天然ガスが日本を救う 知られざる資源の政治経済学石井 彰日経BP社このアイテムの詳細を見る |
著者は天然ガスを「知られざる実力者」と表現しています。
近年、東シベリアなど日本近隣地域を含め世界的に大規模ガス田が見つかり埋蔵量の面でのポテンシャルが有望で、且つCO2排出の面でも天然ガスはかなりの優等生であるとのこと。
「クリーンエネルギー」というと日本では太陽光発電だとか風力発電などがまず話題に上るわけですが、これらは話題性はあっても広く実用化するにはまだまだ技術的なハードルが高い。
CO2排出を抑えるという点では優れている原子力利用も推進するには政治面での壁がある。
それよりも(現状日本では存在感が薄くても)欧米では利用が伸びている天然ガスのプレゼンスを高めるべきだと主張されています。
天然ガスの他のエネルギーと比べての特徴は、輸送にコストがかかること。
常温では気体なので、長距離を輸送するにはパイプラインが必要になります。
欧米では基幹パイプライン網が発達している一方、日本での天然ガス利用はをLNG(液化天然ガス)の輸入が以前より中心になっていました。
LNGはタンカーで輸入されるわけですが、日本の場合、港湾から内地へとガスを送る国内のパイプライン網も未発達(韓国ではかなり発達しているそうです)で、その要因としては日本ではガス会社の供給地域が細分化され、広域をカバーする大規模ガス会社が存在しないことが挙げられています。
固定的なパイプラインによる輸送という制約があるため、天然ガスの市場は現状石油のようにはグローバル化しておらず、相対での取引が中心になっているとのこと(今後はそのあたりも事情も変わってゆきそうだとのことですが)。
物理的に取引相手を変えることが困難であるがゆえ、天然ガスの国際取引においては売る側も買う側も相互依存を高めざるを得ない。
最近、ロシアがウクライナ向けの天然ガス送出をストップさせ欧州への天然ガス供給が滞ったという話題がロシアを「悪役」に据える形で報道されましたが、著者に言わせれば、上のような事情を勘案すると、ロシアが一方的なバーゲニングパワーを持っているかのような捉え方はナンセンスで、西側メディアのプロパガンダ的側面が強いということです。
この辺は目からウロコでした。
個人的に、サハリンでの天然ガス開発の件や日本付近の海底に眠るメタンハイドレートの件などのニュースには関心があったんですが、詳しいことはまったく分かっていなかったため、読んでみた次第。
著者いわく、おそらく、日本で一般向け、特に一般ビジネスマン向けに書かれた最初の天然ガス啓蒙書、とのことですが、確かに自分も含めて世間ではこの本に書かれているようなことはほとんど知られておらず、その一方でもっと世間一般に知られるべきものであるということを再認識しました。
それにしても、日本でここまで天然ガスについての関心が高まらない理由って何なんでしょうかね?
本の中でもちょっと触れられてたけど、原子力利用を推進したい勢力の政治圧力とか影響してるんでしょうか。