今年は、大のお気に入りの、奈良の長谷寺の写真を撮りまくる、という目標を2月に立てた。
なかなかチャンスがない雪景色を撮れたため、1年を通してそれぞれの季節を楽しみ、記録に残そうというつもり。
そうなれば、「花の御寺」との別称のあるこの寺で、一番有名な牡丹の季節を除くわけにはいかない。
正直、牡丹はそれ程好きな花ではない。
私としては青、紫、白等という、どちらかと言えば寒色系の花が好みなので、赤やピンクがほとんどの牡丹はちょっと華やかすぎる気がする。
しかしながら、写真に撮ってみると本当に見事なものだ。
5月の山々は淡い緑と濃い緑のパターンが美しい。空気も澄んでいる。長々と続く登廊、清水寺とはまた違う趣の、自然いっぱいの景色が楽しめる大きな舞台のある本堂、10mもある見上げるような見事な観音様のところまで上がって一休みすると、やっと汗が引いていく。そこからまた木々や花々の合間を縫って石段やなだらかな坂道があり、ただ歩き回るだけでも気分がすっきりする。
また源氏物語の昔から人々の信仰を集めていた、というのもゆかしい感じがするものだ。
いくたびも
参る心は
はつせ寺
山もちかいも
深き谷川
という碑が長谷寺への入り口あたりにある。
漫画の「あさきゆめみし」では、長谷寺に参る玉鬘の君の絵が描いてあり、登廊や牡丹の花も描かれている。「牡丹で有名な寺なんですよ」と女房が説明する場面や、源氏の君を牡丹になぞらえ、「百花の王」とはこの方か、と玉鬘に言わせている。
実際には、登廊全体が作られたのは、源氏物語の設定年代より後だし、牡丹で有名な寺になったのはもっと後の事だけれど、調べてみると8世紀頃から栽培はされていたようだから、実際に長谷寺にもあったかもしれない。
登廊については、「枕草子」には「階段を上って大変だった」という記載があるが、創建当時からの「とりあえず坂道に段を作った」態のものかもしれない。
だったとしたら、深窓の令嬢やお付きの女房が登るのは大変だったろう。
今ちゃんとした階段になっていてさえ、しかもスニーカー履いていてさえ399段上って本堂まで行くのは一苦労なのだから。しかもその前には、3,4日かけて京から歩いてくるか牛車に乗ってくるのがお参りだったのだから、疲労度はさらに増したことだろう。願掛けに行くのだから、という事で大変な思いをしていく方がよかったらしいが。
ただ、願掛けはともかく、本堂まで上がって山々を見渡して、晴れ晴れした気分で旅心を満足させたり、という事も、昔の人にはあったんだろうな、とさわやかな5月の風に思うことも。お寺参りも、ずっと家の奥にこもっている女性たちにはお楽しみのひとつだったらしいから。
デジブック 『花の寺・牡丹』