12434さんが、拙著『自由貿易神話解体新書 ―関税こそが雇用と食と環境を守る』(花伝社)の第3章と第4章の書評をコメント欄に寄稿してくださいました。再掲させていただきます。私が本の中で力説した農業と工業を一律に同じ基準で扱うことの愚に関して、農家の視点から見れば自明のことであるとして明快に論じてくださいました。ありがとうございました。
****以下、12434さんの書評の引用*****
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/8f2da59575a571a8d8b2d75747f0e283
第2章についての感想です。 (12434)2014-10-16 18:28:55
この章の目玉は、リカードの比較生産費説に対する批判だと思います。
具体的で解りやすく説得力のある反証といえるでしょう。そのまんま貿易論の教科書に載せたい文章です。
農業と工業のちがいについての説明も良かったです。我々農家からしてみれば、収穫逓減という小難しい言葉を使わずとも、農業の性質は理解しきっていることです。
土地の生産性には優劣があって、単純にその量を倍にすれば農産物の収穫量が同じく倍になるわけではありません。農地に肥料を投入すればそれなりに収穫量は増えますが、いずれ限界はきます。ついでにいうと一年に1回しか収穫できないから資本回転も遅いし(例外もありますが)、基本的に工業にはこうした性質がないでしょう。だから工業の方がずっと収穫逓増的だと考えいましたが、ソフトウェア産業を事例にしたのは良かったと思います。
あと、TPP違憲訴訟の件ですが、昨日入会金の支払いと書類の発送をしました。どこまで通用するかわかりませんが、TPP推進派に一泡吹かせてやりましょう。
3章についての感想です。 (12434)2014-10-17 23:16:27
「自由貿易と比較生産費説と帝国主義」が興味深かったです。イギリスで産業革命が起きだ背景と、それにより東南アジアなどに押し付けた自由貿易の弊害についての説明が良かったです。近代経済学においては、リカード論は過大評価される傾向があります。2章では歴史的観点から、この学説に基づいた自由貿易の弊害を指摘していますね。
比較生産費説はあえて悪くいうなら、「永久に工業市場の独占を求める当時のイギリスのエゴそのもの」でしょう。外国に「永遠に農業国でいろ!」といってるようなものですから。
当然他の後進資本主義国家は関税対策で工業を発達させました。それができなかった東南アジアは、モノカルチャー経済で苦しみ植民地化になったわけです。
しかし不満が一点あります。イギリスはその後工業市場の独占を失い、20世紀初頭から農業の保護政策(不足分の支払いや関税)をすることになりました。つまり、自分から自由貿易を否定してしまったのです。これについての記述も書いた方が良かったでしょう。
もう1つ注目したいのは、自由貿易による世界の需要に対する悪影響についての説明です。私は学生時代には、本書で引用されているエマニュエル・トッド氏のような主張は見たことがありません。これも国際経済学やマクロ経済学の教科書に載せたい文章です。
****引用終わり********
>しかし不満が一点あります。イギリスはその後工業市場の独占を失い、20世紀初頭から農業の保護政策(不足分の支払いや関税)をすることになりました。
ご指摘ありがとうございました。イギリスは、自国の都合に合わせて 保護主義→自由貿易主義→保護主義と転じてきました。本の中では、最初の保護主義から自由貿易主義への転換については書きましたが、その次の自由貿易主義を捨て再び保護主義に転じる過程は本文で言及する余裕がありませんでした。12434さんのご指摘の通りです。
トッドの指摘する自由貿易による総需要の収縮は、現在まさに世界規模で現実化してきています。経済学がこの現実と向き合えば、リカードの理論もエクシャー=オリーン=サミュエルソンの理論も破綻するということに気づくはずです。結局、彼らがこれを無視するのは、信仰の世界に陥ってモデルの世界に安住し現実からは背を向けるという、ピグマリオン症の故だと思います。
12434さんがTPP言及しているTPP違憲訴訟の会ですが、このブログの読者の方々にもぜひ賛同を呼びかけたいと思います。じつは私もまだ入会していませんでしたので、「宇沢先生の最後の呼びかけに応えよう」と自分で訴訟の原告になることを呼びかけておいて12434さんに先を越されてしまいました。私も、近日中に手続きいたします。
TPP違憲訴訟の会のホームページは以下です。入会手続きの説明もあります。
http://tpphantai.com/
****以下、12434さんの書評の引用*****
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/8f2da59575a571a8d8b2d75747f0e283
第2章についての感想です。 (12434)2014-10-16 18:28:55
この章の目玉は、リカードの比較生産費説に対する批判だと思います。
具体的で解りやすく説得力のある反証といえるでしょう。そのまんま貿易論の教科書に載せたい文章です。
農業と工業のちがいについての説明も良かったです。我々農家からしてみれば、収穫逓減という小難しい言葉を使わずとも、農業の性質は理解しきっていることです。
土地の生産性には優劣があって、単純にその量を倍にすれば農産物の収穫量が同じく倍になるわけではありません。農地に肥料を投入すればそれなりに収穫量は増えますが、いずれ限界はきます。ついでにいうと一年に1回しか収穫できないから資本回転も遅いし(例外もありますが)、基本的に工業にはこうした性質がないでしょう。だから工業の方がずっと収穫逓増的だと考えいましたが、ソフトウェア産業を事例にしたのは良かったと思います。
あと、TPP違憲訴訟の件ですが、昨日入会金の支払いと書類の発送をしました。どこまで通用するかわかりませんが、TPP推進派に一泡吹かせてやりましょう。
3章についての感想です。 (12434)2014-10-17 23:16:27
「自由貿易と比較生産費説と帝国主義」が興味深かったです。イギリスで産業革命が起きだ背景と、それにより東南アジアなどに押し付けた自由貿易の弊害についての説明が良かったです。近代経済学においては、リカード論は過大評価される傾向があります。2章では歴史的観点から、この学説に基づいた自由貿易の弊害を指摘していますね。
比較生産費説はあえて悪くいうなら、「永久に工業市場の独占を求める当時のイギリスのエゴそのもの」でしょう。外国に「永遠に農業国でいろ!」といってるようなものですから。
当然他の後進資本主義国家は関税対策で工業を発達させました。それができなかった東南アジアは、モノカルチャー経済で苦しみ植民地化になったわけです。
しかし不満が一点あります。イギリスはその後工業市場の独占を失い、20世紀初頭から農業の保護政策(不足分の支払いや関税)をすることになりました。つまり、自分から自由貿易を否定してしまったのです。これについての記述も書いた方が良かったでしょう。
もう1つ注目したいのは、自由貿易による世界の需要に対する悪影響についての説明です。私は学生時代には、本書で引用されているエマニュエル・トッド氏のような主張は見たことがありません。これも国際経済学やマクロ経済学の教科書に載せたい文章です。
****引用終わり********
>しかし不満が一点あります。イギリスはその後工業市場の独占を失い、20世紀初頭から農業の保護政策(不足分の支払いや関税)をすることになりました。
ご指摘ありがとうございました。イギリスは、自国の都合に合わせて 保護主義→自由貿易主義→保護主義と転じてきました。本の中では、最初の保護主義から自由貿易主義への転換については書きましたが、その次の自由貿易主義を捨て再び保護主義に転じる過程は本文で言及する余裕がありませんでした。12434さんのご指摘の通りです。
トッドの指摘する自由貿易による総需要の収縮は、現在まさに世界規模で現実化してきています。経済学がこの現実と向き合えば、リカードの理論もエクシャー=オリーン=サミュエルソンの理論も破綻するということに気づくはずです。結局、彼らがこれを無視するのは、信仰の世界に陥ってモデルの世界に安住し現実からは背を向けるという、ピグマリオン症の故だと思います。
12434さんがTPP言及しているTPP違憲訴訟の会ですが、このブログの読者の方々にもぜひ賛同を呼びかけたいと思います。じつは私もまだ入会していませんでしたので、「宇沢先生の最後の呼びかけに応えよう」と自分で訴訟の原告になることを呼びかけておいて12434さんに先を越されてしまいました。私も、近日中に手続きいたします。
TPP違憲訴訟の会のホームページは以下です。入会手続きの説明もあります。
http://tpphantai.com/
農産物(食用品)と工業製品の価格弾力性の違いが述べられていますが、全く異論はありません。私は酪農学園大学で、新古典派経済学の講義でもこれについて学んでいました。最初の講義で、どんな図を見たのかは覚えていませんが、この二つの商品の価格の弾力性はちがうと教えてもらいました。
講師は新古典派の経済学者で、ミクロ経済学の他に統計学や計量経済学の講義も請け負っていましたね。確か今も研究室はあったはずです。私のゼミはなくなりましたが。
こういうと、なぜ関さんと私で新古典派の評価にちがいがあるのかよくわかります。
価格の弾力性について、一般の大学の経済学部は工業も農業も同じだと教えているのなら、私が学んだ経済学とはある意味180度ちがいます。
次に中国の農地制度について述べたいです。
これは経済学でいうところの「農民層分解」のことになります。農業経済学の理論だと、農地の個人所有を認めて投資意欲を促進させて、「緑の革命」を起こし少数精鋭での農業経営を可能にするという理屈です。
これ自体は悪いものではありません。先進国が皆歩んできた道のりだし、日本でも自然人農家なら個人所有が普通です。
しかし、そこに弊害があることを説明していますね。ようするに中国の農民層分解により元農民の労働者が一気に増加して、賃金の引き下げも起こり、世界中の労働者の雇用を不安定にさせる危険性があると。
将来的には中国も農民層分解すべきかもしれませんが、少なくとも確かに今してはいけませんね。
中国の制度というと、どうしても悪いイメージが付きまといますが、こうした視点で見るのも面白いです。
従って、農業が比較劣位の国でもそれをしっかり維持すべきです。
農業の経営体型についても述べていますが、少し補足的なことをいいたいです。農業経営は世界的に見ても自然人農家が主流です。本書ではアメリカやオーストラリアの農業が批判対象になってますが、その2国でさえ家族経営が主体で、ヨーロッパ、韓国、中国も同じです。
法人経営は家族経営に比べ低収入に弱く、農業の性質から考えても労務や収支の管理はより厳しくなります。
投機的といわれるアメリカの農業でも主流が家族経営なのだから、法人が農業にあまり向いていないのは事実でしょう。
あと、市場の「外部不経済効果」についてなんですが、関さんはその呼称を非常に嫌っています。この章を読めばそのお気持ちは痛いくらいよくわかります。
ただ、外部不経済という言葉を使う経済学者がみんなおかしいわけではないので、まあ議論の余地があるとは思います。
書評をたまわり深謝いたします。新しい記事としてアップさせていただきました。