そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「貧困のない世界を創る」 ムハマド・ユヌス

2009-01-31 00:52:46 | Books
貧困のない世界を創る
ムハマド・ユヌス
早川書房

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世界の最貧国の一つバングラデシュでマイクロクレジット事業を行うグラミン銀行の創始者であり、その功績により2006年ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏の著作。

グラミン銀行のマイクロクレジット事業の詳細について解説するような内容かと想像していましたが、グラミン銀行およびグラミン・グループの事業内容についてダイジェスト的に紹介されるのみ(唯一ダノンとの合弁のヨーグルト事業については立ち上げの経緯が詳しく紹介されていましたが)で、基本的にはユヌス氏の提唱する「ソーシャル・ビジネス」という哲学が繰り返し熱く語られています。
その意味で、読み物としてはやや冗長な気もしましたが…

氏のいう「ソーシャル・ビジネス」とは単なるチャリティーや慈善事業とは異なり、あくまで利益を出すビジネスであるが、利益を最大化することが目的ではなく、事業を通して世の中に貢献することが目的であり、生み出された利益は投資家に分配されず全て再投資に回される、というもの。
氏は、「利益を最大化する」ことを人間の行動の動機とする、資本主義経済における「一次元的な」見方を否定し、人間には「人々と世界に対して良い行いをする」モチベーションが備えられており、そのことこそが将来的に「ソーシャル・ビジネス」が世界中で発展するための礎になると信じているといいます。
この哲学には非常に共感するものがあるんですが、それを実際の行動として現すことはなかなかできない。
それはきっと豊かで平和な日本に暮らしていると、克服すべき貧困の存在を実感することが難しいからかもしれません。
もちろん日本にも貧しい暮らしをしている人がいるでしょうが、バングラデシュやその他の途上国において現存する貧困とは、おそらく質も量も比べものにならない。
綺麗事でなく、そのことをどうしたら肌に感じることができるのか、常に考えていかねばならないと思いました。

細かいところで感銘を受けたのは、グラミンがその事業目的の達成度合いを測るために、非常に具体的な指標を設けて評価していることです。
グラミン銀行では、生活水準にたとえば次のような指標を設け、ある家族がそれら全ての指標をクリアしたことを以て、貧困からの脱出を果たしたと評価する仕組みを採っているとのことです。

1 銀行のメンバーとその家族が、トタン葺きの家か、少なくとも25,000タカ(およそ370ドル相当)の価値がある家に住んでいること。家族たちが、床ではなく、簡易ベッドか寝台に寝ていること。
2 メンバーとその家族は掘り抜き井戸、沸騰させた水、あるいはミョウバンや浄化タブレット、ピッチャーのフィルターを使って浄化した、砒素を含まない水を飲んでいること。
3 身体的、精神的に適格な6歳以上の、メンバーのすべての子供たちが、小学校に通っているか、卒業していること。
…etc

 利益(金額)ではその成果を測ることのできないソーシャル・ビジネスであるだけに、このように極めて具体的な指標を以てその成果を測っていくことは、非常に重要だし、参考になるなあと思いました。

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