昨日、女房がフラメンコの練習場を1時間借りたので練習に行くという。
4月に公演があるので、彼女は張り切っている。
おれに行かないか、という。
スタジオ・トリアーナのあるところは、西武新宿線の新井薬師駅なので、私
の住む新所沢駅から一本です。
電車の中で女房はうれしそうだった。私は、毎日仕事に追い立てられている
ので、日曜日ぐらい家でのんびりしていたかったが、せっかく彼女が「行こう」
というので、一緒に行くことにした。
スタジオ・トリアーナは、駅を降りて5分ほど歩いたところにあった。地下
に降りる階段は細く汚かった。鍵が郵便受けの中にあった。先生が朝のうちに
入れといてくれた、と女房がいう。ドアのノブは壊れていてなかった。女房は、
楽しそうに鍵を開け、そのノブの取れた穴に指を入れてドアを引いた。
「ここが、今私が一番楽しめるトコよ」
私は、女たちの秘密の場所に忍び込むような気分だった。毎夜ここに女たち
が集まって、異国のダンスを踊っているのだ。
玄関から上がったところにテーブルがあり、それを挟んでふたつのソファが
あった。壁には、フラメンコのポスターやこれまでの公演の後に撮った写真が
小さな額に入って何枚かあった。ひとつのソファに坐ろうとしたら、
「そこは、先生の坐るところだからダメ」
と、女房にいわれてしまった。
もうひとつのソファに坐って、私は煙草を吸った。テーブルの上には、大皿
のような灰皿があった。ルージュのついた吸い殻が何本かあり、妙に生なまし
い感じがあった。
女房は、さっさとスタジオの隅で着替え、私のところに来て床に坐りヴォー
グを1本吸った。そして、駅前の自販機で買ってきた缶コーヒーをうまそうに
飲んだ。
煙草を灰皿に捨て、女房は練習を始めた。
私は、持ってきた周五郎の「柳橋物語」の文庫本を開いた。
鏡にうつる女房の姿を、別人を見るような気持ちで一瞥し、物語の世界に入
った。
女房の床を打ちならす靴の音を遠くに聞きながら、活字を追う。
持ってきたデジタルカメラを出す。なんか直接撮る気分になれず、鏡越しに
シャッターを切った。5、6枚撮って、また本を読んだ。
おれたち変な夫婦だな、と思った。
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