的なものが異なった形で伝えられ、消費されることなど、大和の側から付与されたイメージを受容しまた利用するコマーシャリズムもある。文化商品をどう売り、どう生活資源にするか?その戦略が問われてもいよう。

文化がいかに売れるかの事例で例えばイギリスに行ったイメージとして英国を代表するのはRoyal Familyではなくシェイクスピアではないかと。彼は世界のアイコン/カノンであり、東西文化の記号的シンボルであるなどの話も出る。蜷川幸雄がなぜ文化勲章を受容されたのか?日本の演劇研究者からあまり評価されているように思えない。鈴木忠志の方が世界の学会ではその芸術性が評価されていると感じたのだが、蜷川のシェイクスピアは世界で鑑賞され評価された?という事なのだろう。沖縄のエイサーが世界で受容され親しまれるのも文化資本主義のコンテンツの一部となりえるのだろう。その点で池上の小説が沖縄の文化コンテンツになりえる可能性がある。

この第二章で感銘を受けるのは現代のアメリカ、日本、沖縄の政治的構図がメタファとして浮かび上がる所である。池上は歴史小説を面白く書きながら沖縄にエールを送っていることが分かる。それと日本の中の沖縄だが、日本語を読む日本の国民国家の成員のみなさんに沖縄の文化・歴史をアピールしていることにもなるのだろう。

<明け方、コーヒーカップの中にゴキブリちゃんが浮いていた?!>


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