先日の記事のコメント欄で(この記事)、フィリピン在住のPhilnewsさんとの間で以下のようなやりとりがありました。今月、台風16号、17号と相次いでフィリピンのルソン島を襲い、甚大な被害が発生している件についてです。抜粋して再掲いたします。
***引用開始*********
Philnewsさま (関) 2009-10-16 11:20:29
先日の台風の際、日本の融資で完成したサンロケダムが緊急放流し、その放流が原因で洪水が起こり多数の死者が出たそうですね。ダムはじつは大洪水には対処できず、逆に災害を大きくしてしまいます。
地元の先住民族のイバロイの人々は大反対したのに、押し切って建設されたダムでした。痛ましい限りです。
Unknown (philnews) 2009-10-17 08:09:44
関さま
お返事ありがとうございます。
洪水調節を目的としていながら、全く役に立たないどころか、むしろ、洪水被害を拡大させたことに対して激しい憤りを感じます。
また、このことを伝える日本のメディアが皆無であること、また、台風16号および17号の甚大な被害に対して、フィリピン研究者の方々が全く無関心なことも同じく憤りを感じます。研究者の方々にとっては、現地の人々の生活などどうでもよいのでしょうか?
*******************
Philnewsさんの提起を受けて、私もこの問題について書いておきます。
台風17号で、ルソン島北西部にあるパンガシナン州では、州面積のじつに9割までが浸水しています。台風17号による死亡者はいま現在でも400名を超え、最終的には何人になるかわかりません。
そして、洪水被害を大きくした原因は、上流にあるダムの10月9日の緊急放流、とくに日本の融資によって建設されたサンロケダムの放流であると現地で大きく報道されています。
日本人として知らねばならぬことは、このダムは現地先住民の反対を押し切って、日本輸出入銀行(国際協力銀行(JBIC)の前身)の融資によって建設されたダムであるということです。またダムを管理するサンロケパワー社には、日本企業の丸紅と関西電力も出資しています。
現在JBICはJICAに統合されていますが、この件でも彼らは決して責任を取ろうとしないでしょう。日本人として、国際的に恥ずべきことなのです。
ダムは中小規模の洪水には対処できても、今回のような大洪水には全く対処できないばかりか、恐るべきことに、流入量を上回る水量を緊急放流することにより、逆に洪水災害を拡大させてしまうのです。
私がこのブログで訴えている森林や水田といった緑のダム方式の治水も、もちろん保水容量という点では限界があります。しかしダムのように「緊急放流によりかえって被害を大きくする」といった事はないのです。緑のダム方式ならば、確実に一定量の洪水ピーク低減効果を持ち、ピーク流量が増えるなんてことはあり得ません。
「ダムで洪水を防ぐ」と主張する国交省や、国交省の主張を受け売りしてタレ流す、不勉強な新聞記者の方々にはよくよく勉強してもらいたい事例です。しかるに、日本のマスコミは自国の融資で建設された問題だらけのこのダムの放流とパンガシナンの洪水被害についてほとんど報道していません。
ダムの建設の過程は、八ッ場ダムで起きていることと構造的には同じです。土建国家日本の醜悪さが、日本国内で起きている害悪を、そのまま海外にまで撒き散らしている典型的な事例なのです。
アグノ川に建設されたこのダムは、当初は地元の先住民族であるイバロイの人々が大反対をしたにも関わらず、住民を懐柔し、分断し、反対派を追いこんでいくことによって強引に建設されました。しかし、日本に比べて、建設の過程は、はるかに血で塗られています。
反対派のリーダーのホセ・ドトン氏は、2006年の5月に何者かによって暗殺されてしまいました。この暗殺事件に関しては、サンロケダムに反対するキャンペーンを繰り広げてきた日本のNGO、FoE Japanのサイトをご覧ください。(このページ)
パンガシナン州では、州知事自らが「被害が拡大してしまたのはサンロケダムなどの放流のせい」と名指しで批判しています。パンガシナン州知事は、ダムを建設した国営の国家電力公社などを相手取って訴訟の準備もしています。(フィリピンの日刊紙Inquirerより)国のダム方針に迎合するだけの、石原だの森田だの上田だのといったどこぞの国の知事たちより、フィリピンの知事の方がはるかに民意をくみとって民主的に働いているといえるでしょう。
この問題については、サンロケダム問題を追及してきたFoE Japanのサイトで詳しく報じられています。以下をご参照ください。被災者支援の呼びかけもあります。
FoE Japan サンロケ多目的ダムプロジェクトのページ
http://www.foejapan.org/aid/jbic02/sr/index.html
***引用開始*********
Philnewsさま (関) 2009-10-16 11:20:29
先日の台風の際、日本の融資で完成したサンロケダムが緊急放流し、その放流が原因で洪水が起こり多数の死者が出たそうですね。ダムはじつは大洪水には対処できず、逆に災害を大きくしてしまいます。
地元の先住民族のイバロイの人々は大反対したのに、押し切って建設されたダムでした。痛ましい限りです。
Unknown (philnews) 2009-10-17 08:09:44
関さま
お返事ありがとうございます。
洪水調節を目的としていながら、全く役に立たないどころか、むしろ、洪水被害を拡大させたことに対して激しい憤りを感じます。
また、このことを伝える日本のメディアが皆無であること、また、台風16号および17号の甚大な被害に対して、フィリピン研究者の方々が全く無関心なことも同じく憤りを感じます。研究者の方々にとっては、現地の人々の生活などどうでもよいのでしょうか?
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Philnewsさんの提起を受けて、私もこの問題について書いておきます。
台風17号で、ルソン島北西部にあるパンガシナン州では、州面積のじつに9割までが浸水しています。台風17号による死亡者はいま現在でも400名を超え、最終的には何人になるかわかりません。
そして、洪水被害を大きくした原因は、上流にあるダムの10月9日の緊急放流、とくに日本の融資によって建設されたサンロケダムの放流であると現地で大きく報道されています。
日本人として知らねばならぬことは、このダムは現地先住民の反対を押し切って、日本輸出入銀行(国際協力銀行(JBIC)の前身)の融資によって建設されたダムであるということです。またダムを管理するサンロケパワー社には、日本企業の丸紅と関西電力も出資しています。
現在JBICはJICAに統合されていますが、この件でも彼らは決して責任を取ろうとしないでしょう。日本人として、国際的に恥ずべきことなのです。
ダムは中小規模の洪水には対処できても、今回のような大洪水には全く対処できないばかりか、恐るべきことに、流入量を上回る水量を緊急放流することにより、逆に洪水災害を拡大させてしまうのです。
私がこのブログで訴えている森林や水田といった緑のダム方式の治水も、もちろん保水容量という点では限界があります。しかしダムのように「緊急放流によりかえって被害を大きくする」といった事はないのです。緑のダム方式ならば、確実に一定量の洪水ピーク低減効果を持ち、ピーク流量が増えるなんてことはあり得ません。
「ダムで洪水を防ぐ」と主張する国交省や、国交省の主張を受け売りしてタレ流す、不勉強な新聞記者の方々にはよくよく勉強してもらいたい事例です。しかるに、日本のマスコミは自国の融資で建設された問題だらけのこのダムの放流とパンガシナンの洪水被害についてほとんど報道していません。
ダムの建設の過程は、八ッ場ダムで起きていることと構造的には同じです。土建国家日本の醜悪さが、日本国内で起きている害悪を、そのまま海外にまで撒き散らしている典型的な事例なのです。
アグノ川に建設されたこのダムは、当初は地元の先住民族であるイバロイの人々が大反対をしたにも関わらず、住民を懐柔し、分断し、反対派を追いこんでいくことによって強引に建設されました。しかし、日本に比べて、建設の過程は、はるかに血で塗られています。
反対派のリーダーのホセ・ドトン氏は、2006年の5月に何者かによって暗殺されてしまいました。この暗殺事件に関しては、サンロケダムに反対するキャンペーンを繰り広げてきた日本のNGO、FoE Japanのサイトをご覧ください。(このページ)
パンガシナン州では、州知事自らが「被害が拡大してしまたのはサンロケダムなどの放流のせい」と名指しで批判しています。パンガシナン州知事は、ダムを建設した国営の国家電力公社などを相手取って訴訟の準備もしています。(フィリピンの日刊紙Inquirerより)国のダム方針に迎合するだけの、石原だの森田だの上田だのといったどこぞの国の知事たちより、フィリピンの知事の方がはるかに民意をくみとって民主的に働いているといえるでしょう。
この問題については、サンロケダム問題を追及してきたFoE Japanのサイトで詳しく報じられています。以下をご参照ください。被災者支援の呼びかけもあります。
FoE Japan サンロケ多目的ダムプロジェクトのページ
http://www.foejapan.org/aid/jbic02/sr/index.html
ごぶさたしております。
その後、フィリピンのメディアでもサンロケに関する新しい情報が出てこず、私としても全く真相が掴めません。
この問題は要約すれば
1.プロトコル(操作規則)は存在したのか?そして、それは守られていたのか?
2.当時のダムへの水の流入量と流出量の関係はどうだったのか?流入量以上を放出するという異常操作はなかったのか?
3.周辺住民への警報・避難誘導は十分に行われていたのか?
の3点だと思います。
情報が無い中では私も判断ができず、断言は避けておりますが、フィリピンのこと、このままうやむやになってしまうのではないかとも危惧しております。
一次データを入手できる専門家の方々には、是非、真相を明らかにしていただきたいと思います。
>ダムを誤操作すれば、ダムの有効性の如何に関わらずフィリピンだろうが日本だろうが、大被害が出る可能性があります。
その後のフィリピンのニュースでもダムの誤操作の問題は大きく指摘されておりました。早くから少しづつ放流すべきはずのものを、それを怠り、危険水位になってからあわてて緊急放流したようです。
ですので「造った側に法的責任はない」というのはその通りかと存じます。ただ道義的責任は・・・。
>選択肢はフィリピン国民が選択すべきことかと思うのですがいかがでしょうか。
情報が正しく伝わらないという問題は大きいですね。とくに外国からの借款で建設されるインフラの場合は、債務の返済は途上国の納税者の肩にかかってきます。ところが日本同様、いやさらに輪をかけて、途上国においても建設コストは当初過小に、収益性は当初過大に見積もられるのが常なので・・・・。
ただ、このダムはフィリピンの国家プロジェクトであることも事実です。
ダムの操作は国家電力公社の指示により行われるものであり、この指示が適切であったかどうかは今後明らかになっていくことでしょう。
ダムを誤操作すれば、ダムの有効性の如何に関わらずフィリピンだろうが日本だろうが、大被害が出る可能性があります。
また適切に操作されていたとしても、降雨の前に満水になっていたりすれば、洪水調節は不可能です。降雨の前に水位を下げていたとしても調節容量をはるかに超える降雨があれば、洪水の発生時間を遅らせることはできても洪水になることでしょう。
日本が不要なダムをたくさん作ったからと言って世界のダムがみんな悪者であるわけではありません。
先住民族問題については、ここに書いてあることからでは反対の理由がわかりませんが、
(1)資源のないフィリピンが石油メジャーや世銀にいいように搾取される、
(2)先住民族に迷惑をかけながらも国産のエネルギー源を確保し石油購入用の外資を国内の病院や学校、あるいは道路などのインフラの整備に回す、
等の選択肢はフィリピン国民が選択すべきことかと思うのですがいかがでしょうか。
最後に今回の台風で亡くなられた方のご冥福を心よりお祈りいたします。