最近出版された本を紹介させていただきます。
岡本芳美先生の『河川管理のための流出計算法』(築地書館、2014年)。
まず表紙の写真が本当にすばらしく(画像参照)、この美しい日本の河川を守らねばならないという著者の決意がひしひしと伝わってきて、身が引き締まる思いがした。
国交省がダム建設を含む河川計画を策定する際の基本モデルとしている貯留関数法に代わるものとして、著者が40年かけて開発してきた誤差の少ない流出解析が可能なマルチ・タンク・モデル法を解説書したものが本書である。
どれだけ精密かと言えば、国交省が八ッ場ダム建設の根拠とする貯留関数法モデルは利根川上流域を39分割しているのに対し、岡本先生のマルチ・タンク・モデルは利根川上流域をじつに8400分割して計算している。
ちなみに八ッ場ダム建設を正当化するため、国交省が構築した貯留関数法の39分割モデルでは利根川の基本高水流量は毎秒2万2000立方メートルとなる。この値だと八ッ場ダムを建設しても、その上さらに10個ほどもダムを建設しなければならない計算となる。この国交省の計算結果は完全な虚構なのである。
岡本先生が8400分割モデルで計算すると、国交省の計算値より1万立方メートル低い毎秒1万2000立法メートルとなっている。この値ならば八ッ場ダムも含め、利根川上流に一切治水ダムを建設する必要はない。(この利根川の計算値については本書にはなく別の論文に書かれている。岡本芳美(2013)「カスリーン台風による大水の検証 ―新方法による計算結果に基づいて(Ⅲ)」『水利科学』57(3): 111-145頁を参照)。
著者の岡本先生は、本書の「あとがき」で以下のように述べている。
===以下、引用======
・・・・合理式法を用いて答えを出すことは、シャマンが託宣を出すようなものでした。
また、貯留関数法は、最近ある知識人からマジックだと酷評されましたが(註1)、一般技術者にとって理解し難い面が強く、それによる計算は、特定の技術者集団に頼らざるを得ない状況でした。・・・・
(註1)冨永靖徳(2013)「貯留関数法の魔術―ダム事業を根拠づけるデータの非科学性」『科学』83(3):268-273頁。
岡本芳美、前掲書、204頁
====引用終わり=========
私が以前、直接著者の岡本先生からお聞きしたことによれば、岡本先生も海外の研究者から貯留関数法について度々失笑されてきた経験を持つという。曰く「方程式の左右の次元が合わない」(※)と。貯留関数法が河川計画に用いられているのは、日本の他には韓国と台湾だけなのだという。貯留関数法を使ういずれの国も、不要なダムを造り続けているという共通性を持つ。岡本先生がいくら貯留関数法が海外からはもの笑いのタネであり、正しい計算手法の構築が必要であると国交省に訴えても、「もう誰も流出計算になんか興味を持ちませんよ」と相手にもされなかったという。国交省からすれば、貯留関数法の欠陥が明らかになると自分たちが困るため、研究に予算を付けず、オルタナティブな計算手法の開発そのものを迫害し、焚書坑儒を行ってきたのであると。
今回のSTAP細胞問題にも通じるが、科学には、データ公開、再現実験の可能性、第三者による計算結果の検証可能性等が何よりも大事である。
しかるに国交省は、八ッ場ダム建設の根拠となっている利根川の新モデルの計算ソフトをいまだに公開していない。私は、計算モデルを作成した日本学術会議にソフトを公開するよう働きかけたが、返事すらないという状況である。
それに対し、岡本先生は本書の内容をコンピュータ・プログラム化してインターネット上で公開している。以下のサイト参照。
http://okamoto-institute-of-hydrology-and-river-engineering.info/
この時点で、勝負は半ばついたようなものだと思う。
以下は私の個人的感想である。
貯留関数法は欧米では全く通用しないし、真面目な顔でこの手法を説明すれば物笑いのタネにしかならない。しかるに、日本では、その欠陥ゆえにダム建設のための数値をねつ造するのに最適な手法であるためか、官・業・学癒着体制のもとで、その欠陥を徹底的に隠蔽し、それこそシャーマンが御宣託でも出すような大真面目な顔をして、その計算結果のみを国民に押し付け、ダムを建設し続けてきた。
理研のSTAP細胞のデータ疑惑の問題で、あれだけ「ねつ造」と大騒ぎになる割に、正真正銘の「ねつ造」である貯留関数法の計算結果に基づいて何兆円もの予算をドブに捨てている(というか美しい河川をドブ川に変えている)のに、マスコミは沈黙し、国民に事実は知らされない。
私もこれまで貯留関数法の誤りを明らかにする問題に取り組んできたが、私の場合、国交省や土木工学者たちから見れば「叩き落とすべきハエ」でしかないアウトサイダーでしかなかった。官・業・学の利権癒着体制にアウトサイダーが挑んでも、粉砕されるしかなかった。
しかるに本書の著者の岡本先生は元建設省の官僚であり、業界のインサイダーである。本書のインパクトは徐々に広がっていくであろう。
データ操作やねつ造や虚偽などで、科学的真理は捻じ曲げられるものではない。「絶望の裁判所」が行政に追従して行政の計算結果を追認しようとも、もちろん科学的真理がひっくり返るわけではない。宗教裁判所が天動説が正しいと主張し、ガリレオを有罪にしたところで、もちろん太陽が地球の周りを回るようになどならない。科学的真理は揺らがないのである。いずれ真理は勝つのだ。
※ 貯留関数法の方程式の左右の次元が合わないという問題、説明すると長くなるので、次の記事で説明したい。
岡本芳美先生の『河川管理のための流出計算法』(築地書館、2014年)。
まず表紙の写真が本当にすばらしく(画像参照)、この美しい日本の河川を守らねばならないという著者の決意がひしひしと伝わってきて、身が引き締まる思いがした。
国交省がダム建設を含む河川計画を策定する際の基本モデルとしている貯留関数法に代わるものとして、著者が40年かけて開発してきた誤差の少ない流出解析が可能なマルチ・タンク・モデル法を解説書したものが本書である。
どれだけ精密かと言えば、国交省が八ッ場ダム建設の根拠とする貯留関数法モデルは利根川上流域を39分割しているのに対し、岡本先生のマルチ・タンク・モデルは利根川上流域をじつに8400分割して計算している。
ちなみに八ッ場ダム建設を正当化するため、国交省が構築した貯留関数法の39分割モデルでは利根川の基本高水流量は毎秒2万2000立方メートルとなる。この値だと八ッ場ダムを建設しても、その上さらに10個ほどもダムを建設しなければならない計算となる。この国交省の計算結果は完全な虚構なのである。
岡本先生が8400分割モデルで計算すると、国交省の計算値より1万立方メートル低い毎秒1万2000立法メートルとなっている。この値ならば八ッ場ダムも含め、利根川上流に一切治水ダムを建設する必要はない。(この利根川の計算値については本書にはなく別の論文に書かれている。岡本芳美(2013)「カスリーン台風による大水の検証 ―新方法による計算結果に基づいて(Ⅲ)」『水利科学』57(3): 111-145頁を参照)。
著者の岡本先生は、本書の「あとがき」で以下のように述べている。
===以下、引用======
・・・・合理式法を用いて答えを出すことは、シャマンが託宣を出すようなものでした。
また、貯留関数法は、最近ある知識人からマジックだと酷評されましたが(註1)、一般技術者にとって理解し難い面が強く、それによる計算は、特定の技術者集団に頼らざるを得ない状況でした。・・・・
(註1)冨永靖徳(2013)「貯留関数法の魔術―ダム事業を根拠づけるデータの非科学性」『科学』83(3):268-273頁。
岡本芳美、前掲書、204頁
====引用終わり=========
私が以前、直接著者の岡本先生からお聞きしたことによれば、岡本先生も海外の研究者から貯留関数法について度々失笑されてきた経験を持つという。曰く「方程式の左右の次元が合わない」(※)と。貯留関数法が河川計画に用いられているのは、日本の他には韓国と台湾だけなのだという。貯留関数法を使ういずれの国も、不要なダムを造り続けているという共通性を持つ。岡本先生がいくら貯留関数法が海外からはもの笑いのタネであり、正しい計算手法の構築が必要であると国交省に訴えても、「もう誰も流出計算になんか興味を持ちませんよ」と相手にもされなかったという。国交省からすれば、貯留関数法の欠陥が明らかになると自分たちが困るため、研究に予算を付けず、オルタナティブな計算手法の開発そのものを迫害し、焚書坑儒を行ってきたのであると。
今回のSTAP細胞問題にも通じるが、科学には、データ公開、再現実験の可能性、第三者による計算結果の検証可能性等が何よりも大事である。
しかるに国交省は、八ッ場ダム建設の根拠となっている利根川の新モデルの計算ソフトをいまだに公開していない。私は、計算モデルを作成した日本学術会議にソフトを公開するよう働きかけたが、返事すらないという状況である。
それに対し、岡本先生は本書の内容をコンピュータ・プログラム化してインターネット上で公開している。以下のサイト参照。
http://okamoto-institute-of-hydrology-and-river-engineering.info/
この時点で、勝負は半ばついたようなものだと思う。
以下は私の個人的感想である。
貯留関数法は欧米では全く通用しないし、真面目な顔でこの手法を説明すれば物笑いのタネにしかならない。しかるに、日本では、その欠陥ゆえにダム建設のための数値をねつ造するのに最適な手法であるためか、官・業・学癒着体制のもとで、その欠陥を徹底的に隠蔽し、それこそシャーマンが御宣託でも出すような大真面目な顔をして、その計算結果のみを国民に押し付け、ダムを建設し続けてきた。
理研のSTAP細胞のデータ疑惑の問題で、あれだけ「ねつ造」と大騒ぎになる割に、正真正銘の「ねつ造」である貯留関数法の計算結果に基づいて何兆円もの予算をドブに捨てている(というか美しい河川をドブ川に変えている)のに、マスコミは沈黙し、国民に事実は知らされない。
私もこれまで貯留関数法の誤りを明らかにする問題に取り組んできたが、私の場合、国交省や土木工学者たちから見れば「叩き落とすべきハエ」でしかないアウトサイダーでしかなかった。官・業・学の利権癒着体制にアウトサイダーが挑んでも、粉砕されるしかなかった。
しかるに本書の著者の岡本先生は元建設省の官僚であり、業界のインサイダーである。本書のインパクトは徐々に広がっていくであろう。
データ操作やねつ造や虚偽などで、科学的真理は捻じ曲げられるものではない。「絶望の裁判所」が行政に追従して行政の計算結果を追認しようとも、もちろん科学的真理がひっくり返るわけではない。宗教裁判所が天動説が正しいと主張し、ガリレオを有罪にしたところで、もちろん太陽が地球の周りを回るようになどならない。科学的真理は揺らがないのである。いずれ真理は勝つのだ。
※ 貯留関数法の方程式の左右の次元が合わないという問題、説明すると長くなるので、次の記事で説明したい。