代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

フィリピンの政治的殺害を非難するアムネスティ声明の翻訳

2006年07月27日 | 政治経済(国際)
 先日の7月13日の記事で、最近のフィリピンで多発する暗殺事件について述べました。その関連なのですが、アムネスティ・インターナショナルが7月25日にフィリピン政府に対し、「これ以上の政治的殺害を防がねばならない」と呼びかける声明を発表しました。この声明の日本語訳版を紹介させていただきます。アムネスティ・インターナショナルはフィリピンにおける政治的殺害(political killings)を防ぐための国際的キャンペーンも展開するそうです。アムネスティのキャンペーンが成果をあげることを期待せずにはおれません。
 
 こうしている間にも次々に人々が暗殺されていっている現状があります。7月18日も南ダバオ州でラジオ局の解説者が殺害され、今年だけで殺された報道関係者は9人目なのだそうです。この記事参照。私にとってのフィリピンは第二の故郷なので、もうこれ以上メチャクチャになるのは見ていられない・・・・・・。
 もちろんレバノンもものすごく心配ですが。もう世界中で目も当てられない惨状だらけで、頭がおかしくなりそうです。

 以下、アムネスティの声明文を以下に紹介させていただきます。

Amnesty International Press Release原文
 
 アムネスティ日本支部による訳文

<以下引用開始>

フィリピン:これ以上の政治的殺害を防がなくてはならない。
-------------------------------------------------------------
AI Index: ASA35/007/2006

アロヨ大統領の一般教書演説を受け、フィリピン政府は政治的殺害を防止す
るために断固とした行動をとり、目撃証人を保護するために一層努力しなくて
はならないと、アムネスティ・インターナショナルは語った。

「一般教書演説でアロヨ大統領が活動家の殺害について非難したことには勇
気づけられる。大統領は今こそ、これ以上の活動家の死を招かないように確
固たる措置を講じ、本気で取り組むという意思を示さなくてはならない」と、アム
ネスティ・インターナショナル・アジア太平洋プログラムのティム・パリット副部長
は語った。

「その政治的信念が何であろうと、また治安維持担当者が関係しているかどう
かにかかわらず、政府にはフィリピンに住むすべての個人を保護する義務が
ある」

一般教書演説の中で、アロヨ大統領は、殺害の目撃者は届け出るように呼び
かけた。

「政治的殺害の目撃者の多くは、たとえそれが被害者の近しい親族であって
も、恐怖のあまり届け出ることができない。政府が目撃者の証言を得たいな
ら、証人保護に関する法を強化しなくてはならない」と、ティム・パリットは強調
した。

目撃者に対する死やその他の脅迫、そして報復されるかもしれないという不安
が、警察や検察が事件を起訴できないという状況が続く一つの主要な要因と
なっている。こうした障害は、被害者遺族にとっての公正な裁きを著しく困難な
ものにしている。

これらの襲撃に関して加害者の逮捕、起訴あるいは処罰がなされることはほ
とんどない。また捜査は、捜査官が事件の責任者と疑われる人物から独立性
を保ち、また必要な捜査技能と財源を持つべきとする国際基準からは程遠
い。

イルマ・「キャシー」・アルカンタラさんは2005年12月5日、出席していた農民・
漁民の会議が開催されていたホテル近くで射殺された。左派系政治連合の地域
コーディネーターであった44歳のアルカンタラさんは、死の脅迫を受け続け、治
安部隊によって見張られていたと思われる。目撃者によると、バイクに乗った2
人の男がアルカンタラさんに向けて発砲した。事件の捜査は行き詰まり、遺族
は今も加害者が裁かれる日を待ち望んでいる。

2006年の政治的変化は、さらに多くの政治的殺害を引き起こした。アロヨ大統
領が2月に1週間にわたる非常事態宣言を出して以来、政府と共産主義者との
間の和平プロセスは明らかに崩壊し、政府は共産党系の武装グループに対す
る「全面戦争」を宣言した。犠牲者の数が増える前に、早急に予防的措置を講
じる必要がある。

アムネスティ・インターナショナルは間もなく、フィリピンにおける政治的殺害に
関する報告書を発表し、国際キャンペーンを開始する予定である。

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5 コメント

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Unknown (oozora通信)
2006-07-30 20:53:02
社会の奥深く蔓延浸透してしまった”暴力”に対する感覚はおそらく何十年という時間の積み重ねによって醸成された環境なのでしょう。そういう状況は権力機構内部に改善への力の行使に対する積極性をも期待できないのでしょうか。(無政府状態への進行)

フイリッピン政府にはたして国内治安維持能力が無いとは言はないまでも、自国内解決がもはや猶予期間を過ぎているというのであればASEAN合意のもとでの多国間による”治安維持部隊”の長期派遣による警察活動の補助などの案はどうなのでしょうか?

フイリッピン政府の面子もありますから相当むずかしいでしょうが。

社会が成り立つ基本中の基本である”言論の自由”と”治安”が破壊された状況に対する危機感の相対的な薄さが政府にあるとすれば問題だろうし。

返信する
oozora通信さま ()
2006-08-01 09:19:38
>社会の奥深く蔓延浸透してしまった”暴力”に対す

>る感覚はおそらく何十年という時間の積み重ねによ

>って醸成された環境なのでしょう。



 フィリピンの場合、スペイン、米国、日本という三つの野蛮な帝国主義国に相次いで侵略されて植民地支配を受けました。アジアではもっとも長期間にわたって植民地支配を受けた国です。

 「暴力」を常態的なものとしてみる感覚も、400年の長きにわたる外国支配と抵抗という連鎖の中で、社会的に定着してしまったように思えます。

 

>ASEAN合意のもとでの多国間による”治安維持部隊”

>の長期派遣による警察活動の補助などの案はどうな

>のでしょうか?



 フィリピンでは90年代にいったん収束しかけていた暴力の連鎖が、今世紀のなって再び活発化してしまったのです。91年に米軍基地を撤去して以降、90年代は相当に平和で安定していました。

 今世紀に入ってからの暴力拡大の理由は前にも書きましたとおり、米国が「対テロ戦争」の一環でフィリピンへの軍事介入を再開したからです。フィリピンに関しては、米国が手を引きさえすれば解決に向かうと思います。

 米国は「世界の警察」どころか、「世界の紛争火付請負人」だと思います。
返信する
Unknown (oozora通信)
2006-08-01 20:46:34
そういう脈絡からすると、実際米国は罪作りな国です。

米国はこの地域においてはいかなる理由があろうと武力による介入はすべきでない。

自体がますます悪化するだけです。フイリッピン政府もそういう意味では安易に米国に頼らないことです。

彼らは決して最終責任はとらない。

暴力を生み出す状況分析と改善へむけての長期的行動計画、短期的処方を模索すべしですね。そういう意味でアムネステイ-が動いたことは事態改善への状況作りへ寄与するでしょう。

それと、これはおそらくフイリッピンの構造的根本問題ですが、農地改革は避けて通れない問題のように思います。

ほとんどの国では解決済みの問題ですが。

農地からの収益は、耕すものに帰するべきです。

そうすることが、いやそうしないことには長期にわたる平和は訪れないし、そのことはフイリッピンの国益の創造に繋がることなのではないでしょうか。

返信する
oozora通信さま ()
2006-08-03 00:55:37
>彼らは決して最終責任はとらない。



 残念ながら暴力の連鎖が拡大することは軍産複合体にとっての利益という構造がある以上、米国の行動はそう簡単には改まらないと思います。軍拡路線が、結局、経済破綻をもたらして彼らが思い知る日が一刻も早く訪れる日がくることを願います。



>これはおそらくフイリッピンの構造的根本問題です

>が、農地改革は避けて通れない問題のように思いま

>す。



 途上国では、フィリピンと中南米について特にこれが言えます。大地主制度が政治支配とも結びつき、その弊害がとくに強い地域を世界的に見渡すと、フィリピンも中南米もそうなのですが、旧スペインの植民地でとくに顕著なのです。

 これはスペインという国家の植民地支配がとくに野蛮で残虐であったことに因ります。先住民族を人と思わず、彼らの慣習的土地利用権を徹底的に無視したからです。

 

 フィリピンの場合、歴代政権が農地改革に取り組んできて、進んだ地域もあるので以前に比べるとだいぶ良くなってきてはいるのですが・・・・。根強く地主が抵抗している農園もまた多いです。中部ルソンのルイシタ農園というコファンコ財閥のサトウキビ大農園では一昨年、「仕事をよこせ」という農園労働者のデモに地主の私兵が発砲して7人が殺されるという痛ましい事件も起きました。



 農地改革という点では、やはりキューバのやったこと(400ha以上の大農地所有を禁じた)は正しかったし、ベネズエラのチャベス政権が今まさにやっていること、ボリビアのモラレス政権がやろうとしていることは全く正しいと思います。



 チャベスもモラレスも先住民族出身ですが、祖先から土地を強奪した白人支配層や外国企業の手から再び、正当な土地所有者の手に土地と資源を返還させようとしています。

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Unknown (oozora通信)
2006-08-04 22:17:57
東アジア地域の多様性は、負の意味における多様性をも含んでいるように思えます。

フイリッピンの内戦、ミヤンマ-の軍事政権の存在、・・これらが将来的にはASEAN加盟10カ国プラス3(日、中、韓)の枠組みのなかで解決に向けて努力されなければと思います。

フイリッピンの農地改革は政治による判断以外には解決しないものでしょうが。大地主制度の存在は社会不安の発生の元凶だと言えます。それは”持つ物”と”持たざる物”による階層区分を決定的なものにしますから。

国の安定はいつも底辺の人々の生活の状態がどうなのかということにかかっているからです。

短兵急にことを運ばないにしても、政府はこのことは理解していなければならないと思います。

既得権益者の地主側は決して自らそれを手放しはしないことは自明ですから、最終的には力の行使を念頭にいれながら、どう収めるのか?非常に困難な作業です。
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