そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

『よくわかる人工知能』 清水 亮

2017-01-19 23:23:24 | Books
よくわかる人工知能 最先端の人だけが知っているディープラーニングのひみつ
清水 亮
KADOKAWA


Kindle版にて読了。

今や空前のAIブームだが、様々な分野において人工知能、とりわけディープラーニングの最前線を突き進んでいる研究者や実業家などのエキスパートたちに、プログラマー界のエバンジェリストである著者が対談を挑む。
いやー、知的興奮を掻き立てられて、とんでもなく面白い。

まず、著者が、「大人の人工知能」と「子供の人工知能」という区別を解説する。

人工知能と呼んだ場合、実は大きくわけて2つの流派があります。ひとつは、思考とはなにか?知識とはなにか?という根源的な問いから出発し、記号処理を組み合わせて人間が話す言葉の意味を理解し、推論することができる理性の集合体としての知能を再現するというアプロ ーチです。本書ではこれを〝大人の人工知能 〟と呼ぶことにします。

もうひとつは、ノイマンのセル・オートマトンやマカロックとピッツの人工ニューロンのように、まず深く意味は考えずに生物の細胞構造や神経細胞構造をそっくり真似する架空の生命体をコンピュータの中に作り出し、理性ではなく本能的な学習を繰り返して生物の持つ知性を再現しようというアプロ ーチ。機械学習などと呼ばれます。本書ではこれを〝子供の人工知能 〟と呼びます。


ディープラーニングは後者に該当する。

「大人の人工知能」は、人間がまさに「人工的に」知能を作り込むイメージ。
一方、「子供の人工知能」は、人間が環境を与えて人工知能を「育てる」、或いは人工知能が自ら「成長する」イメージ。

人間のアナロジーで捉えるならば、後者のほうが親しみが沸くし、想像力を掻き立てられる。
ディープラーニングが今注目されているのは、そうした理由もあるのかもしれない。

そして、「子供の人工知能」を研究していくと、人間の知能(脳)そのものの解明へとブーメランのように還流が生じる。

「受動意識仮説」を提唱する、前野隆司・慶応義塾大学大学院教授との対談が個人的には一番興味深かった。

人間の脳には「自由意志」という司令塔みたいなものがあると思われているが、そんなものは存在しない、意識は、起きてしまったことについて「後付け」で辻褄を合わせるだけの存在だ、という説。
意識は、脳に入ってくるたくさんの情報を選択的に起きたことを長期的に記憶するように記号化する。
著者(清水氏)はそれを「圧縮装置」と捉え、前野氏は「並列を直列に変換する装置」と捉える。
意気投合して、対談はどんどんと盛り上がっていく…

その他にも、『人工知能は人間を超えるか』の松尾豊氏の、人工知能は「原理のある話」の世界のものであり長い進化の過程のなかで作り込まれてきた生命としての自発的な目的を持つようなことはあり得ない、という話だとか。
元トヨタのエンジニア岡島博司氏の、自動運転に判断ロジックを入れることの倫理的難しさの話だとか。
人工知能に決定的に足りていない「ホルモン的な要素」を研究している慶応義塾大学・満倉靖恵氏の話だとか。
スーパーコンピュータを開発しているベンチャー企業の経営者・齊藤元章氏の、人工知能が、いま我々がやれていることを代替することよりも、人間ができないレベルの高次な知的な労働や生産、創造性すらも置き換えることのほうがはるかに大事だという話だとか。

とにかく知的刺激にあふれた話題が満載。
これを読んでいると、この世界、技術云々よりも「発想」が勝負なのだなという気がしてくる。
コメント
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