李白の詩 「望廬山瀑布(廬山の瀑布を望む)」
日照香炉生紫煙 日は香炉を照らして紫煙を生ず
遙看瀑布挂長川 遙かに看る 瀑布の長川を挂(か)けるを
飛流直下三千尺 飛流は直下して三千尺
疑是銀河落九天 疑うらくは銀河の九天より落つるかと
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朝の日が香炉峰を照らしていると、山全体に紫色をした水煙が上がって来る。何故そうなっているかと遙か遠くを看ているとなるほどと頷けた。瀑布(=滝)がそのまま縦向きに長い川をぶらさげていたのだ。垂直瀑布の飛流は三千尺の深さまでまっすぐに落ちている。これじゃまるで銀河が天のもっとも高い場所から落ちて来たようなものじゃないか。
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この詩のベスト・スペクタルシーンは結句だ。断然結句だ。銀河を、詩人李白は、天のもっとも高い位置から引きずり下ろしてしまったのだ! 李白は詩人だ。詩人じゃないと、人の度肝を抜くこういう機知に富んだ風景は描けまい。詩人は言葉を絵の具にして名画を描くことができる。
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廬山の渓谷を轟かせてどどどどどどどどと音がしている。耳をつんざくような大きな瀑布の音だ。李白は作曲家だ。モーツアルトだ。