そもそも論者の放言

ミもフタもない世間話とメモランダム

「デンデラ」 佐藤友哉

2009-09-11 23:00:07 | Books
デンデラ
佐藤 友哉
新潮社

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設定は抜群に面白い。
陰湿な共同体のルールに、無批判に思考停止したまま生きてきた主人公が、想像だにしなかった異世界に放り込まれることで生じる精神の葛藤…という深い人間ドラマ、心理劇を出だしでは期待させられたのだけれど、底の浅いエンターテイメントに終始してしまったのが極めて残念。

この小説もまた描写が過剰だなあ、と思う。
特に、羆(ひぐま)の主観パートまで設けられているのには辟易で、どうしてこんなに「わかりやすさ」が志向されるのか理解に苦しむ。

主人公・斎藤カユという異分子がデンデラの住民になるやいなや、次から次へと災難が降り注ぐというのも、如何にもご都合主義で。
もちろん、フィクションなんだからご都合主義でも一向に構わないのだれど、そのことを忘れさせるくらいの文学的魅力が伴われていないと興醒めしてしまう。
斎藤カユの造形にしても、『村』で受動的に人生を歩んできたというプロフィールと、そのハードボイルドな言動がまったく親和していない。

疫病騒動に興奮した老婆たちが狂っていく件りの描写などは悪くない。
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国家は主体ではない

2009-09-10 23:40:26 | Economics

本日付け日経新聞朝刊「大機小機」はなかなかの名文だったので、以下引用。
筆者は「カトー」氏。

民主党政権の目玉のひとつは国家戦略局構想である。そこで追及されるべき国家戦略とは何か。
戦略とはもともとは軍事用語である。それが転じて経営その他に用いられ、今では「主要かつ全体にかかわる目標を達成するための行動計画ないしは政策」として使われている。
ここで間違えてはいけないのは、国家は軍隊や企業とは異なるということだ。政府が命令をすれば何でも思い通りにいくわけではない。国家を軍隊あるいは企業のように運営しようとした苦い歴史を忘れてはならない。

<中略>

なお、城山三郎「官僚たちの夏」のリバイバルにみられるように、日本では産業政策への郷愁が強い。企業競争力戦略を産業政策と同一視する論者もいる。だが、産業政策はありていに言えば「えこひいき」政策だから、まずは特定の利益を優先する。その後全体の利益につながる可能性がゼロではないとしても、少なくとも日本の産業政策が成功したという実証的証拠はほとんどないのが実情だ。

世論調査で「政府に期待すること」との問いに「景気回復」との答えが多いことに、いつもどこか違和感を覚えます。
政府ができるのは景気を回復させるための前提条件を整えることだけであり、景気回復を実現する「主体」にはなり得ない。
「主体」たり得るのは、我々国民一人一人しかありえないはずなのに。
高度成長の亡霊は実にしぶとい。

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若林

2009-09-08 22:47:51 | Politcs
自民、首相指名は若林氏 「白紙」回避で苦肉の策(共同通信) - goo ニュース

…誰?

って思った人が全国に2千万人くらいいそうですな。
今やオードリー若林のほうが知名度ありそうですが。

っていうか、どうでもいいじゃん。
今やズタボロになった自民党議員が誰に投票しようが白紙投票しようが。
バカみたい。
こんなことが毎日毎日報道されていること自体、マスコミも含めたこの国の政治風土の貧困を現わしているように感じる。

マスコミも、自民党の一党体制が骨の髄まで染み込んでるんでしょうね。
何十年も自民党内の派閥抗争、合従連衡の政局報道ばっかりしてきたから、そのスコープを離れた取材もできなければ記事も書けない。
そういうのも含めて、旧体制が一度ぶっ壊れるいい機会でしょう。
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東アジア・サプライチェーン変革の必要性

2009-09-07 22:25:43 | Economics

本日付け日経新聞朝刊「月曜経済観測」黒田東彦・アジア開発銀行総裁のインタビュー記事から、以下メモ。

「過去10年間で東アジアに巨大なサプライチェーンが出来上がった。いわば中国が大工場で、日本は様々な資本財を供給してきた。韓国とASEANは部品など中間財を中国に輸出する役割だった。ありとあらゆる製品が中国で完成品となり米欧で消費されてきた」
「中国経済が回復すれば、日本の輸出が再び伸びると誤解していないか。米欧の家計が変わる中で、東アジアは従来なままの供給連鎖を維持できない。中国内で生産する企業は肌で感じているが、日韓やASEANは中国経由で影響を受けるため、変化の本質を見逃す恐れがある」

指摘の点は確かに誤解しやすいですね。
中国向け輸出がいかに活況であっても、従来、その最終消費地は結局米欧だった。
米欧の過剰なまでの消費が元に戻らないと仮定すると、その代替消費地を新興国に求めるしかない。
新興国で「売れる」ものを供給するような構造に日本の産業は生まれ変わることができるか。

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点を取るための意思と作法

2009-09-06 00:15:31 | Sports
日本完敗、オランダに0―3…サッカー(読売新聞) - goo ニュース

結果や試合内容は取りあえず置いておいて、オランダ代表と日本代表の何が違うかがよく分かった試合でした。

前半、日本が優勢に試合を進め、オランダが殆どチャンスらしいチャンスを作れなかった時間帯においてすら、オランダにペナルティエリア付近まで攻め込まれると、何故か点を取られるような雰囲気を感じてしまう。
逆に日本が華麗なパス回しでオランダゴール前に幾度迫ろうとも、点が入る雰囲気が一向に出てこない。
その雰囲気が現実化したのが後半、という気がします。

FWに限らず攻撃的ポジションにいるオランダ代表の選手たちには、ここぞというチャンスに一斉に相手ゴールにシュートを放り込むことに対する強い意思と作法が身に付いており、逆に日本の選手たちにはそれが無いという印象。
単に「決定力不足」の一言では括れない、意思と作法の違い。
この差を埋めるにはまだまだ10年、20年かかりそうだなあ。

自分は、岡田さんは有能な監督だと思っていますが、真面目でマトモな人だから、今のままどんなに頑張っても今日の試合の前半が限界なのかなあ、という気はします。
もし本当にワールドカップでベスト4とか実現するには、上記のように10年、20年かけて点を取る意思と作法を浸透させるか、突拍子もないことをやってのける”策士”を監督に据えるか、どっちかしかないように思います。
後者のやり方も一度見てみたいんだけどなあ。
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「堕ちてゆく男」 ドン・デリーロ

2009-09-04 23:50:25 | Books
墜ちてゆく男
ドン デリーロ
新潮社

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今年もまた「9・11」がやって来る。
あれからもう8年。
時の経つのは早いものです。

これまで、映像や文字のメディアで、9・11同時多発テロを扱った作品における米国市民の嘆き、悲しみ、怒りに多々触れてきましたが、その度に、その絶望に共感する一方、日本人である自分には彼らにどこか同化しきれない「距離感」を感じるのも正直なところでした。
その「距離感」は、社会の歴史の違いからもたらされるものかもしれないし、宗教観の違いからくるものかもしれないし、単に「他所の国の出来事」であったからなのかもしれません。

あの事件を直に体験し、事件を境に変わっていく一つの家族の物語を描いたこの小説を読んでも、やはりこれまで度々味わってきた「距離感」を覚えずにはいられませんでした。
その一方で、矛盾する話ではありますが、彼ら米国市民が味わった絶望的な悲しみを、この小説を読むことで「擬似体験」できた気もする。
けっして解りやすい小説とは言えないけど、その解りにくさの分だけ、そして、一つの家族に焦点が当てられているがゆえ、この「擬似体験」は可能になったように思えるのです。
すぐれた小説であることは間違いないと思います。

一点だけ、途中途中でテロリスト側のイスラム青年を描くパートが挟まれるのは、個人的には余計なもののように感じました。
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懲罰がもたらす意図せざる結果

2009-09-03 23:48:15 | Society

kmタクシーの事業許可取り消し 運転手過労の対策不足(朝日新聞) - goo ニュース

運転手の過労への対策不足が発覚した国際自動車(東京都港区)について、国土交通省関東運輸局は2日午前、事業許可を取り消した。大手タクシーの許可取り消しは初めて。同社のタクシー321台とハイヤー589台は12日から営業できなくなり、2年間は許可の再申請もできない。

従業員酷使に対する懲罰的な行政処分ですが、結局営業台数が減る分だけ職が減るという結果をもたらすだけのように思います。

同社の菅原信一社長は記者団に「厳正に受け止める。運転手約1450人の雇用先の確保に努める」と語った。今後も営業を続けるグループ会社には約2300台の「km」ブランドのタクシーがあり、多くはこれらの運転手として吸収していく。グループはすでに新規採用を止めており、1~2カ月で調整がつく見通しという。

…とあるけど、本当に雇用を確保できるのか?
確保できたとしても、新規採用が無くなった分、マクロで見れば失業率悪化につながるわけで、結局割を食うのは労働者ということになりますね。
会社に懲罰を与えるというのは社会感情には適合するかもしれないけど、結果的には事態を悪化させる、意図せざる結果をもたらすことになっちまいます。
なんかもう少しよい方策がないものか。
すべてを行政が監視しようとするとコストがかかり過ぎてしまうし。

もっと早い段階から評判メカニズムが働くような仕組みになるといいんですけどね。
悪徳タクシー会社は客も減るし、従業員も逃げていく。
そんな仕掛けができるとよいと思いますが・・・

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敗戦の弁

2009-09-02 23:01:06 | Politcs

外交・安保持ち越し=3党連立協議スタート-新型インフル対策は一致(時事通信) - goo ニュース

政権交代して一番頭痛いのが、これなんだよね。
だって、みずほちゃんや静香ちゃんが入閣しちゃうかもなんでしょ。
考えただけで憂鬱になってくるなあ…

自民党はなぜここまで堕ちたのか、についての分析もいろいろと語られてますね。
ダイヤモンド・オンラインの山崎元氏の考察は、ごもっともだなぁと思いました。

民主党政権に望みたい「小さな政府、大きな福祉」(山崎元のマルチスコープ)-ダイヤモンド・オンライン

で、ボロボロになった当の自民党議員たちもいろいろと敗戦の弁を述べているわけですが、麻生首相の敗因分析などまったく的を射ておらずこれじゃあ負けるわけだ、という感じだった一方、もっとも本質を衝いていて意外だったのが、野田聖子消費者相。

「初心に帰って」比例復活の自民大物、疲労濃く(読売新聞) - goo ニュース

やはり比例復活した消費者相の野田聖子さん(48)は、一睡もしないまま、昼前から岐阜市の事務所で記者会見。「麻生政権ではなく自民党にNOと言われた結果だと思う。森政権の時に問題が起きたが小泉政権に変えて延命した。ただ、それは終わりの始まりだった」と話した。

実はこの人、よく分かってたんですね。
見直しました。

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