そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『役員になる課長の仕事力』 綱島邦夫

2017-01-15 22:42:58 | Books
外資系経営人材開発コンサルが教える 役員になる課長の仕事力 グローバル時代に備える思考術・行動術
綱島 邦夫
日本能率協会マネジメントセンター


著者は、野村証券からマッキンゼーを経てヘッドハンターやコンサルタントとして実績を重ねた人物で、経営人材開発を専門分野としている。
この本では、いわゆる課長層、即ち現場のミドルマネジメント層を対象に、将来経営人材として開花するための「必要条件」「十分条件」「プラスアルファの視点」が説かれている。

まず、経営リーダーとして活躍するための「必要条件」として、個人が磨くべき資質が4点挙げられている。
・達成志向性:能率と生産性にこだわること、具体的には、会議時間を半減し、無駄な資料を作らず、定時に帰宅することが推奨される
・分析思考力:現場の要点となる事象を見抜く「蟻の目」を鍛えること
・概念思考力:世の中の動きを大局的に捉える「鷲の目」を鍛えること
・チーム・リーダーシップ力:高い目標を継続的にクリアしていく「仕組み」をつくること

この中で、「鷲の目」を鍛える概念思考力にもっとも力点が置かれている。
いわゆる3Cの観点などを基にした「戦略的思考」は、短期的な思考なので脱却すべきと書かれているところが面白い。
身につけるべきは「システム思考」、連鎖の構造、好循環と悪循環、ボトルネックの発見、指数関数的成長の脅威、短期の成功がもたらす長期の失敗、等を見抜く目を鍛えよ、と説かれる。
そのためのトレーニングとして、ワールドニュースを見よ、年間200冊の読書をせよ、異業種の人脈を作れ、といった手法が推奨される。

次に、将来経営リーダーとして活躍するために挑んでほしい「十分条件」として組織開発に関わる観点が4点挙げられる。
・「組織能力」をつくる:生産性の向上を仕組み化する、ルールではなく原則で判断する仕組み化を行う、属人性を廃した意思決定プロセスをつくる、第一線のマネージャーのリーダーシップ能力や顧客視点での想像力を開発する、人材の多様性を優れた判断と実行に生かす
・「個々人の力量」を強くする:意志力・構想力・リーダーシップ力を育てる、
・「業務プロセス」をつくる:顧客や市場に価値を創造するのプロセス、計画と管理のプロセス、メンバー育成と組織風土開発のプロセス、リスク管理のプロセス、そして作り上げたプロセスを自組織外に発展(横展開)させる
・「組織活力」をつくる:社員のエンゲージメント(貢献心)を喚起する、仕事をする環境を整える

「組織能力」は「個々人の力量」「業務プロセス」「組織活力」の関数である、という関係にあり、その真髄は「業務プロセス」にあるとされる。
「個々人の力量」を向上させるためのトレーニングとして、一人でビジネスプロセスのすべてを担う場に身を置く(子会社への出向など)、事業・機能・地域を超えた異動を経験する、そのような「場」の体験と研修の相乗効果を図ることなどが紹介されているが、「必要条件」に比べると抽象的な記載で概念だけが掲げられている感。
観点は示すので、あとはそれぞれの業務に照らして考えよ、ということだろうが、もう少々ブレイクダウンしてくれるとイメージが解りやすかったかな。

最後にプラスアルファとして、グローバル化するビジネス社会において、何を知り、備えなければならないのか、グローバル経営において必要となる資質についてのヒントが語られる。

著者に言わせると、グローバル化とは、徹底的に能率にこだわること。
だが、能率一辺倒でベストプラクティスを推進していけばよいかと言えばそうではなく、グローバルという全体を見ながら顧客や地域ごとの部分も見ていくという「マトリクス運営」の視点が必要とされる。

そして、グローバルに事業拡大していくにあたっては、M&Aという手段を採ることがが当たり前の時代となっている。
M&Aで新たな人材を取り込み、人材多様化を受け止めてその力を最大限に発揮していくことが求められる。
そのための業務プロセス構築の要点は、職務要件と能力要件を記述し実力主義を貫徹することであると。

最後に、教養を身につけ、自分の頭で考えるために学習し続ける習慣の大切さが強調され、15冊の推薦図書が示されている(筆頭は大前研一氏の『企業参謀』)。

「目線を高くせよ」とはよく言われることだが、じゃあ実際どのあたりに目線を置けばよいの?という疑問に対して、一つのガイドラインを与えてくれる一冊です。
ただ、「年間200冊の読書」「ワールドニュースを見よ」を除くと実践的なことが殆ど書かれておらず、あんまり鵜呑みにするとインプットばかりで満足してしまうリスクがありそう。
コメント
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