代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

国際貿易は動物種の絶滅の原因の30%を占める

2012年12月25日 | 自由貿易批判
 今年の9月に出した拙著『自由貿易神話解体新書 ―関税こそが雇用と食と環境を守る』(花伝社)で訴えたことは主要に三点あった。

 ①自由貿易が失業者を増加させ労働条件を悪化させること。
 ②自由貿易が飢餓人口を増加させること。
 ③自由貿易が種の絶滅など環境破壊を推し進めること。

 これらはいずれも国民国家の枠を超えて、世界規模で発生する。ゆえに私は、巷にあふれているナショナリズムからの自由貿易批判ではない、グローバルな視座に立脚した自由貿易批判を展開した。

 『Nature』の2012年7月号(Vol.486)に「自由貿易と環境破壊」に関連して興味深い報告が掲載されていた。原稿を脱稿した後だったので残念ながら拙著の中では紹介できなかったので、ここで紹介したい。

 オーストラリアのシドニー大学のM・レンゼン教授らの論文「International trade drives biodiversity threats in developing nations (国際貿易は途上国の生物多様性への脅威を促進している)」。著者の一人には東北大学からシドニー大学へ留学中という日本の若い研究者金本圭一朗氏も含まれている。

 下記サイト参照。

http://www.nature.com/nature/journal/v486/n7401/abs/nature11145.html?lang=en

 論文の結論は「International trade is the underlying cause of 30% of threatened animal species extinctions. 国際貿易は、動物種の絶滅の30%の根本原因である」というもの。

 著者らはIUCNのレッドリストに登録されている2万5000の絶滅危惧種と1万5000の国際商品とのあいだのサプライチェーンをモデルで解析し、絶滅危惧の動物種の30%は、国際貿易が原因で追い込まれていると結論している。
 なお、モデルは、国際貿易が生産現場に及ぼすインパクトのみを評価したものであり、消費国への外来種の侵入の影響までは評価されていない。国際貿易を通した外来種侵入のインパクトまで評価すれば、貿易が絶滅に及ぼす影響は30%をさらに上回ることになろう。

 種の絶滅を推し進めるという、この一点のみをとっても、もうこれ以上、農産物の自由貿易を推進してはならないことは明らかであろう。ましてや動植物のみではなく、人間まで破壊されるのだからなおさらだ。



 図のように消費者が一杯のコーヒーを飲むと、その陰で熱帯林が切り開かれ、野生のサルが生息域を奪われ絶滅危惧に追い込まれているといった具合。この因果関係は、ふつうの感覚を持った人々がふつうに考えれば明らかであろう。

 しかし、なぜかこれまで研究者は自由貿易と種の絶滅の因果関係について多くを語ってこなかった。とくに経済学者はこの問題について語ることをタブーにしている感もある。経済学者がなぜこの問題をタブーにしているのか(あるいはせざるを得ないのか)に関しては、前掲の拙著で詳細に論じた。

 この『ネイチャー』の論文の意味は大きい。著者たちは物理学専攻など理系の方々。やはり理科系の研究者が踏み込んで自由貿易を批判をしないとどうにもならない。自由貿易の問題を論じるのに、経済学者になど任せきりではダメなのである。


PS 拙著『自由貿易神話解体新書 ―関税こそが雇用と食と環境を守る』(花伝社)の書評が、さる12月23日(日)の『毎日新聞』「今週の本棚」に掲載されていました。自社の社説と真っ向から対立する内容の本であるにも関わらず、よくぞ書評として取り上げてくれたものです。『毎日新聞』に感謝いたします。マスコミ論調を全面批判した本なので、書評欄での掲載はまず不可能と思っていました。まだまだ捨てたものではありませんね。
 


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