新古典派経済学においては、市場均衡と最適な資源配分という信仰を正当化する目的に沿って、その都合に合うような数学モデルを構築してきた。それに対して宇沢の場合、新古典派モデルの現実との乖離を批判し、市場経済が生み出す受給ギャップの拡大という不均衡や、低所得者の増加による社会的不安定性という現実に存在する問題点を説明するために数学モデルを使ってきた。
宇沢は、農産物のような特質をもつ財を、市場機構を通した配分に全面的委ねてはいけない理由も数学的に説明している。農産物は生活必需性が高く、需要および供給面の双方の価格弾力性が低い。農産物は需要も供給も、工業製品に比べると相対的に硬直的で、価格変化に対してそれほど大きく変動することはない。宇沢は、生活必需性が高く需要および供給双方の価格弾力性が低いという特質を持つ財と、需要・供給双方の弾力性の高い財という二財を二つの生産要素で生産するという二財・二生産要素モデルの動学的考察から、両財を同列に扱って市場機構を通じた配分に任せると、最低限の生活を営むことのできない人口比率が増大し社会的不安定性に帰結することを数学的に示している。 . . . 本文を読む
宇沢先生がシカゴ大学時代に撒いた反市場原理主義の種は、アメリカでも育っているといえるのかも知れない。
また、つぎのようにも言えるのではなかろうか。「この間、小泉構造改革を応援し、TPPを推進するなど、先頭に立って日本の市場原理主義化の旗を振ってきた日本経済新聞の中にすら、市場原理主義に懐疑的な記者が存在している背景にも、宇沢先生の哲学の影響がありそうだ」と。東大時代の宇沢先生の門下生の中には、遺憾ながら、現在の行動にはとても賛同できない方々が多い。そこへ行くと米国時代の宇沢門下生であるスティグリッツ教授は本当にすばらしい。TPPなど「現代のアヘン戦争」とまで呼んでいる。いわく「TPPによって、ジェネリック医薬品(特許切れの後発医薬品)の導入はさらに困難となり、医薬品の価格は上がる。これは最貧国にとって、単純に金を企業の金庫に移すという話ではない。何千人もがムダ死にするということだ」と。
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