私が最も印象に残っていて、驚き、そして嬉しかったこと。
小学2年生になっていた自閉症の女の子。
彼女は歌がとても好きな生徒さんでした。
一度聞くとメロディーも歌詞もすぐに覚えてしまいます。
しかし、私の歌を直後からなぞるように歌い、聞いてから模唱することはできませんでした。
そこで、歌いながらグー、パーという動作をして、グーの時だけ歌うパーの時は聞くというように練習して行きました。
そうやって歌やリズムは聞くことが出来るようになりましたが、ピアノは出来ませんでした。
ピアノは真似ることは全くなく、ただガチャガチャ鳴らすだけで、私が弾くと必ず隣でガチャガチャやり始めていました。
そして、私には弾くなという素振りをし、一人で弾きたがりました。
゚・*:.。. ☆☆.。.:*・゜゚
彼女のレッスンではリトミック的なことも取り入れていました。
その日は山登りの設定で音楽に合わせ、坂道を上ったり下りたりしていました。
彼女はいつでも全力でしてくれていました。
ずっと歩いて走ってでは疲れるので、この曲が聞こえたら休みましょう、とシューベルトの子守歌をピアノで弾いた時のこと。
休憩なので、椅子に座って休むということにしました。
動いていない時に私がピアノを弾くと、いつも横からガチャガチャ弾く真似をしていました。この時もガチャガチャが始まるのだろうと思いながら弾いていました。
ところが、黙って聴いていました。
私の方がいつガチャガチャが来るか恐れ、中間部の前で1度目はやめてしまいました。
そしてまた山登りの音楽を弾きました。
彼女はまた椅子から立ち上がり、坂を上るように歩きます。
疲れてきたなと思い、シューベルトをまた弾き始めました。
椅子に座り黙って聴いていました。
彼女の様子を見つつ弾いておりましたら、結局最後まで弾いてしまいました。
最後まで弾き終えると、彼女が言いました。
「いい曲」
私がピアノを弾くのを黙って聴いてくれたのはこれが初めてです。
ある日、この曲をわざと途中で中止してみました。
そうしましたら、
「あーあ、いまジュースのんでたのに、おわっちゃった。ジュースまだのこってる」
と、言いました。
彼女からこんなに長い言葉を聞いたのは初めてでした。
そして曲が途中で終わったこともわかっている上に、何か想像しながら聞いていてくれたこと。
とても嬉しかったです。
後にシューベルトの子守歌が自閉症児に効果のある曲と知りました。
゚・*:.。. ☆☆.。.:*・゜゚
小2の夏まではほとんど笑ったことのなかった彼女が、シューベルトを聞いた頃から時々笑うようになりました。
この曲のおかげなのか、彼女が変わってきた時期とちょうど重なったのかはわかりません。