代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

東郷えりか著『埋もれた歴史 ―幕末横浜で西洋馬術を学んだ上田藩士を追って』(パレード)

2020年09月13日 | 松平忠固
 出版されたばかりの本を紹介したい。東郷えりか著『埋もれた歴史 ―幕末横浜で西洋馬術を学んだ上田藩士を追って』(パレード)。
 著者は、『科学の女性差別とたたかう』(作品社)、『この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた』(河出書房新社)、『馬・車輪・言語――文明はどこで誕生したのか』、『エンゲルス マルクスに将軍と呼ばれた男』(以上、筑摩書房)などの訳者として著名な東郷えりか氏。訳書多数ですが、ご自身の著書はこれが初めてとのこと。
 東郷氏は、知られざる日本開国の父・松平忠固に仕えた上田藩士の門倉伝次郎の玄孫である。忠固に仕えた西洋馬術の専門家であった門倉伝次郎は語学の才能に恵まれ、オランダ語と英語を解し、同僚の赤松小三郎とともに、日本でいち早く英書の翻訳能力を持つようになった逸材であった。難解な専門書の翻訳本を次々に刊行している東郷氏も、血は争えないものである。

 東郷氏と私は、先行研究のほとんどない松平忠固について調べるにあたって、互いに文献情報などを交換し合っていた。いわば研究仲間である。東郷氏は、先祖の事跡を追いかけていく中で、先祖が仕えていた松平忠固がじつに面白い人物だと気づき、調べ始めたということであった。

 本の表紙の写真の黒毛の馬にまたがるのが、松平忠固の息子にして、最後の上田藩主となったイケメン殿様の松平忠礼。馬の引綱を握っているのが門倉伝次郎である。この人物が門倉伝次郎に間違いないということも、この本を通して東郷氏が苦労して突き止めた研究成果である。
 この黒毛の馬は、「飛雲」という名で、調教したのは、なんと当時横浜に駐屯していたイギリス陸軍のアプリン大尉。アプリン大尉から英語と西洋馬術を教わっていた門倉伝次郎が、藩主のこの馬を西洋式で調教してくれるよう頼みこんだのだ。ちなみに赤松小三郎も『英国歩兵練法』の翻訳に際して、アプリン大尉から英語の指導を受けている。

 この史実を発掘する過程で、東郷氏は、facebookを通してイギリス在住のアプリン家のご子孫とも友達になり、先祖同士が横浜で師弟関係にあったという縁をたどって、家族ぐるみで交流を始め、幕末史の重要人物でありながら日本の歴史学者もまったく注目してこなかったアプリンの実像も誰よりも深く調べたのである。一枚の写真からイモヅル式に知られざる史実が次々に掘り起こされていく。そうした研究過程でのエピソードも満載なのが本書の魅力である。

 歴史研究の領域において、アマチュア研究者の果たす役割は大きいということが本書を読むとよくわかるであろう。専門家も注目してこなかった重要人物の事跡が次々に発掘されていく過程は小気味よい。

 門倉伝次郎の人間関係に次々に関心が広がり、アプリン大尉のみならず、伝次郎が仕えた松平忠固の事績から、忠固の息子の忠礼・忠厚兄弟の米国における学問業績、伝次郎と恩師の佐久間象山との関係など、知られざるいくつもの史実を発見した。

 たとえば「アメリカの学術誌に初めて論文が掲載された日本人は誰か?」と訊かれて分かる人はいるだろうか? 多分、現時点では、林修さんですら知らない事実ではないかと思われる。不思議なほどに知られていない重要人物たちの知られざる事跡が次々に明らかになるのが本書である。
 
 自費出版につき、一般の書店ではほとんど扱っていない本である。興味のある方は是非ネットで購入していただきたい。

honto:
https://honto.jp/netstore/pd-book_30510371.html

e-hon
https://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000034108227&Action_id=121&Sza_id=C0

7net
https://7net.omni7.jp/detail/1107127331

楽天ブックス
https://books.rakuten.co.jp/rb/16440126/

アマゾン: 
https://www.amazon.co.jp/dp/4434278231
  


最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
書籍購入 (蟠龍)
2020-09-23 13:32:27
はじめまして。いつも貴重な、考える切っ掛けをお作りいただき有難うございます。
今回ご紹介いただいた「埋もれた歴史」の御本、早速購入いたしました。近所の書店にありました。
「日本を開国させた男、松平忠固」も平積みになっていたので、ようやく購入いたしました。早速読ませていただきます。
では、これからも楽しみにしております。
返信する
感謝申し上げます ()
2020-09-23 19:36:37
蟠龍さま

 興味をもって下って、ありがとうございます。『埋もれた歴史』ふつうの書店でも販売されてるとは大変に心強いことです。
 拙著については、またご意見・ご批判などございましたらお寄せくださるとうれしく存じます。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。