私も呼びかけ人に名を連ねております「ダム検証のあり方を問う科学者の会」で以下のような声明を出し、治水有識者会議、国土交通大臣、そして内閣総理大臣に提出いたしました。
治水有識者会議では、委員の中からも疑問点が多く出されているにも関わらず、内部で十分な議論を尽くさず、座長の強引な議事運営によって、国交省の恣意的な「検証」を学者たちが追認してしまっています。「学者」の組織が官僚機構に完全に従属し、「学者の声も聴いた」という官僚たちのアリバイ作りに協力してしまっています。
私たち「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は、有識者会議に対して二回公開討論会の開催を呼び掛けましたが、有識者会議は私たちに直接回答することはなく、国交省の官僚に伝言するという形で、間接的に討論会拒否の連絡してくるのです。
官僚機構の操り人形のように扱われてしまっており、本来あるべきチェック機能を果たせていないことに対して、学者の良心は痛まないのでしょうか。以下、声明文を全文転載させていただきます。
*****以下、引用*******
「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の議論と運営に関する批判的声明
ダム検証のあり方を問う科学者の会 共同代表:今本博健、川村晃生
国土交通省設置の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」は、八ッ場ダムを初めとして、ダムに頼らない治水対策をあらたに検討することを目的として発足しましたが、これまでの議論と現状に鑑みると、その目的からはかなり外れた方向に進んでしまったと言わざるを得ません。
いったいどうしてそのような事態に立ち至ってしまったのかを考える時、私たちは有識者会議が民主的な議論のもとに結論に至るという手続きを踏むのではなく、或る政治的力学の中で結論が形造られてしまっていると判断するものです。
たとえば、新聞報道によれば、(有識者会議が非公開であるため、私たちはこうした二次的情報に頼らざるを得ません。議論は公開されるべきです)、有識者会議において、鈴木雅一東大大学院教授が水需要予測で「予想が大きすぎておかしい」旨を指摘したにもかかわらず、事務局が算出手続きの正しさを強調するだけで、これに噛み合う議論はなされなかった由であり、また、こうした審議形態は他のダムの場合でもくり返されていたようで、議論自体が形骸化し、儀式としての審議がなされているように思われます。ここには事務局、すなわち国交省の主導による設定された路線への誘導があると見られ、有識者会議が議論の場になっていない現実が浮き彫りにされています。
つまり、すでにダムを建設することが前提としてとり決められており、その結論に至るための儀式を有識者会議が執行しているに過ぎないと言っていいでしょう。審議の中で、どのような異論が科学的根拠を伴って出ようとも、それを正面から取り上げず、事務局や座長があらかじめとり決められている結論にリードしてしまう、そのような審議形態は、本来審議に値するものではなく、ただのアリバイ工作をしているにすぎません。
私たちはこうした事務局や座長の匙加減一つで思いのままに進んでいき、結論に至ってしまう審議を、科学的かつ民主的なものとは考えていません。そして、このような形で得られた結論がそのまま政策に反映されれば、それは必ず失敗に終わると確信するものです。
またこのような審議を是とする有識者会議であれば、それを構成する委員各位の科学的良心にも信頼を置くことはできません。それは、科学者の会が呼びかけた二度にわたる公開討論会への参加を拒否した態度に通じるのではないでしょうか。またその拒否の回答は、本当に委員各自の発意に基いたものなのでしょうか。
以上の点から私たちは有識者会議の議論と運営のあり方を、厳しく批判するものです。それは国交省関東地方整備局で11月4日に行われた「学識経験者の意見聴取」において、座長が議論を封じるような発言をして議論を閉じたことに通じるものと言えるでしょう。私たちは有識者会議が科学者の名に恥じぬような議論と運営をされることを強く望みます。国交省は有識者会議を自由で民主的な議論の場とし、その結論を尊重する第三者的立場に立つべきです。そうした意味において、私たちはこれまでの有識者会議の議論を作為的で無効なものと考え、改めて真摯で科学的な議論がなされるよう、貴省と内閣総理大臣に強く訴えるものです。
2011年12月14日
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
呼びかけ人:
今本博健(京都大学名誉教授)(代表)
川村晃生(慶応大学教授) (代表)
宇沢弘文(東京大学名誉教授)
牛山積(早稲田大学名誉教授)
大熊孝(新潟大学名誉教授)
奥西一夫(京都大学名誉教授)
関良基(拓殖大学准教授)(事務局)
冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授)
西薗大実(群馬大学教授)
原科幸彦(東京工業大学教授)
湯浅欽史(元都立大学教授)
****引用終わり************
治水有識者会議では、委員の中からも疑問点が多く出されているにも関わらず、内部で十分な議論を尽くさず、座長の強引な議事運営によって、国交省の恣意的な「検証」を学者たちが追認してしまっています。「学者」の組織が官僚機構に完全に従属し、「学者の声も聴いた」という官僚たちのアリバイ作りに協力してしまっています。
私たち「ダム検証のあり方を問う科学者の会」は、有識者会議に対して二回公開討論会の開催を呼び掛けましたが、有識者会議は私たちに直接回答することはなく、国交省の官僚に伝言するという形で、間接的に討論会拒否の連絡してくるのです。
官僚機構の操り人形のように扱われてしまっており、本来あるべきチェック機能を果たせていないことに対して、学者の良心は痛まないのでしょうか。以下、声明文を全文転載させていただきます。
*****以下、引用*******
「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」の議論と運営に関する批判的声明
ダム検証のあり方を問う科学者の会 共同代表:今本博健、川村晃生
国土交通省設置の「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」は、八ッ場ダムを初めとして、ダムに頼らない治水対策をあらたに検討することを目的として発足しましたが、これまでの議論と現状に鑑みると、その目的からはかなり外れた方向に進んでしまったと言わざるを得ません。
いったいどうしてそのような事態に立ち至ってしまったのかを考える時、私たちは有識者会議が民主的な議論のもとに結論に至るという手続きを踏むのではなく、或る政治的力学の中で結論が形造られてしまっていると判断するものです。
たとえば、新聞報道によれば、(有識者会議が非公開であるため、私たちはこうした二次的情報に頼らざるを得ません。議論は公開されるべきです)、有識者会議において、鈴木雅一東大大学院教授が水需要予測で「予想が大きすぎておかしい」旨を指摘したにもかかわらず、事務局が算出手続きの正しさを強調するだけで、これに噛み合う議論はなされなかった由であり、また、こうした審議形態は他のダムの場合でもくり返されていたようで、議論自体が形骸化し、儀式としての審議がなされているように思われます。ここには事務局、すなわち国交省の主導による設定された路線への誘導があると見られ、有識者会議が議論の場になっていない現実が浮き彫りにされています。
つまり、すでにダムを建設することが前提としてとり決められており、その結論に至るための儀式を有識者会議が執行しているに過ぎないと言っていいでしょう。審議の中で、どのような異論が科学的根拠を伴って出ようとも、それを正面から取り上げず、事務局や座長があらかじめとり決められている結論にリードしてしまう、そのような審議形態は、本来審議に値するものではなく、ただのアリバイ工作をしているにすぎません。
私たちはこうした事務局や座長の匙加減一つで思いのままに進んでいき、結論に至ってしまう審議を、科学的かつ民主的なものとは考えていません。そして、このような形で得られた結論がそのまま政策に反映されれば、それは必ず失敗に終わると確信するものです。
またこのような審議を是とする有識者会議であれば、それを構成する委員各位の科学的良心にも信頼を置くことはできません。それは、科学者の会が呼びかけた二度にわたる公開討論会への参加を拒否した態度に通じるのではないでしょうか。またその拒否の回答は、本当に委員各自の発意に基いたものなのでしょうか。
以上の点から私たちは有識者会議の議論と運営のあり方を、厳しく批判するものです。それは国交省関東地方整備局で11月4日に行われた「学識経験者の意見聴取」において、座長が議論を封じるような発言をして議論を閉じたことに通じるものと言えるでしょう。私たちは有識者会議が科学者の名に恥じぬような議論と運営をされることを強く望みます。国交省は有識者会議を自由で民主的な議論の場とし、その結論を尊重する第三者的立場に立つべきです。そうした意味において、私たちはこれまでの有識者会議の議論を作為的で無効なものと考え、改めて真摯で科学的な議論がなされるよう、貴省と内閣総理大臣に強く訴えるものです。
2011年12月14日
「ダム検証のあり方を問う科学者の会」
呼びかけ人:
今本博健(京都大学名誉教授)(代表)
川村晃生(慶応大学教授) (代表)
宇沢弘文(東京大学名誉教授)
牛山積(早稲田大学名誉教授)
大熊孝(新潟大学名誉教授)
奥西一夫(京都大学名誉教授)
関良基(拓殖大学准教授)(事務局)
冨永靖徳(お茶の水女子大学名誉教授)
西薗大実(群馬大学教授)
原科幸彦(東京工業大学教授)
湯浅欽史(元都立大学教授)
****引用終わり************
120人を超えるが学者グループが「公開の場での科学的な検証を」を呼びかけているそうです。三つの問題点をあげ、その内の一つが「八ツ場ダムの洪水調節効果をめぐる計算が変わった根拠は何か」になっています。計算を変えた根拠は分かりませんが、計算を変えた部分は分かります。
1. 洪水の規模を17000m3/sにしたこと。カスリーン台風の推定流量か、目標流量を参考にしたのでしょう。今までは計画雨量(319mm/3日)まで引き伸ばした対象降雨の洪水調節容量を平均していました。今回はピーク流量が17000m3/sになるようにして、その際の洪水調節容量を計算しました。
2. 流出解析は貯留関数法を少し改良ました。飽和雨量を大きくしました。
3. 雨量と降雨波形に変更がありました。雨量確率1/200の計画雨量が319mmm/3日から336mm/3日になりました。
そのような前提で得られた結果として洪水調節効果を受け止めるだけでしょう。計算を変えた根拠は言うまでもなく八ツ場ダムの洪水調節容量を大きくするため以外はないでしょう。
私は河川工学者が利根川の治水安全度1/200における基本高水流量22000m3/sの過大さを問題にしようとしないことを不思議な思いで見ています。基本高水流量をベースとした河川整備に反対する立場の学者がいるのは知っていますが、過大な基本高水流量の議論を無視して利根川の河川整備計画を論ずることは、現状の国交省の河川政策を根本的に変えない限り不可能でしょう。
日本学術会議河川流出モデル・基本高水評価検討等分科会で治水安全度1/200の基本高水流量22000m3/sを検証したことになっています。しかし国交省関東地方整備局で採用された総合確率法で、一定流量における雨量群の超過確率を対象に流量確率1/200におけるピーク流量を求める方法は誤っていて、雨量確率手法にしたがって一定雨量におけるピーク流量群の超過確率を対象にして、流量確率1/200におけるピーク流量を求めるべきなのです。公開説明会で私の質問に答えて、椎葉先生はf(R,Qp)についてRに関して積分してQpだけが変数として残ったものが周辺確率と答えましたが、一定流量(実際の計算では一定雨量)における雨量群の超過確率を対象にした計算では、f(R,Qp)は求められません。f(R,Qp)を求めようとしたら、一定雨量におけるピーク流量群を対象にした計算をすべきなのです。
国交省関東地方整備局にこの方法で再計算すべきことを提言していますが無視されています。
総合確率法の計算で使用された確率雨量と計算流量の散布図が公開されていますが、その散布図より計画雨量336mm/3日のピーク流量群の中央値を求めたところ19000m3/s程度になりました。この結果から治水安全度1/200における基本高水流量は19000m3/s程度と思われます。正確には関東地方整備局で計算された結果を待つ必要がありますが、もし19000m3/s程度であることが明らかになれば、「八ツ場ダム建設事業の検証に係わる検討報告書」記載の目標流量17000m3/sの妥当性に疑問符がつきます。「八ツ場ダムの洪水調節効果をめぐる計算が変わった根拠は何か」はこの問題から派生する低次の問題だと思われます。
利根川の河川整備計画の向こう20~30年の目標流量17000m3/sは年超過確率(流量確率に同じ)1/70~1/80として決定されています。直轄管理区間の河川整備計画では、急流河川等の例外的なものを除けば、河川整備計画の目標流量の規模は年超過確率1/20 から1/70の範囲であるとされています。従来は流量確率が1/50程度の15000m3/sを目標流量にしていましたが、今回利根川の河川整備の重要性を考慮して、流量確率1/70~1/80の目標流量17000m3/sにしたようです。
ところが流量確率1/70~1/80である目標流量17000m3/sは、流量確率1/200におけるピーク流量22200m3/sを決定した流量確率から決定されています。流量確率1/200におけるピーク流量19000m3/sから決定された目標流量17000m3/sの流量確率は1/125程度になります。この結果から目標流量17000m3/sの流量確率は1/70~1/80をはるかに越え、直轄管理区の河川整備計画での目標流量の流量確率の範囲を越しています。
ちなみに基本高水流量を19000m3/sにした場合に、流量確率1/70~1/80に見合うピーク流量を概算すると14500m3/s程度になります。河川整備計画は根本的に見直す必要があるでしょうし、ダムと代替案の比較も流量14500m3/s程度で実施する必要があるでしょう。
国交省関東地方整備局が、利根川の河川整備計画の基礎となる治水安全度1/200の基本高水流量をなぜ正しく計算しないのかについても、「公開の場での科学的な検証を」での問題点として取り上げていただきたいと思います。治水安全度1/200における適切な基本高水流量の決定法についての議論をすることを希望します。事務局をされている関先生のご活動を期待しています。
以上
八ッ場ダムでは、ついに国交省に強引に押切られてしまいました。しかし基本高水の算出法の疑問はいよいよ深まり、多くの人々がそのブラックボックスに問題があるという事実を認識してくださったのではないかと思います。これからも頑張ってまいりましょう。
国交省は、ご指摘のような確率論での疑問にも答えていませんし、貯留関数法そのものも従来の方式から変えてしまって計算プログラムを公開せず、第三者が検証不可能な状態にしたままです。学術会議に新モデルの貯留関数法に関して質問状を出しましたが、返事もかえってきません。
このような不透明で非科学的な「検証」を決して認めてはならないと思います。近い将来、第三者による「公正な検証の場」を再設定させるように求めて参りましょう。