墜ちてゆく男ドン デリーロ新潮社このアイテムの詳細を見る |
今年もまた「9・11」がやって来る。
あれからもう8年。
時の経つのは早いものです。
これまで、映像や文字のメディアで、9・11同時多発テロを扱った作品における米国市民の嘆き、悲しみ、怒りに多々触れてきましたが、その度に、その絶望に共感する一方、日本人である自分には彼らにどこか同化しきれない「距離感」を感じるのも正直なところでした。
その「距離感」は、社会の歴史の違いからもたらされるものかもしれないし、宗教観の違いからくるものかもしれないし、単に「他所の国の出来事」であったからなのかもしれません。
あの事件を直に体験し、事件を境に変わっていく一つの家族の物語を描いたこの小説を読んでも、やはりこれまで度々味わってきた「距離感」を覚えずにはいられませんでした。
その一方で、矛盾する話ではありますが、彼ら米国市民が味わった絶望的な悲しみを、この小説を読むことで「擬似体験」できた気もする。
けっして解りやすい小説とは言えないけど、その解りにくさの分だけ、そして、一つの家族に焦点が当てられているがゆえ、この「擬似体験」は可能になったように思えるのです。
すぐれた小説であることは間違いないと思います。
一点だけ、途中途中でテロリスト側のイスラム青年を描くパートが挟まれるのは、個人的には余計なもののように感じました。