前田武志国土交通大臣が八ッ場ダム建設の再開を表明しました。私は、たとえ予算が計上されようとも、本体の着工が始まるその日まで、最後まであきらめず建設中止を求め続けます。
本体が着工されようとも、ダム建設に伴う問題が噴出するのはその後のことです。まず一都五県の人々は安全でおいしい地下水からの取水量を減らされたうえで、八ッ場ダムからのまずく危険な水(ヒ素濃度が高い)を飲まされることになります。危険な水を飲まされた挙句、ダム建設コストが水道料金の値上げとなって跳ね返ってきます。
さらに長期的には、ダム湖の建設により地すべり災害の誘発される可能性が高く、ダム建設のコストは建設後も高くつき、その負担は納税者に重くのしかかることでしょう。
そうしたことが発生するとわかっていながら、現代の関東軍たる関東地整は建設を強行せんとしています。問題が発生するのは、彼らが天下った後だから、「知らぬ存ぜぬ、後は野となれ山となれ」というところでしょうか。野や山になるならまだよいのですが、八ッ場ダムは山を崩すのです。
この無責任な官僚支配体制を変えねばなりません。彼らが八ッ場ダム建設を強行する以上、彼らに責任を取らせねばなりません。この巨大な失敗による負の教訓を契機に、官僚の独裁体制が改まる契機になれば、多大な犠牲に報いるためのせめてものなぐさめでしょう。
私も呼びかけ人に名を連ねております「ダム検証のあり方を問う科学者の会」として以下のような抗議声明を前田大臣に送付いたしました。
*****声明文引用***************
2011年12月22日
国土交通大臣 前田武志様
八ッ場ダム本体工事費の予算案計上に関する抗議声明
ダム検証のあり方を問う科学者の会
共同代表:今本博健、川村晃生
今般、前田武志国土交通大臣が八ッ場ダム本体工事費の予算案計上を表明したことに対し、私たち「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は、強い憤りを覚え、これに厳しく抗議するものです。
八ッ場ダム建設の根拠はすでに破綻しています。利水における水需要の減少、治水におけるダムの効果の過大評価、さらに災害誘発の危険性についての検証の不徹底など、私たちが提起した問題に、国交省側はまったく答えることができませんでした。二度にわたる有識者会議の公開討論会への参加拒否がそれを雄弁に物語っています。
1995年のダム事業等審議委員会における議論、1997年の河川法改正、2001年から始まった淀川水系流域委員会の活動を経て、日本の河川行政はダムに頼らない治水対策へと大きく方向転換する兆しが見え始めました。その動きの中で、事業に着手して以来、半世紀近くが経ち、多くの費用を投入した八ッ場ダムが事業の継続か中止か、いずれに決するかは、きわめて象徴的な意味を持っていたと言えます。そこに2009年、民主党政権が誕生し、新しい政治が始まるという予兆を感じさせて、私たちはダム問題も新たな方向が目指されるであろうことを確信して期待したのです。
当初、民主党政権は「コンクリートから人へ」を政策の根本に据え、ダム問題に限らず、公共事業全体を大転換させていくことを宣言しました。当時の前原誠司国土交通大臣が八ッ場ダム中止を言明した時、私たちはダム時代の終焉を予感したものです。しかしそうした期待はすぐに裏切られ、ダム行政の実権は徐々に政治家から官僚へと移っていきました。その結果がこの度の八ッ場ダム本体工事費の予算案計上になったと言えると思います。
冒頭に述べたように、八ッ場ダム建設の科学的根拠はすでに破綻しています。破綻した根拠によって、ダム事業を進める政策をとろうというのですから、この政策は必ず失敗します。もろもろの局面でその失敗が明らかになった時、いったい国交省はその責任を誰がどのようにとるのか、それを国民にはっきりさせるべきです。これまで日本の行政は、そうした責任のとり方がきわめて曖昧でした。
さて、こうした形で建設再開の方針が表明されたからと言って、私たち「科学者の会」が、これで八ッ場ダム問題と縁が切れるというわけではありません。これから私たちにはしなければならないさまざまな仕事が残されています。一つは事業が進む中で、すべての局面の監視と提言です。事業は必ず失敗するはずですから、その失敗をできるだけ未然に防ぐ手立てを講じなければなりません。
たとえ本体着工に至り、また本体が完成したとしても、私たちはそれを続けるつもりです。そして八ッ場ダム事業の失敗が国民の誰の目にも明らかになった時、それはダム撤去へと向かうことになるはずです。私たちはその時まで、八ッ場ダムと関わり続けるつもりです。
若山牧水が100年近く前に、土地の有志家でも群馬県の当局者でも誰でもいい、どうかこの美しい吾妻渓谷の永久の愛護者になってほしい、と願ったその群馬県の当局者が、国と関係都県と共に吾妻渓谷の破壊者になってしまうことを、私たちは心から憂慮するものです。そして、八ッ場ダム本体工事によって、吾妻渓谷の美観が次の世代の人たちに渡せなくなることに怒りを覚えざるをえません。
以上、憤りと悔恨をもって、この度の予算案計上に抗議します。
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
呼びかけ人:
今本博健(京都大学名誉教授)(代表)
川村晃生(慶応大学教授) (代表)
宇沢弘文(東京大学名誉教授)
牛山積(早稲田大学名誉教授)
大熊孝(新潟大学名誉教授)
奥西一夫(京都大学名誉教授)
関良基(拓殖大学准教授)(事務局)
冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授)
西薗大実(群馬大学教授)
原科幸彦(東京工業大学教授)
湯浅欽史(元都立大学教授)
賛同者 127名
本体が着工されようとも、ダム建設に伴う問題が噴出するのはその後のことです。まず一都五県の人々は安全でおいしい地下水からの取水量を減らされたうえで、八ッ場ダムからのまずく危険な水(ヒ素濃度が高い)を飲まされることになります。危険な水を飲まされた挙句、ダム建設コストが水道料金の値上げとなって跳ね返ってきます。
さらに長期的には、ダム湖の建設により地すべり災害の誘発される可能性が高く、ダム建設のコストは建設後も高くつき、その負担は納税者に重くのしかかることでしょう。
そうしたことが発生するとわかっていながら、現代の関東軍たる関東地整は建設を強行せんとしています。問題が発生するのは、彼らが天下った後だから、「知らぬ存ぜぬ、後は野となれ山となれ」というところでしょうか。野や山になるならまだよいのですが、八ッ場ダムは山を崩すのです。
この無責任な官僚支配体制を変えねばなりません。彼らが八ッ場ダム建設を強行する以上、彼らに責任を取らせねばなりません。この巨大な失敗による負の教訓を契機に、官僚の独裁体制が改まる契機になれば、多大な犠牲に報いるためのせめてものなぐさめでしょう。
私も呼びかけ人に名を連ねております「ダム検証のあり方を問う科学者の会」として以下のような抗議声明を前田大臣に送付いたしました。
*****声明文引用***************
2011年12月22日
国土交通大臣 前田武志様
八ッ場ダム本体工事費の予算案計上に関する抗議声明
ダム検証のあり方を問う科学者の会
共同代表:今本博健、川村晃生
今般、前田武志国土交通大臣が八ッ場ダム本体工事費の予算案計上を表明したことに対し、私たち「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は、強い憤りを覚え、これに厳しく抗議するものです。
八ッ場ダム建設の根拠はすでに破綻しています。利水における水需要の減少、治水におけるダムの効果の過大評価、さらに災害誘発の危険性についての検証の不徹底など、私たちが提起した問題に、国交省側はまったく答えることができませんでした。二度にわたる有識者会議の公開討論会への参加拒否がそれを雄弁に物語っています。
1995年のダム事業等審議委員会における議論、1997年の河川法改正、2001年から始まった淀川水系流域委員会の活動を経て、日本の河川行政はダムに頼らない治水対策へと大きく方向転換する兆しが見え始めました。その動きの中で、事業に着手して以来、半世紀近くが経ち、多くの費用を投入した八ッ場ダムが事業の継続か中止か、いずれに決するかは、きわめて象徴的な意味を持っていたと言えます。そこに2009年、民主党政権が誕生し、新しい政治が始まるという予兆を感じさせて、私たちはダム問題も新たな方向が目指されるであろうことを確信して期待したのです。
当初、民主党政権は「コンクリートから人へ」を政策の根本に据え、ダム問題に限らず、公共事業全体を大転換させていくことを宣言しました。当時の前原誠司国土交通大臣が八ッ場ダム中止を言明した時、私たちはダム時代の終焉を予感したものです。しかしそうした期待はすぐに裏切られ、ダム行政の実権は徐々に政治家から官僚へと移っていきました。その結果がこの度の八ッ場ダム本体工事費の予算案計上になったと言えると思います。
冒頭に述べたように、八ッ場ダム建設の科学的根拠はすでに破綻しています。破綻した根拠によって、ダム事業を進める政策をとろうというのですから、この政策は必ず失敗します。もろもろの局面でその失敗が明らかになった時、いったい国交省はその責任を誰がどのようにとるのか、それを国民にはっきりさせるべきです。これまで日本の行政は、そうした責任のとり方がきわめて曖昧でした。
さて、こうした形で建設再開の方針が表明されたからと言って、私たち「科学者の会」が、これで八ッ場ダム問題と縁が切れるというわけではありません。これから私たちにはしなければならないさまざまな仕事が残されています。一つは事業が進む中で、すべての局面の監視と提言です。事業は必ず失敗するはずですから、その失敗をできるだけ未然に防ぐ手立てを講じなければなりません。
たとえ本体着工に至り、また本体が完成したとしても、私たちはそれを続けるつもりです。そして八ッ場ダム事業の失敗が国民の誰の目にも明らかになった時、それはダム撤去へと向かうことになるはずです。私たちはその時まで、八ッ場ダムと関わり続けるつもりです。
若山牧水が100年近く前に、土地の有志家でも群馬県の当局者でも誰でもいい、どうかこの美しい吾妻渓谷の永久の愛護者になってほしい、と願ったその群馬県の当局者が、国と関係都県と共に吾妻渓谷の破壊者になってしまうことを、私たちは心から憂慮するものです。そして、八ッ場ダム本体工事によって、吾妻渓谷の美観が次の世代の人たちに渡せなくなることに怒りを覚えざるをえません。
以上、憤りと悔恨をもって、この度の予算案計上に抗議します。
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
呼びかけ人:
今本博健(京都大学名誉教授)(代表)
川村晃生(慶応大学教授) (代表)
宇沢弘文(東京大学名誉教授)
牛山積(早稲田大学名誉教授)
大熊孝(新潟大学名誉教授)
奥西一夫(京都大学名誉教授)
関良基(拓殖大学准教授)(事務局)
冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授)
西薗大実(群馬大学教授)
原科幸彦(東京工業大学教授)
湯浅欽史(元都立大学教授)
賛同者 127名