SAKE COMPETITION 2019
【純米酒部門】GOLD 第2位 宝剣 純米酒 広島夢酵母
またまた登場の「宝剣」。1位そして3位と。
*https://www.yajima-jizake.co.jp/products/detail.php?product_id=10897 より
「純米酒部門1位」の蔵元が、なぜ「苦しかった…」と語ったか? 「SAKE COMPETITION 2019」で垣間見えた日本酒作りの難しさ 2019/6/21 22:00 中山秀明
6月10日、市販酒を対象とした世界最大規模の日本酒コンペ「SAKE COMPETITION(サケコンペティション) 2019」の表彰式が開催されました。同コンペは2012年からスタートし、今年で8回目。事実上の「世界一の日本酒を決める大会」として知られています。当サイトでは、どんな銘柄が受賞したのかを伝える速報記事を掲載しましたが、今回は、各受賞蔵元の胸の内などを深掘りしてレポート。インタビューを中心に、いま一番おいしい日本酒の話をお届けします!
味のみで審査される「世界一の日本酒を決めるコンペ」
同コンペの総出品数は年々更新されており、今回も昨年(1772点)を上回る1919点が出品されました。審査部門は純米酒、純米吟醸、純米大吟醸、吟醸、Super Premium、スパークリング、海外出品酒の7部門。その審査の特徴は、技術指導者、有識者、蔵元からなる審査員が、銘柄を隠した完全ブラインドで審査すること。味だけで優劣を決めるガチの勝負で、忖度はもちろん知名度なども一切関係なし。つまりは、無名の蔵が大金星を手にするジャイアントキリングも起こり得ます。ただし、今年は比較的目立った波乱はなく、むしろ超名門の蔵が実力を見せた印象。
主催者のひとりである「はせがわ酒店」の長谷川社長が「昨年は全国的に原材料となる酒米の出来が悪く(※今年の新酒は昨年収穫した酒米で造る)、作り手はとても難しかったのでは。そのぶん蔵の実力がはっきりと出た」とコメントしたことからも、センスだけでなく経験も左右したといえるでしょう。
純米吟醸部門1位の「飛露喜」、蔵元は「勝つのは難しいと思っていた」
事実、出品数が578点と最多だった純米吟醸部門のTOP3は、「飛露喜 純米吟醸」「磯自慢 純米吟醸」「作 純米吟醸」と、どれも知名度バツグンのビッグネーム。なお磯自慢酒造は80~90年代の吟醸酒ブームを盛り上げたカリスマ中のカリスマであり、「飛露喜」の廣木酒造は福島・会津の日本酒ムーブメントの立役者。そんな「飛露喜」の蔵元杜氏である、廣木(ひろき)健司さんに受賞への思いを聞きました。
同コンペの審査員も務めている廣木さんによると、今回の自社の純米吟醸は、自己採点における評価は低かっただけに、「1位は驚いた」とのこと。
「ここ4~5年のうちの純米吟醸酒は、香りや甘みが強いタイプではなくて比較的におとなしく、目立った個性はないんです。自分としては純米酒(今年は9位)に力を入れていて、もちろん純米吟醸も大切ですけど、勝つのは難しいと思っていました。それで今回、先に発表された純米酒部門で9位に入賞し、ある程度の評価をいただけて内心ほっとしていたんです。そうしたら直後の純米吟醸部門で1位というサプライズ。副賞で何をもらったか忘れるくらい驚いて…思わず頭が真っ白になりましたね」(廣木さん)
純米酒で1・3位の「宝剣」。「自分の酒」と「流行の味」とのギャップで苦しんだ日々
「飛露喜」が9位となった純米酒部門は、出品数が495点と純米吟醸部門に次ぐ激戦に。そんな純米酒部門で1位に輝いたのが、宝剣酒造の「宝剣 純米酒 レトロラベル」です。ちなみに同蔵の「宝剣 純米酒 広島夢酵母」は3位にも入賞しました。
受賞式の登壇時には「苦しかった……苦しんでよかったです」と声を詰まらせていた土井さん。その「苦しい」の意味は何だったのでしょう。
「お酒造りで、負けているのが悔しかったです。自分の酒は食中酒で、派手なお酒じゃないんですけど、そのなかで勝負ができるんじゃないか……いや、勝負できてないよな…というのがここ3~4年。それが苦しかった。そのなかでなんとか昨年は純米酒部門の10位になりましたが、信念は多少揺らぎます。酵母や麹菌を変えて流行りに寄せた方がいいのか…と思うこともありました。ただ、信念を曲げて受賞しても、自分はうれしいのか? と。それを特にこの1年考えました。すると、やっぱり、『自分本来の酒で勝負したい』と。
『苦しかった』というのはそのジレンマですね。今日も、『努力って報われるのかね…?』って奥さんに言って広島から出てきました。それがこうして結果が出て…報われましたね。しかも、今回の1位は伝統的なレトロラベル。宝剣の原点といえるこの酒が認められたことは、特にうれしいです。ブレずに頑張ってよかったな…と。自分でも上位に行くならレトロかな、と思っていて。線が細いお酒には変わりはないんですが、酒づくり、麹づくりを頑張って、細いなかでも幅が出せるようになったのかな、と。設備投資もしましたが、やっぱり麹づくりというのが一番大切なんだと強く感じました」(土井さん)
土井さんは最後に「僕は弱い人間なんで、苦しまないと頑張れない。もっともっと苦しんで、いっそううまい酒を造っていきたい」とコメント。この言葉から、今後も酒造りに人生を捧げる覚悟が見て取れました。
さて、今回、宝剣の持ち味である辛口の酒が純米酒部門の1位に。また純米吟醸部門では、廣木さんが語ったように、「おとなしさ」が好評価を得たことに注目です。日本酒のトレンドは、華やかな香りを持つ甘口から、繊細さを重視する辛口にシフトしているのかもしれません。
「作」のうまさには酵母の分析が必要不可欠
名門の上位ランクインが目立つ一方で、昨年の純米酒1位だった福島の宮泉銘醸(代表銘柄は「寫楽(しゃらく)」や「會津宮泉」)、「東洋美人」で知られる山口の澄川酒造場、「あたごのまつ」や「伯楽星」で有名な宮城の「新澤醸造店」などの実力派は10位圏外に。コンペの上位常連でも、毎年受賞できるわけではないのがわかります。そんななか、不変の強さを見せたのが「作」(ざく)で知られる清水清三郎商店(三重)です。
今年は「作 朝日米」が純米大吟醸部門の1位、「作 智」がSUPER PREMIUM部門の3位、そして同蔵の「鈴鹿川 純米吟醸」が純米吟醸で3位に。昨年は純米吟醸部門で「作 恵乃智」が1位になるほか全3銘柄がTOP10入りしましたが、いい酒造りの秘訣とは何でしょうか?
「秘訣に関しては正直わかりません。ただ、とにかく杜氏の内山と一緒に、どうやったらいい酒が造れるのかを試行錯誤しながらやっています。また、酵母の分析には力を入れていますね。酵母にどう働きかけたら、どんな酒ができるのか。逆に、この酒の味はどの状態の酵母からできたものなのか、と。米も大事ですけどね。今回純米大吟醸部門の1位を受賞した朝日米は岡山原産の古い品種です。酒米としてはあまり注目されてきませんでしたが、そのぶんこの米でいい結果を出せたのは個人的にうれしいです」(清水代表)
受賞したのは「龍」の名を冠した最高峰のお酒
今回、最後に紹介するのは入手困難酒の代表「十四代」で知られる高木顕統(あきつな)さんの声。1994年に誕生した「十四代」はいまの日本酒ブームの源流を生んだ銘柄で、それまで淡麗辛口が主流だった日本酒の流れを大きく変えました。また、蔵元(経営者)と杜氏(醸造責任者)を兼ねた蔵元杜氏の先駆けでもあります。
高木酒造は今回、720mlでの小売価格が1万円以上であるなどのエントリー資格があるSuper Premium部門で「十四代 龍泉」が1位を受賞。登壇時には「2012年、2013年に純米大吟醸部門で受賞することができましたが、それ以降は受賞できずに苦しみました。いただいた受賞トロフィーを自分の父に持って帰ることができ、少しは親孝行ができたのかなと思います」とコメント。また、個別のインタビューでは、受賞した「龍泉」について以下のように語ってくれました。
「うちは、『龍五郎』(たつごろう)という名を代々襲名する家系で、親父が十四代目の龍五郎で、僕が十五代目の龍五郎なんです。とにかく『龍』に強い思い入れがあるんですね。そして、泉はお水やお酒の意味。ですから龍泉というのは非常に特別な意味を持っていて、うちの最高峰のお酒になっています」(高木さん)
高木さんは酒の造り方に関しても言及。そもそも毎年「今年の作品です」と提案するため造り方も若干変えていくそうですが、その年の米に合わせて、酵母の配合具合や麹菌の温度のかけ方などを調整するとのこと。また、今年の米に関しては、「産地や収穫時期によってバラツキがあった」とも。たとえば有名な酒造好適米である「山田錦」は同じ10月でも初旬は硬く、寒くなる下旬は柔らかいなどの違いがあったそうです。そのなかでのSuper Premium部門1位受賞ということで、実力の高さを改めて示した形になりました。
最後に高木さんは、フードペアリングについてコメント。「日本酒はすべての料理にマッチすると思います。でも、その日本酒の地元の料理に合わせると、もっとおいしい」とも。なお、今年は「おつまみグランプリ」が同コンペで初開催され、84点の中から千葉県の「九十九里浜蛤酒蒸し」が1位を受賞しました。こちらもぜひ試してみましょう!
*https://getnavi.jp/cuisine/395976/4/ より
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