かつて「ウィーンの三羽ガラス」と呼ばれたおひとり、デムス先生のレッスンを聴講して参りました。
1928.12.2生まれでいらっしゃいますから今年で81歳。
2年前の今頃にもレッスンの聴講をさせていただいたのですけど、レッスン生はいきなり大声で怒鳴られるわ、聴講しているほうもドキドキするわで、相当緊張度の高い時間でした。今回どうしようかなあと思ったのですけど、巨匠は、ポンポンとアメリンクとかフィッシャー・ディスカウの伴奏をされた時の話などをされるので、やはり貴重だと思い、出かけました。
今日も驚くほどお元気で、突然怒り出されたり、髪の毛をひっぱったりされてました(汗)。
いろいろなことをおっしゃってましたが、2年前と同じようにメモのまま書いてみたいと思います。
〇ブラームス 117-1
・ゆりかごというのは規則正しく揺れるのではない。左の方に少し大きくゆれる
・117-1には歌詞がついているけれど、もしついていなかったら自分でつけて歌ってみる(・・・といってもドイツ語なので、これは大変そうですが・・・)
・テンポの設定をよく考える。中間部がゆっくりならば最初はどう出るべきか?自分がこれから弾こうとするものをよく理解して弾く。
・キリスト教は、カトリックであってもエヴァンゲリストであっても音楽が必要。es-mollはいちばん哀しい調。マリアの夢、わが子が十字架にかけられたという。
・動きを大きくするのはあまりよくない。アメリンク(声楽家)は動きが大きいとそれだけで空気をたくさん使ってしまうのだ、と言っていた。
・音楽家は正しい表現をする必要がある。音価の大きいもの(つまり長い音符)を大切に。
・二度の進行が含まれている箇所ではペダルに細心の注意を払う。
・鍵盤を内面的に押す。指先の感覚を研ぎ澄ませて。
・2つ目の音は静かに。4つ目のフレーズが最も大切な場合が多い。
・アルペジオは大事に。ハープの響きのようで、歌の伴奏には適したもの。
・二重縦線につけられたフェルマータは、曲に穴をあけるのではなく流れは止めずにゆっくりするためのもの。
・細かい音符がたくさん出てくるところは少し軽くする。
〇ブラームス 118-2
・この曲はアンダンテなので、ゆりかごではなく、お母さんが子どもを抱いて歩いているように。
・(フレーズの)最高音がAであるということは、歌を意識していると考えてよい。ソプラノでは安定して歌える高さ。BやHになると少しきつくなる。
・高い音のあとは呼吸してよい。
・ルバートというのは、息の配分と考えていい。高い音にたくさん息が要った場合は低いところで足りなくなるが、それが不自然にならないように。
・スラーのあと手首で音を抜く。1センチでいい。
・アインシュタインは空間と時間は同じと言ったが、私は「響きと時間は同じところに属する」と言います。これはフィッシャー・ディスカウの伴奏をして学んだ。
・音楽的に弾けば、たとえ2台で弾いてもぴったり合うものだ。
・中間部は声楽ではなくインスツルメンタルのものだと思うが、上のメロディーがバイオリンだとすると、下はヴィオラ。繰り返しをしたあとは、ヴィオラの方を出したい。
・fis-mollはとても豊かな調。そこからFis-durに転調。天上の音楽。
・この曲の形式は、A→B→ファンタジー→Aとなっていてこのファンタジーの部分が大切。
・コーダはない。シューマンだったらさぞいいコーダを書いたと思うが、ブラームスは書かなかった。
〇フォーレ 三つの無言歌 Op.17-2&3
・フォーレの弱点:
①伴奏が単調 ②不協音がたくさん入っている ③繰り返しが多い。
・上記のような弱点がある場合は演奏が一流でないとならない(つまり曲の不出来をカバーする・・・)。不協音についてはペダルを踏むとき気をつけなければならない。
・日本人がペダルがヘタなのは、練習のとき履いていない靴をいきなり本番で履くからだ。ペダルの練習はうちでも靴をはいてやりなさい。ケンプは日本にきても靴は脱がなかったそうだ(笑)。
・ピアノの難しいところは、音が減衰すること。ということはどういうことかというと、次の音を弾くときは前の音の減衰したレベルに合わせて弾かないと、突出した音になってしまうということだ。
・フランスの曲はフランス語を勉強するといい。語るように弾く
・フォーレでは実はあまりリタルダンドはない。
・バスが抜けたら、ソプラノもクソのようなものになる。(←これ、かなり汚いドイツ語でののしっておられましたが、通訳の方が必死でカバー。今度バスが抜けたら髪の毛ひっぱる~と言っておられました)
・コーダはサブドミナントから始まることが多い。
・実は作曲家自身も、「この曲はもひとつだ~」と感じることがあって、そういうときはやたらdolceとかdolcissimoとかの指示が増える(爆)
・楽譜のある音符に大きく〇をつけたりするのはやめましょう!意識して変に突出した音になったりするから。
・カンタービレというのは「歌うように」という意味だけれど、「歌のテクニックで弾く」という意味もある。
・パリにはいわゆる「ちょっとした愛」というものがあります。今夜ダンスして、またいつか会えたらいいね・・みたいな。そういう曲はそういうように弾く。また楽譜が売れるように、女の子たちが喜んで弾くように作られた曲というのもあります。手遊び的に作曲されたヤツ。そういうものは必死で弾かない。さらさらっと弾く。
〇モーツァルト K331 第1楽章&2楽章
・ウィーン原典版とヘンレ版とで作曲年が違っている。半分がパリで半分がウィーンで作曲された可能性がある。
・このソナタは第1楽章A-dur、第2楽章A-dur、第3楽章A-durとなっていて構成が変わっている。なので、作曲された場所や時間が異なったものを合わせて出版した可能性が否定できない。
・付点のリズムは3対1でかっちり弾く(・・幼稚園生のように??)、鋭い感じで弾く(・・フランスの某音楽院のように??)、音楽的にやわらかめに弾く、の3種類がある
・手は心の延長です
・日本とパリでは原典版を偏重するあまり、平板なモーツァルトが多くなっている。何も書いてないから何もしないというのはナマケモノだ。
・スフォルツァンドとは何か?・・アクセント?・・そういうことをきいているんじゃない!心で答えろ!Schmerz(痛み)だ。
・モーツァルトではスフォルツァンドは注意深く押す感じ
・繰り返しについては音楽的な構成を考えて決定する。すべてをやる必要はない。
・トリルでナーバスにならないためにはどうしたらいいか?数をきちんと決めておくこと!
・日本ではモーツァルトのスタカートは短かすぎる傾向がある。20%とかでなく45%以上あっていい。響く音であること。
・第4変奏の拍頭の左手にはアクセントを絶対につけてはいけない。つけないためには鍵盤にしっかり手を置いて準備してから打鍵する。
・変奏1~4が通常のソナタの第1楽章、変奏5が第2楽章、変奏6が第3楽章にあたるので、変奏5と6については繰り返しをしたほうがよい。
・連打は同じ指でやったほうが良い場合がある。
・死んだ音はひとつも許されない。
・走らないためのMedizin(薬)が欲しいか?それはなんだと思う?ちゃんとフレージングを楽譜に書き込んでおくこと!
・p(ピアノ)がmp(メゾピアノ)にしかならないのは良くない。
・昔、自分たちが使った版(ペーター版ほか)にはいろいろ書いてあって、いいモーツァルトの演奏ができた。ナマケモノにならないために原典版にもいろいろ書きこんでください(もし自分が死んだあと古本屋に売るつもりがないならね・・・)。
めちゃめちゃアクの強い巨匠で、フランスへのひと含みとか、ここには書けない某ピアニストへのチクリもあったのですけど、弾かれているときの表情や、おっしゃることはひとつひとつ沁みました。
・・・・そうか、走らないためのMedizinなのかフレージングは。トリルもちゃんと数決めとこう、っと(殴)。
1928.12.2生まれでいらっしゃいますから今年で81歳。
2年前の今頃にもレッスンの聴講をさせていただいたのですけど、レッスン生はいきなり大声で怒鳴られるわ、聴講しているほうもドキドキするわで、相当緊張度の高い時間でした。今回どうしようかなあと思ったのですけど、巨匠は、ポンポンとアメリンクとかフィッシャー・ディスカウの伴奏をされた時の話などをされるので、やはり貴重だと思い、出かけました。
今日も驚くほどお元気で、突然怒り出されたり、髪の毛をひっぱったりされてました(汗)。
いろいろなことをおっしゃってましたが、2年前と同じようにメモのまま書いてみたいと思います。
〇ブラームス 117-1
・ゆりかごというのは規則正しく揺れるのではない。左の方に少し大きくゆれる
・117-1には歌詞がついているけれど、もしついていなかったら自分でつけて歌ってみる(・・・といってもドイツ語なので、これは大変そうですが・・・)
・テンポの設定をよく考える。中間部がゆっくりならば最初はどう出るべきか?自分がこれから弾こうとするものをよく理解して弾く。
・キリスト教は、カトリックであってもエヴァンゲリストであっても音楽が必要。es-mollはいちばん哀しい調。マリアの夢、わが子が十字架にかけられたという。
・動きを大きくするのはあまりよくない。アメリンク(声楽家)は動きが大きいとそれだけで空気をたくさん使ってしまうのだ、と言っていた。
・音楽家は正しい表現をする必要がある。音価の大きいもの(つまり長い音符)を大切に。
・二度の進行が含まれている箇所ではペダルに細心の注意を払う。
・鍵盤を内面的に押す。指先の感覚を研ぎ澄ませて。
・2つ目の音は静かに。4つ目のフレーズが最も大切な場合が多い。
・アルペジオは大事に。ハープの響きのようで、歌の伴奏には適したもの。
・二重縦線につけられたフェルマータは、曲に穴をあけるのではなく流れは止めずにゆっくりするためのもの。
・細かい音符がたくさん出てくるところは少し軽くする。
〇ブラームス 118-2
・この曲はアンダンテなので、ゆりかごではなく、お母さんが子どもを抱いて歩いているように。
・(フレーズの)最高音がAであるということは、歌を意識していると考えてよい。ソプラノでは安定して歌える高さ。BやHになると少しきつくなる。
・高い音のあとは呼吸してよい。
・ルバートというのは、息の配分と考えていい。高い音にたくさん息が要った場合は低いところで足りなくなるが、それが不自然にならないように。
・スラーのあと手首で音を抜く。1センチでいい。
・アインシュタインは空間と時間は同じと言ったが、私は「響きと時間は同じところに属する」と言います。これはフィッシャー・ディスカウの伴奏をして学んだ。
・音楽的に弾けば、たとえ2台で弾いてもぴったり合うものだ。
・中間部は声楽ではなくインスツルメンタルのものだと思うが、上のメロディーがバイオリンだとすると、下はヴィオラ。繰り返しをしたあとは、ヴィオラの方を出したい。
・fis-mollはとても豊かな調。そこからFis-durに転調。天上の音楽。
・この曲の形式は、A→B→ファンタジー→Aとなっていてこのファンタジーの部分が大切。
・コーダはない。シューマンだったらさぞいいコーダを書いたと思うが、ブラームスは書かなかった。
〇フォーレ 三つの無言歌 Op.17-2&3
・フォーレの弱点:
①伴奏が単調 ②不協音がたくさん入っている ③繰り返しが多い。
・上記のような弱点がある場合は演奏が一流でないとならない(つまり曲の不出来をカバーする・・・)。不協音についてはペダルを踏むとき気をつけなければならない。
・日本人がペダルがヘタなのは、練習のとき履いていない靴をいきなり本番で履くからだ。ペダルの練習はうちでも靴をはいてやりなさい。ケンプは日本にきても靴は脱がなかったそうだ(笑)。
・ピアノの難しいところは、音が減衰すること。ということはどういうことかというと、次の音を弾くときは前の音の減衰したレベルに合わせて弾かないと、突出した音になってしまうということだ。
・フランスの曲はフランス語を勉強するといい。語るように弾く
・フォーレでは実はあまりリタルダンドはない。
・バスが抜けたら、ソプラノもクソのようなものになる。(←これ、かなり汚いドイツ語でののしっておられましたが、通訳の方が必死でカバー。今度バスが抜けたら髪の毛ひっぱる~と言っておられました)
・コーダはサブドミナントから始まることが多い。
・実は作曲家自身も、「この曲はもひとつだ~」と感じることがあって、そういうときはやたらdolceとかdolcissimoとかの指示が増える(爆)
・楽譜のある音符に大きく〇をつけたりするのはやめましょう!意識して変に突出した音になったりするから。
・カンタービレというのは「歌うように」という意味だけれど、「歌のテクニックで弾く」という意味もある。
・パリにはいわゆる「ちょっとした愛」というものがあります。今夜ダンスして、またいつか会えたらいいね・・みたいな。そういう曲はそういうように弾く。また楽譜が売れるように、女の子たちが喜んで弾くように作られた曲というのもあります。手遊び的に作曲されたヤツ。そういうものは必死で弾かない。さらさらっと弾く。
〇モーツァルト K331 第1楽章&2楽章
・ウィーン原典版とヘンレ版とで作曲年が違っている。半分がパリで半分がウィーンで作曲された可能性がある。
・このソナタは第1楽章A-dur、第2楽章A-dur、第3楽章A-durとなっていて構成が変わっている。なので、作曲された場所や時間が異なったものを合わせて出版した可能性が否定できない。
・付点のリズムは3対1でかっちり弾く(・・幼稚園生のように??)、鋭い感じで弾く(・・フランスの某音楽院のように??)、音楽的にやわらかめに弾く、の3種類がある
・手は心の延長です
・日本とパリでは原典版を偏重するあまり、平板なモーツァルトが多くなっている。何も書いてないから何もしないというのはナマケモノだ。
・スフォルツァンドとは何か?・・アクセント?・・そういうことをきいているんじゃない!心で答えろ!Schmerz(痛み)だ。
・モーツァルトではスフォルツァンドは注意深く押す感じ
・繰り返しについては音楽的な構成を考えて決定する。すべてをやる必要はない。
・トリルでナーバスにならないためにはどうしたらいいか?数をきちんと決めておくこと!
・日本ではモーツァルトのスタカートは短かすぎる傾向がある。20%とかでなく45%以上あっていい。響く音であること。
・第4変奏の拍頭の左手にはアクセントを絶対につけてはいけない。つけないためには鍵盤にしっかり手を置いて準備してから打鍵する。
・変奏1~4が通常のソナタの第1楽章、変奏5が第2楽章、変奏6が第3楽章にあたるので、変奏5と6については繰り返しをしたほうがよい。
・連打は同じ指でやったほうが良い場合がある。
・死んだ音はひとつも許されない。
・走らないためのMedizin(薬)が欲しいか?それはなんだと思う?ちゃんとフレージングを楽譜に書き込んでおくこと!
・p(ピアノ)がmp(メゾピアノ)にしかならないのは良くない。
・昔、自分たちが使った版(ペーター版ほか)にはいろいろ書いてあって、いいモーツァルトの演奏ができた。ナマケモノにならないために原典版にもいろいろ書きこんでください(もし自分が死んだあと古本屋に売るつもりがないならね・・・)。
めちゃめちゃアクの強い巨匠で、フランスへのひと含みとか、ここには書けない某ピアニストへのチクリもあったのですけど、弾かれているときの表情や、おっしゃることはひとつひとつ沁みました。
・・・・そうか、走らないためのMedizinなのかフレージングは。トリルもちゃんと数決めとこう、っと(殴)。