代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

八ッ場ダム住民訴訟11周年集会 元国交省・宮本博司さん講演などの報告

2015年12月15日 | 治水と緑のダム
 さる12月13日に開催された八ッ場ダム住民訴訟の上告棄却に対する抗議集会ならびに、元国交省の職員の宮本博司さんの講演会の報告をします。

 宮本さんのお話し、衝撃的な内容でした。
 宮本さんは、河川官僚として住民参加の河川行政をつくろうと尽力し、近畿地方整備局において淀川水系流域委員会を立ち上げ、本省と衝突して辞職に追い込まれた方です。
 講演の核心部分を箇条書きで紹介します。
 
*今回の鬼怒川災害でも洪水が堤防を越流(洪水が堤防の外に溢れること)した途端に破堤に至った。

*堤防は、計画高水流量という流量を超えると簡単に破堤するように造られている。

*越流しても簡単には破堤しない堤防を造ることは技術的に可能である。(堤体全体を遮水シートで被うアーマーレビー工法、鋼矢板を堤体地下の非液状化層まで打ち込んで堤防を強化する工法・・・など)

*しかし国交省は、計画高水までは遮水、ブロックを張るなど破堤しないようにするが、計画高水を超えると簡単に破堤するような堤防のまま放置しておく。

*なぜか。ダムの費用対効果を高く見せるためだ。
 ダムは想定される洪水流量(=基本高水流量)を計画高水流量以下に下げるためにつくる。ダムで下がる水位はたかだか十数センチ程度。しかし、その十数センチによって想定洪水を計画高水以下に下げるという計算をする。それによって、ダムがなければ全面破堤で、ダムがあれば無破堤とする計算をすることができ、ダムの費用対効果を高く見せることが可能。

*このようなダム建設の理屈は、国民に向けてつくったのではない。大蔵省を説得するためにつくった理屈。

*淀川水系では越流しても破堤しない耐越水堤防の整備を最優先に掲げたが、潰されてしまった。

*国交省は平成10年度の重点施策として耐越水堤防を掲げたが、ダムの必要性を担保するためにこれをやめた。耐越水堤防によって川辺川ダムが不要となるという調査結果が出たため、ダム建設の口実ために耐越水堤防の整備を止めた。

  
 以上。宮本さんの講演の核心部分を紹介しました。
 ちなみに計画高水流量の説明は、国交省作成の以下の図をご参照ください。



http://www.thr.mlit.go.jp/yamagata/river/enc/words/02ka/ka-011.html



 国交省は、耐越水堤防を潰すために、2008年に日本土木学会の御用学者たちを動員して、耐越水堤防を止めるように勧告させ、権威づけを行いました。
 土木学会は、「堤防で越水が生じた場合、計画高水位以下で求められる安全性と同等の安全性を有する構造物すなわち耐越水堤防とすることは、現状では技術的に見て困難である」「長大な堤防においては、工学的な意味の安全性の確保が経験的になされており、そこで確保されている安全性と同等の安全性を工学的に導くことのできる越水対策の設計技術は現状では確立されていない」と結論し、国交省はその答申を受けて中止しています。
 今年の鬼怒川堤防決壊も、このような文脈で発生しているのです。
 その土木学会の見解は以下のサイト参照。

https://www.yodogawa.kkr.mlit.go.jp/news/news_detail.php?id=397

 ダム利権のために水害を引き起こしやすい堤防のまま放置する土木学会の見解をまとめた方々は以下の諸委員です。



 宮本さん講演会の会場には、耐越水堤防の開発にかかわっていた国交省土木研究所のOBの方も来ていらっしゃいました。「技術的に確立されているにも関わらずそれをさせないというのは犯罪だ」と述べておられました。

 同感です。上記見解をまとめた方々は、日本の司法がまともであれば有罪だと思います。この方々の答申のおかげで、今後も脆弱な堤防は放置され続け、堤防決壊による水害が発生してしまうからです。

 この委員の方の中には、今回の鬼怒川水害の原因究明のための鬼怒川堤防調査委員会にも入った方がいます。水害の戦犯が、自らの犯罪を隠蔽するため、調査委員会に入って揉み消しを図っているいるようなものです。
 

 国交省は、「堤防は下流から整備するのが順序なので、上流は当面放置せざるを得ない」と主張します。あたかも、人口の少ない上流で破堤の被害が出るのは、人口の多い下流で破局的な被害が出るのを回避するための、やむを得ない犠牲だといわんばかりです。上流の脆弱な堤防を、ある種の「霞堤」と考えているということです。

 ならば、破堤してしまうような霞堤ではなく、越流しても破堤しないで溢れさせるという本当の霞堤を上流で整備すべきでしょう。すなわち、武田信玄がかつてやったように、周辺に人家のない水田地帯などで越流させることです。意識的に被害の少ない場所で、耐越水型の工法で、堤防高を他よりも若干低くする霞堤をつくれば、水はそこで溢れ、死者が出るような被害は発生しないのです。


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