ぬえの能楽通信blog

能楽師ぬえが能の情報を発信するブログです。開設16周年を迎えさせて頂きました!今後ともよろしくお願い申し上げます~

演劇倶楽部「座」の役者さんに謡の稽古(その2)

2010-08-23 00:08:39 | 能楽
で、まずはお稽古に伺う前に、頂いたDVD録画の 詠み芝居『歌行燈』を拝見しました。

ははあ なるほど、役者さんは登場するけれども、地の文を語る方がもうひとり、台本を手に舞台の右手前に着座しています。文楽の義太夫のような感じですね。そういえばこういう劇を見たことがある…と思ったら、ワキの高井松男さんがやっているお芝居を、ご招待頂いてセルリアン能楽堂で見たことがあるのですが、やはり高井さんは舞台とは別に、着座してト書きのようなところを語っておられました。こういう手法は ある種の定着をしているのかも。

ところがこのDVDで驚いたのがその語り…「詠み芝居」というからには「詠み手」というべきかも知れませんが、そのあまりに滑らかな口調…滑舌が おっそろしいほど良くて、言葉がクリアなんです。かなり早口にまくし立てる部分もあり、長丁場の語りもあり。それがまあ、見事に破綻なく言葉が続いて出てきます。たぶん息づかいに工夫があるのでしょうね。と、ぬえは感じました。

まあ、なんと言っても『歌行燈』は言葉が難解な小説ですが、なるほどこのように役者と語りとを人を分けて演じることで、俄然わかりやすくなりました。しかしこの滑舌の良さならば、語りだけでも立派に成立しちゃうのじゃないか? …と思っていたら、劇が終わったところでこの語りの方が挨拶をされていました。ははあ、なるほどこの確かな芸をもった方が座長さん…壌晴彦さんなのですね。すみません ぬえは現代劇のことはまったくわかりませんもので…

ほかにも、主役の方が…どこかで見たことがある人だな~、と思って見ていたのですが、最後にテロップが出て、その人が真船道朗さんだとわかりました。ああ、道理で。真船道朗さんは狂言・大蔵流で稽古をされておられて、以前はお舞台にもよく見えておられました。つまり本職ではないのだけれど、そのお師匠さんのお考えでセミプロのような立場で能楽の舞台にも立たれ、本狂言のアドや間狂言を勤められている方が時々おられるのです。こういう方は狂言方に多いように思いますが、シテ方にも地謡の要員として舞台に出る方があったり、ワキ方でもワキツレにはそういう方が出ることが、時折ですが、ありますね。その背景には能楽界の後継者不足という問題も複雑に影を落としているのですが…

しかし狂言方はちょっと事情が違っていて、演劇家の方がご自分の演技の幅を求めて(?)狂言を勉強される例がとても多いのです。こういう方はもともと才能を備えている方も多いのでしょう、能の舞台にも参加する例が割と多いのではないかと思います。

真船さんも、能楽堂では間狂言などを勤めておられる姿は何度かご一緒させて頂き、また本職が演劇家であるという事も ぬえは知ってはいました。それどころか、一度は同じように演劇家で狂言の舞台も勤めておられる人…つまり真船さんと同じ立場で、その意味で真船さんの友人でもある方に連れられて、真船さんが経営されていた居酒屋さん(?)にお邪魔したこともありました。

いずれにせよ役者として現代劇に出演する真船道朗さんを ぬえはついに拝見したことがなかったのですが、こんな形で拝見することになるとは…それが、驚くような上手さで、またまたビックリしました。後日 演劇倶楽部「座」に初稽古に伺ったときにそのお話をしたのですが、「あの方は名優ですよ」というお返事が返ってきました。は~、ぬえには知らない世界ですが、そんな有名な方だったのですか…

それと、このDVDを見ている時には思わなかったのですが、そこに登場している役者さんに稽古をつけ始めて、え?? と思うような驚きもまた、体験する事になるのでした。ん~、世界は広い…(←ぬえの見識が狭いだけですが…)

演劇倶楽部「座」サイト

すんまへん、悠さん、ぬえ何も知らないのでこれからもご教示くらはい~(・_・、)