ハクモクレンが咲き出した。
どうしてそんなに美しく咲いているのか?
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おれはおれ流儀の答えを出す。
答え:それはおれに美しいと言わせるためだ。
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おれなんかに?
おれなんかが相手だと?
そんなことはあるまい。
おれは、答えを出しておきながら、それを否定する。
そしてしばらく落ち着く。
客観論はそれは正しいのだ。
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もう一度庭に出る。大空を見事に飾っているハクモクレンがいる。豪華な絵になっている。
するとまた主観がにょこにょこ顔を出す。
「美しいと思ったのはおれだぞ」、とおれは反論を試みる。
「じゃやっぱり、ハクモクレンが美しく咲いたのは、おれのためだ」と強引に八艘跳びをしてかかる。
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おれとハクモクレンと両者しかここには存在していない。だから此処は「二人だけの世界」ということにもなっている。はずだ。
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じゃ、ハクモクレンに聞いてもらうのが一番じゃないのか。
聞いてみる。
すると、案の定だ。
「きみのためだよ」という答えが返って来る。
おれは、にたりとする。しめたと思う。
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否定が覆る。
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肯定論否定論はともかくとして、おれはこのハクモクレンが美しく咲く地上を生きている。これは事実だ。覆らない。
よかったと思う。
ハクモクレンが咲かない春、なんてもう想定するのも辛いことだ。
ハクモクレンが咲いた美しい春に、おれはいる。そして、それをこころよくこころよく思っている。これも事実だ。
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戯論をして、しばらく戯れてみた。おれはなんだか少しだけ元気を取り戻せたように感じている。