ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書) | |
石田 勇治 | |
講談社 |
Kindle版にて読了。
1930年代のドイツに、突如現れたヒトラーとナチ党。
世界に冠たる文明国の民衆は、民主主義を完全否定し、徹底したレイシズムにより人類史上稀に見る大虐殺を犯すことになるこの政権が権力を完全掌握することを、何故許すことになったのか。
この納得しがたい事実について、ぜひ一度体系的に学びたいと予々思っていたため手に取ってみた次第。
よくまとまっていて一通り理解することができた。
ヒトラーとナチ・ドイツの台頭と権力掌握には、当時の社会的背景が要因として働いた。
そしてその社会情勢に、ナチの採った手法が不幸なことに嵌ってしまった。
社会的要因として挙げられるのは大きく二点。
第一に、当時ヴァイマール共和国の議会政は空洞化し、既に民主制は事実上瓦解していたこと。
ヒンデンブルク大統領は、議会による立法ではなく、大統領緊急令により政治を動かしており、ヒトラー政権樹立後、授権法や国民投票法を通じてナチが合法的に独裁体制を作り上げる素地が存在した。
当初、ヒトラーに対する期待は大きなものではなかったが、民衆の間に「多少の自由の制限は仕方がない」といった全体主義体制を許す感覚が存在し、その暴走を許すことになった。
第二に、ヒトラーが終生立脚することとなった反ユダヤ主義への共感がドイツ社会に存在したこと。
第一次世界大戦の敗戦で社会的苦境に陥る中、ユダヤ人を悪者にしてその憂さを晴らそうとする風潮が受け容れられやすかった。
一方で、ドイツ国民全体に占めるユダヤ人の割合は小さく、ドイツの一般民衆にとって、迫害されるユダヤ人は自分事として受け止められづらかった。
そして、ヒトラーとナチが採った手法の特徴として留意すべきは大きく三点。
一つ、(社会的要因の第一点目のところで書いたとおり)合法的なプロセスを経ることにより独裁体制を築いたこと。
二つ、突撃隊や親衛隊といった暴力を使って、反対勢力を徹底的に壊滅させたこと。
三つ、プロパガンダを巧みに活用したこと。
ヒトラー自身、演説の名手であったし、アウトバーン建設に代表される社会事業や「強いドイツ」を示威する外交を自らの手柄として徹底的に訴求したり、ロシア革命と共産化の脅威といった外憂を「ユダヤの陰謀」として説明するギミックに長けていたこと。
若干粗いかもしれないが、自分なりにまとめてみると上記のようになる。
それにしても強く印象づけられるのは、ヒトラーという人間の思想・行動を、反ユダヤ主義が貫いていたことだ。
皮肉なことに、「世界のユダヤ人の砦である米国をユダヤ人とともに倒す」ことを目的とした対米開戦こそが、ヒトラーの命脈を絶つことになる。
サヨクな人々を中心に、今の日本の安倍一強政権をナチ・ヒトラーになぞらえる向きがある。
(そういえば麻生サンの「ナチスに学ばなければならない」発言なんてのもあったな)
果たして安倍ちゃん一派がナチ的な独裁政権への道を歩むなんてことが現実的にあり得るのだろうか。
上述の歴史と比べてみれば、恐れるほどの類似性は感じられない。
確かに、安倍ちゃん一派に、自分たちに都合の悪い言論を強権的に封殺しようとする悪い癖があるのはちょっと気持ちが悪いが、レイシスト的傾向はほとんど感じないし、安倍ちゃんにヒトラーのようなカリスマ的弁舌の巧さがあるわけでもない。
むしろ、日本の一般社会側に全体主義を迎え入れようとするモメンタムが生じることのほうが危険かも。
現状では、ごく一部の人間を除き、日本の社会全般はレイシズムに傾倒することのない理性を保っているが、残念なことに中国とか北朝鮮とかヤバい動きをする国に周囲を囲まれているので、その動向次第では一気に排外主義に倒れていく危険性はあるような気がする。
歴史から学ぶべきはそのあたりだろうか。