代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

貯水の実り田んぼダム(東京新聞の記事紹介)

2014年08月04日 | 治水と緑のダム
 現在(2014年8月4日)も降り続いている四国の大雨で被災されている方々にお見舞い申し上げます。多いところでは1000mmも越えているということで、雨量が尋常ではありません。懐疑論者の方々には申し訳ありませんが、気候変動で台風の強度と雨量が今後も増大していくのは避けられないと思います。

 そうした中で、財政的にも技術的にも社会的にも、ダムと河川改修を基軸とする従来の国交省の治水方式のみでは対応が難しくなっています。
 そうした中、今年の3月に滋賀県では流域治水条例が成立し、流域全体で雨水を貯留し、また地下に浸透させるという「流域治水」が注目を浴びています。

 本日の「東京新聞」の特報面で、篠ケ瀬記者が、「田んぼダム」について紹介されています。新潟で始まった方式は水田の排水溝に調整板を設置するのみでよく、簡便で費用が安く、効果が高いことがよくわかります。ぜひご参照ください。

 記事では田んぼダムの推進に国交省は及び腰で、本気で取り組もうとしていない点も指摘されています。その中で、国交省はダムを造りたいがために、田んぼダムの機能を真剣に評価しようとしないのだ、という趣旨の私のコメントも紹介されています。(じつは昨日の投稿で取り上げた江戸の防災の要・真田濠の記事は、この田んぼダムのことで、篠ケ瀬記者とやりとりしていた際に関連して話題になり、篠ケ瀬記者が取材してくださったものでした)

 ちなみに、三つ前の記事で紹介した梶原健嗣著『戦後河川行政とダム開発』では、国交省が他の治水方式から目を背け、「治水=河川改修+ダム」という視野狭窄に陥っている理由は、同省のパターナリズムにあるということでした。その『戦後河川行政とダム開発』の書評が昨日(8月3日)の朝日新聞に掲載されていました。評者は環境経済学者の諸富徹先生です。一部、紹介します。

***『朝日新聞』2014年8月3日書評欄より一部引用(評者・諸富徹)****

梶原健嗣著『戦後河川行政とダム開発』(ミネルヴァ書房)

 本書を通じて河川工学に基づくダム建設の論理がその実、きわめて根拠薄弱で、時には誤謬を含む曖昧なものだということが次々と明らかにされていく瞬間は、思わず嘆息せざるをえない。

 その結論が現実から大きく乖離し、説明能力をもたないのは、用いられる「科学」そのものが根本的に誤っているか、あるいはダム建設を正当化するよう歪められているかのどちらかだ。

 著者は、「何が何でもダム」ではなく、社会的弱者に被害が集中する最悪の「破堤」を回避する堤防強化こそが急務だと強調する。
 
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9 コメント

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水田の治水機能 (たんさいぼう影の会長)
2014-08-04 11:31:47
農地の洪水防止機能は、2001年の学術振興会答申によると年3兆5千億円/年ほどで、その大部分が水田によるもの。一方、この頃の米の生産額は、すでに3兆円/年を切っていたはずです。つまり、正の外部経済の内部化のためには、米の生産額とほぼ同等の補助金を支出する必要があることになります。もっとも、代替法の比較対象になっている「ダム建設」が、費用対効果の面でスカだというのはあるのですが。
http://www.maff.go.jp/j/nousin/noukan/nougyo_kinou/pdf/kaheihyouka.pdf
ただしこの「洪水防止機能」には、農家が大雨の時に堰板を外すことが多いため、実際には十分に機能していないという批判もあります。特に登熟期以降に田んぼが水に浸かるのは、米の減収や品質低下の原因になるので、これは無理からぬことです。田んぼダムを根付かせるためには、冠水があった年には補償金を支払うなどの対策も必要でしょう。
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たんさいぼう影の会長さま ()
2014-08-06 18:51:44
>田んぼダムを根付かせるためには、冠水があった年には補償金を支払う

 本当にこれを是非実施して欲しいと思います。調整板
の設置と、その維持管理を条件に、補償金を支払うようにすれば、減反に代わる農業支援策になります。
 実際に、ダムにベラボーな額の血税を費やしている現状をかんがみれば、その程度の予算は安いものであることが分かるはずなのですが・・・・。
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Unknown (12434)
2014-08-07 12:36:20
お久しぶりです。実は私は稲作農家をやっているので、なかなか興味深い話ですね。
水田は登熟期になると水を切りしますが、これは米の質や収量のことに加えて、収穫作業の問題もあります。それなりに水を抜いておかないと、稲刈りが大変になります。
しかし減反に替わる新しい政策の一つとしては、確かに意義があると思います。
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素人考え (りくにす)
2014-08-07 18:11:43
素人なのでよくわかりませんが、収穫期の迫っている田んぼに水を入れるのは稲のためには好ましくないのですね。
耕作が放棄されている田んぼは活用できないのでしょうか。そういう田んぼは家から遠かったり水が引きにくかったりして優先順位が低いのだろう、ということはなんとなくわかりますが。草が生えてる状態でもいいのか、畦は塗っとかなくてもいいのか。誰が管理するのか、忘れたころに決壊したりしないのか、と気になることはあります。ダムを作らなくても治水ができるのは素晴らしいと思いますが、将来は浮稲型の新品種とか、水陸両用稲刈り機が必要になるのでしょうか。
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水が溜まるのは豪雨時だけです ()
2014-08-07 18:49:59
12434様

 ご無沙汰しております。お元気そうで何よりです。
 
>それなりに水を抜いておかないと、稲刈りが大変になります。

 詳しくは新潟の参加農家の方に聞かないと分かりませんが、収穫前は水を抜いておいて大丈夫なはずです。水を抜いた後調整板は付けて、いざ台風などが来た場合、一時的に貯留ということになります。台風が去ったら、またすみやかに排水すればよいということになります。
 いざというときに治水機能を果たすための管理の手間に対して(ダムの管理者と同じですから)、一定額の報酬金を出すということですね。これは補助金とか補償金とは違った、治水への貢献に対する報奨金ですね。
 最近、補助金というだけで、すぐにネガティブな攻撃をする人も多いので・・・(苦笑)。この場合、防災活動への寄与に対する報奨金なのですから何の問題もありません。
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Unknown (12434)
2014-08-07 20:19:23
農地の多面的機能の一つに水田の治水があるのは有名ですが、評価してくれる方はあまりいないと思いますね。だから管理人様には感謝しています。

一つ気になったのは、最近の稲作では無代かきが流行りつつあることです。私はやったことがないのですが、話によると田んぼが歩き易くなるほど固くなるらしいです。

代かきやった後だとどうしてもゴミ(去年の稲の株や根)が浮いて、拾うのが大変のです。そこで、無代かきによる労力削減などが最近注目されています。
しかし地面が固くなると水が浸透しなくなりますので、治水機能が下がる気もします。今度知り合いの農協職員に聞いてみたいとは思いますが。

ちなみに私は酪農学園大学の農業経済学科を卒業しています。ミクロ経済学もそこそこ勉強しましたが、関先生の新古典派への批判にはすごく興味を持っています。
それについて、あとで上の記事にもコメントしたいと思ってます。
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追記 (12434)
2014-08-08 00:31:12
厳密にいうと全く水が浸透しなくなるわけではないと思いますが、それなり浸透する水量は減る気はします。
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浸透が低下しても田んぼダムには影響少 ()
2014-08-08 09:05:49
>地面が固くなると水が浸透しなくなりますので、治水機能が下がる気もします。今度知り合いの農協職員に聞いてみたいとは思いますが。

 おはようございます。
 浸透が下がるのは事実と思いますが、浸透は地下水の涵養の際に重要な要素です。田んぼダムの場合、排水を絞ることによって畦畔の上部まで豪雨ピーク時に一時的に貯留することを主眼としています。水田の浸透能が下がっても、貯留機能が確保されていることが大事なので、それほど負の影響はないと思います。
 また渇水年の場合、浸透しにくくなることは節水になりますので、良いことも多いような気がします。

PS 新古典派(私は一種のカルトと思っています)の問題、広範な議論が必要な課題と思っています。ぜひコメント下さい。
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12434様 (たんさいぼう影の会長)
2014-08-09 23:44:00
おかげさまで、このトピックが実りのあるものになっていて、嬉しく思います。
水の浸透が少なくなることは、治水上も多少とも不利になるものと思います。私がものの本で読んだり農家に聞いたりした限りでは、水田の適正な日減水は1.5~3cm程度であり、そこから1cmを引いたくらいが浸透量だと聞いています。やはり多少とも地下に水を逃してもらった方が、洪水時の流出を抑えられると思います。
今回の本題とは外れますが、水田の水は多少とも浸透してもらわないと、土壌が強還元化しやすくなり、中干しを早く長期に行う必要が生じてきます。特に「ふゆみずたんぼ」などを行う際には、適度な浸透が還元障害を防ぐので、浸透の確保は必須です。
ただ、「ふゆみずたんぼ」を含む不耕起農法でも、イトミミズ類などの動物が土壌をかき回してくれれば、浸透量はあまり落ちないようです。むしろ重機を何度も走らせることによる「耕盤」の形成が、適度な浸透を妨げているようにも思われます。
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