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彼が肉体をいまも維持していたら、わたしはこんなに弟のことを偲んだりはしていないでしょう。しみじみ涙を覚えてはいないでしょう。肉体と肉体は衝突をします、一方が風だったら、衝突は起きませんよね。肉体維持であれば、仲を悪くして、あれやこれやくだらないことで口論をしているかも知れません。でも、いま彼には肉体がありません。わたしの偲び体、思い出体でしかありません。弟と一緒にいたときのことを懐かしんでいます。しきりに懐かしんでいます。何かにつけて思い出されます。トンボのようにすいすいと、ひょいひょいと、飛び出して来ます。もう口論にもなりません。寄り添っていてくれるだけです。