夫がどうしても行きたい雑貨屋があるというので、しぶしぶ付き合った。
なぜ、しぶしぶかと言えば、私が大嫌いな店だからだ。
16年前、私たちが新婚生活を始めた借家の近くにその店はある。
大手ホームセンターより小規模だけれど、個人商店より駐車場と店舗の規模は大きい。
私はその中途半端さが気に入らないのだけど、物は言いようで、店員とのフレンドリーな会話もできると、地元では重宝されている。
つまり、夫は後者である。
夫がまだ私と知り合う前のこと、清水に赴任してすぐ、その店でいろいろな生活必需品を揃えた。
今も、当時のものをそのまま使っている。
中でも、夫が一番のお気に入りは、炊飯器、電子レンジなどを狭いスペースで収納できるワゴン。
それと同じものを、私たち近くに引っ越してきた義母のために、ぜひ買いたいという。
「あそこの雑貨屋なら、絶対あるはずだ」と、彼はゆずらない。
店に行って、店内くまなく探してみたが置いてない。
そして、オーナー夫人のおばちゃんに訊いてみた。
「あ~、それはね、ヨ○コウで作ってたっけだよね。だけん、もう製造中止になっただよ。あれは、人気があったっけね。コンセントも差せてね、このぐらいの幅のワゴンでしょ」
身振り手振りで、ワゴンの様式から製造年数まで細かく言えるおばちゃんに、私はすっかり見入ってしまった。
生き字引ならぬ「生きカタログ」みたいに、製品のことがしっかり頭に入っている。
よく動く口元には、何本もの縦じわが通っていて、たぶん年齢は70代半ばくらいかな。
その世代の女性にしては背が高く、158cmの私がちょっと見上げるくらい。
背筋がすっと伸びていることもあって、おばあちゃんなんて言葉が似合わない。
「せっかく来てくれたに、悪いっけねぇ」※
ひとしきり説明が終わると、おばちゃんはほんとに申し訳なさそうに、そう言った。
そんなおばちゃんの応対に、夫もあきらめがつき、車に乗り込んだ。
彼には残念な結果だったけれど、私はなんだか心が浮きだっていた。
「すごい販売のプロだよねー。長年の経験っていうだけじゃなくてさぁ、スーパーおばちゃんだよねぇ」
私はつい先日、大手家電店でパソコンを購入したのだけど、そのときの販売員の間違ったいい加減な説明のために、セットアップに手間取ってしまったことを思い出した。
大手ホームセンターもあちこちに出店しているけれど、そこに押されず、地域の人々に愛され続けている店である理由がよくわかった。
おばちゃん、今まで毛嫌いしていてごめんなさい。
今度、欲しいものがあったら、真っ先に行くね。
※「せっかく来てくれたに…」は、「の」が抜けているのではなくて清水弁です。
なぜ、しぶしぶかと言えば、私が大嫌いな店だからだ。
16年前、私たちが新婚生活を始めた借家の近くにその店はある。
大手ホームセンターより小規模だけれど、個人商店より駐車場と店舗の規模は大きい。
私はその中途半端さが気に入らないのだけど、物は言いようで、店員とのフレンドリーな会話もできると、地元では重宝されている。
つまり、夫は後者である。
夫がまだ私と知り合う前のこと、清水に赴任してすぐ、その店でいろいろな生活必需品を揃えた。
今も、当時のものをそのまま使っている。
中でも、夫が一番のお気に入りは、炊飯器、電子レンジなどを狭いスペースで収納できるワゴン。
それと同じものを、私たち近くに引っ越してきた義母のために、ぜひ買いたいという。
「あそこの雑貨屋なら、絶対あるはずだ」と、彼はゆずらない。
店に行って、店内くまなく探してみたが置いてない。
そして、オーナー夫人のおばちゃんに訊いてみた。
「あ~、それはね、ヨ○コウで作ってたっけだよね。だけん、もう製造中止になっただよ。あれは、人気があったっけね。コンセントも差せてね、このぐらいの幅のワゴンでしょ」
身振り手振りで、ワゴンの様式から製造年数まで細かく言えるおばちゃんに、私はすっかり見入ってしまった。
生き字引ならぬ「生きカタログ」みたいに、製品のことがしっかり頭に入っている。
よく動く口元には、何本もの縦じわが通っていて、たぶん年齢は70代半ばくらいかな。
その世代の女性にしては背が高く、158cmの私がちょっと見上げるくらい。
背筋がすっと伸びていることもあって、おばあちゃんなんて言葉が似合わない。
「せっかく来てくれたに、悪いっけねぇ」※
ひとしきり説明が終わると、おばちゃんはほんとに申し訳なさそうに、そう言った。
そんなおばちゃんの応対に、夫もあきらめがつき、車に乗り込んだ。
彼には残念な結果だったけれど、私はなんだか心が浮きだっていた。
「すごい販売のプロだよねー。長年の経験っていうだけじゃなくてさぁ、スーパーおばちゃんだよねぇ」
私はつい先日、大手家電店でパソコンを購入したのだけど、そのときの販売員の間違ったいい加減な説明のために、セットアップに手間取ってしまったことを思い出した。
大手ホームセンターもあちこちに出店しているけれど、そこに押されず、地域の人々に愛され続けている店である理由がよくわかった。
おばちゃん、今まで毛嫌いしていてごめんなさい。
今度、欲しいものがあったら、真っ先に行くね。
※「せっかく来てくれたに…」は、「の」が抜けているのではなくて清水弁です。