唐史話三眛

唐初功臣傳を掲載中、約80人の予定。全掲載後PDFで一覧を作る。
その後隋末・唐初群雄傳に移行するつもりです。

遺表

2006-09-02 08:42:35 | Weblog
「おい、後はどうなるんだ」

「爺さんなにも書き残してないぜ」

「突然苦しみだして死んじまって、でそれどころじゃなかったんだよ」

「こまるな、なにもなしでは兵士が納得しないぞ」

「痛くもない腹をさぐられたらかなわないしな」

「楚に書かしたらどうだ」

「そうだ! 名案だな、すぐ呼べ」

河東節度使鄭儋が急死した。

節度使が突然死ぬと大騒ぎである。

特に現在の幹部にとっては一大事である。

儋の遺言というものがなければ困るのだ。

名文家で知られる令狐楚が寝床からたたき起こされてつれてこられた。

「おい朝廷に送る文と、兵達への告示を適当に書いてくれ」

「もう騒動が起きかけている、明朝の集会に間に合うようにな」

「俺たちの立場を考えて書いてくれよ」

諸将はてんでに勝手なことを言い、楚に迫った。

「まあ、待ってください、文章はすぐ書けるというものではないんですよ」

文盲の軍人達を制して、楚は用具を揃えた。

そして一気に遺表を書き上げた。

明朝、將士の集会で遺表が読み上げられた。

將士は皆感泣し、軍情はたちまちに静まり朝命を待つことになった。
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