代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

自由貿易からの勇気ある撤退を

2008年10月04日 | 自由貿易批判
 今回の米国の金融危機で明らかになったことは何か。金融立国は不可能だということ。汗水たらさず、人様から預かったカネや借りたカネを右から左に流すだけで、年収1000万ドルなんてあり得ないということなのだ。ウォール街の破廉恥なまでの高給は、世界中の低賃金労働者からの収奪(搾取ですらない)によってのみ可能だったのだ。

 製造業をひたすら衰退させておいて、外国が生産したモノをただ消費するだけなんてキリギリス的経済構造は、およそ持続不可能だということが明らかになったのだ。これでアメリカは貿易赤字を垂れ流すことはできなくなった。ドルが基軸通貨じゃなくなるのだから、錬金術もおしまいだ。米国人も今回のことで気づくはずなのだ。国内の産業を空洞化させながら、基軸通貨の特権の上にあぐらをかいて、借金しながらひたすら浪費に励むなんて、許されてはならないことを。
 アメリカは、またモノ作りを始めなければならない。コツコツと汗水たらしく働くことを忘れ、金融でメシを食おうと発想した時点で、米国人のモラルもおかしくなった。儲けるためには何をしてもいいんだという風潮が広がり、世界にアメリカの基準を押し付けろという、まことに傲慢な国になった。それによって人間の精神そのものが荒廃していったのだ。

 日本や中国も今回のことで学ぶはずなのだ。輪転機を回して貿易決済ができる米国という特殊な国に輸出して黒字を稼ぐことなど、莫大なリスクを抱え込むのみで、自国民の利益にも反するし、何ら持続可能なものではないことを。
 日本も中国もインドも韓国も、その他の国々も、低賃金競争を繰り広げながら対米輸出で豊かになろうなんて幻想は今すぐ捨てねばならない。今まで切り捨ててきた国内の農村や地域社会を豊かにするという内需拡大政策を通して、輸出経済から内需経済への転換を図ることによってしか、この恐慌から脱出する方法はないのだ。
 
 同時に、日本と中国は今こそ手を組んで、私がかねて主張しているように「対アメリカ債権国会議」を組織し(この記事この記事)、アメリカが借金を踏み倒すという破産戦略に出ることがないよう共同行動をとり、新しいニューディール政策によってアメリカ経済を立ち直らせ、デフォルトを回避させねばならない。

 金融だけで国が成り立つなんてことはあり得ないということが明らかになった今、米国が進むべき道は何だろうか? 答えは一つ。健全な製造業と健全な農業を復興し、一次・二次・三次が調和のとれた状態に戻すこと。本来あるべき姿に戻ることだ。

 アメリカの製造業はガタガタだが、農業は立派にやっているではないかと思う人がいるかも知れない。あんな投機的農業は本来あるべき農業ではない。健全な農業に戻れというのは、開拓当初の、一世帯の所有規模がせいぜい20から40ha程度の、小規模な家族的農業経営に立ち返れということなのだ。
 
 そのためには、今こそ、自由貿易体制を終わらせ、公正で持続可能な管理貿易へと転換することを真剣に検討せねばならない。すべての国に対して、一次・二次・三次産業の調和を保ちながら発展していく権利を保障せねばならない。そのためには自由貿易を終わらせるという勇気ある決断が必要なのだ。そうすれば「国際競争力強化」などという魔語の呪縛から、我々は解放さる。各国が破滅的な低賃金競争を繰り広げることなく、安心して安定した雇用と賃金を確保できるのである。

 さしあたり、米国の製造業を復活させるために必要なこと。米国が工業製品に対する関税を引き上げるのを国際社会が許すことだ。それと引き換えに、日本、中国、韓国、インドなどなどの対米貿易黒字諸国は、農産物の関税を引き上げることを米国に認めさせねばならない。それで二国間の貿易収支が均衡するように調整する。また、為替レートの変動相場制から固定相場制への回帰も必要だ。さしあたり、国際経済秩序をニクソン・ショック以前の状態に戻すことを目指そう。

 日本も中国もインドも、農産物関税引き上げによって国内を安定させるという途を選択すべきなのだ。国内の農村や地域社会を豊かにしながら、失った外需を補う内需を創出することを目指さねばならない。そうすれば、中国では失地農民の問題も解決されるし、インドでは農家の自殺者もいなくなる。日本の農家も作れば作るほど赤字と借金が増えていくなんて事はなくなる。

 もともとリカードに始まる経済学の貿易論は、「貿易収支が均衡する」という前提の上に構築されている。基軸通貨国の貿易赤字が累積的に膨らんでくるという、貿易不均衡がバブルのように膨らむ自由貿易体制を肯定する貿易理論など、新古典派の枠組みの中にすら存在しない。国際的に貿易収支を均衡させねば国際経済は安定せず、均衡させるためには貿易の管理が必要になるのだ。そのための関税を許容した新しい貿易体制を、国際社会は協力しながら構築せねばならない。

 1930年代は、米国を筆頭として大恐慌でパニックに陥った国々がお互いの了解を得ずに関税引き上げ競争をしてしまったことが悲劇の原因になった。今回は、お互いに話し合いながら、お互いの社会を安定させるための秩序ある関税率を、協調しながら設定すればよいのである。 

 アメリカはベトナム戦争の敗退以後、金本位制を放棄し、恒常的に貿易赤字を垂れ流すようになった。この貿易収支の赤字を埋め合わせるために必要だったトリックが、各国に金融自由化を強制することだった。アメリカは、赤字によって垂れ流したドルを、再び米国に集め、世界中の貧困層を債務奴隷の罠にはめることによって儲けようとしてきた。貿易で失っても、それ以上に金融で取り返すという戦略だ。

 自由貿易に任せてアメリカが貿易赤字という対外債務を出せば出すほど、米国は黒字国から恫喝まじりでドルを還流させるために各国の金融システムに介入する必要が生じ、また金融自由化と称して途上国の金融を支配し、途上国の債務を雪ダルマのように累積させる必要性も生じた。さらに途上国の債務だけではカバーできないというので、先進国の労働者も債務奴隷の罠にはめるようになった。世界で激増する多重債務者は、すべて米国の貿易赤字(=対外債務)という現象と表裏のものとして意図的に生み出されたものなのだ。レバレッジやデリバティブのような金融手法が跋扈するようになったのも、アメリカの対外債務を詐欺的手法によって取り返そうとした結果の苦肉の策なのだ。つまりは、金融規制を強化するための前提条件として、自由貿易の規制が必要になるのである。
 
 日本がやるべきこと。海外からの資源・エネルギー・食糧の輸入を最小化しようという国家戦略を立案することだ。当面、エコロジカル・ニューディール政策の実施により、食料自給率70%、エネルギー自給率70%ぐらいを目指すべきであろう。それによる内需拡大と国内の雇用創出は、失った外需を補って余りある。外需指向は、低賃金化と労働者の使い捨てをひたすら強要するが、内需志向は賃金の上昇と余暇の増大、そして国内の安定と調和をもたらす。

 本当に必要なもの、足りないものを貿易を通して買うのはよい。国内で作れる潜在能力がある以上、国内で作り、どうしても作れない分だけ輸入すればよい。国内で作れないものは輸入する。コーヒーやバナナなんて、逆立ちしたって国産できないのだから輸入するしかない。しかし国内でコメを作れる余力が十分にあるのに外国からコメを買い、小麦も大豆も作れる余力は十分にあるのに90%以上を輸入に頼るなんてオカシイのだ。そんなことを続けていれば、地球の生態環境そのものが破局して、人類の歴史が終わるだけなのだ。

 エネルギーと食料の自給率70%を達成しても、残りの30%は輸入で補わなければならない。しかし、その程度の輸入に必要な外貨など、「価格が多少高くても日本製が好き」という海外の愛好者への輸出で十分に稼ぎ出せる。国民の生活を破壊してまで、「何が何でも輸出利益を」などと脅迫される必要はなくなるのである。今の日本は「輸出」そのものが自己目的化しており、国際競争力という魔語に迫られ、その目的のために国内の低賃金も長時間労働も、あらゆる不幸を許容すべきという、きわめて異常な状況を生み出している。

 貿易は、お互いの国が助け合うために行うべきなのであって、お互いの国民を潰し合うために実施するものではない。日本とアメリカ、アメリカと中国がやっていることはお互いの潰し合いなのだ。
 南米の左派政権同士が実施している貿易は、たとえば、キューバが不足する石油をベネズエラからもらい、代わりにベネズエラは不足する医師をキューバからもらうという、本当に必要なものを融通し合うという助け合い精神のバーター取引だ。このような貿易を、今後は目指すべきであろう。
 

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10 コメント

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Unknown (ロータス)
2008-10-06 18:33:59
はじめまして!質問なんですが、エネルギー自給率70%達成するには具体的にどのような政策をすればいいとお考えですか?
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主張は賛成ですが… (バク)
2008-10-07 12:17:17
エネルギー自給70%は可能なのでしょうか?
これを行うには相当な省エネルギーが要求されるのでは?例えば自販機は全てやめるとかコンビニを規制し深夜営業は全て廃止など極端なことが必要とされるでしょう。家庭でも暖房は炭だけにするとか、日本人のライフスタイルの大幅な変更が要求されると思います。まあそれが本来の生活だとは思いますが、国民のコンセンサスは難しいでしょうね。それこそ核融合が成功するとか、トンデモ科学に分類されるフリーエネルギーが実現しなければ現実的でないと思います。ちなみに私はフリーエネルギーを100%否定していません。でも90%以上信じてもいません。プラズマによる核融合炉の成功はまだ少なくとも数十年かかると思っています。
それと風力や太陽エネルギー、地熱ではせいぜい10%前後でそれほど多くは期待できないと思います。
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ロータス様、バク様 ()
2008-10-07 23:33:54
>具体的にどのような政策をすればいいとお考えですか?

 このブログの「エコロジカル・ニューディール政策」というカテゴリーの過去記事でいろいろと書いてきました。要するに政府重要をテコにして民間投資を誘発させ、規模の経済効果を働かせ、最後に民間需要で離陸させよということでです。例えば、下記の記事をご参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/646e49df104e2cf26f2cfd4e2e5a32b5
http://blog.goo.ne.jp/reforestation/e/00ef55942ad85be40a707a7e5d546684
 

>エネルギー自給70%は可能なのでしょうか?

 「成せばなる成さねばならぬ何事も。成らぬは人の成さぬなりけり」と、かの上杉鷹山は言いました。とにかく目標値を決めて挑戦することが大事です。
 食糧に比べると自給率向上には時間を要するかとは思います。しかし原理的には、太陽光、風力、バイオマス(木質系資源、生ゴミ、家畜の糞、下水など)、水力、地熱などの自然エネルギーのみで70%はいけると思います。新エネルギー可能性の束の中から、何が特に伸びて出てくるのかは未知数の部分もありますが、国が野心的な長期目標を立てて、それに向かって皆を頑張る気持ちにさせるということが大事だと思います。
 デンマーク、スウェーデン、ドイツと自然エネルギーの先進諸国は、長期的な国家目標で国民を鼓舞し、皆をやる気にさせているという点で共通しています。
 デンマークなんて洋上風力発電所がどんどん建設されていて、風力のみで50%いけるというのですから。日本だって、陸の上はいろいろな問題もありますが、海の上まで考えれば、風力発電の立地適地は膨大にあります。 

 電力供給源を小規模分散型にし、人口減少時代に合わせてコンパクト・シティを実現し、地産地消を進めていけば、物流エネルギーも減らせるし、送電線のエネルギー・ロスも少なくなります。内燃機関のガソリンエンジンは熱効率も悪いですが、水素自動車や電気自動車はエネルギーのロスも少ない。深夜営業の規制などせずとも、日本の一次エネルギー消費量自体を半分程度に減らせるのではないでしょうか。
 分母を半分にできれば、自然エネルギーのみで70%は達成できると思います。

 それとは別個にプラズマ核融合は夢のエネルギーということで開発はすすめるべきでしょうが、ご指摘の通り時間はかかりそうですね。フリーエネルギーはよく分かりませんが、夢のある研究はどんどん進めましょう。
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素人ですが (nazo)
2008-10-08 03:08:09
メタンハイドレートはどうお考えでしょうか?
以前テレビ番組で65ドルが採算ラインと報じられていたので、この価格にに私は少し驚きました。2000年頃の原油価格と比べると3倍近いですが、現在の原油価格水準からそれほど下落しないのだとしたら採掘は必須に思えます。また、ウィキペディアによれば石油や石炭に比べ燃焼時の二酸化炭素排出量は約半分であるため、地球温暖化対策としても有効だとか(メタンはそのまま漏れ出す方が温暖化の原因になるということ??)。
メタンハイドレートの記述がなかったのでちょいと気になって書き込みさせていただきました。
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nazoさま ()
2008-10-11 00:41:01
>メタンハイドレートはどうお考えでしょうか?

 可能なら炭素系エネルギーは回避したいです。怖いので・・・。全生物種の90%が死滅した古生代の終りの大絶滅は、温暖化によってメタンハイドレードが溶け出すという正のフィードバックが働いたことが原因という説が有力です。
 できることなら、手をつけずにそっとしておきたいと私は思います。しかし、ご指摘の通り、石油から石炭に回帰するという路線に比べたら、環境面でも好ましいのでしょう。次善の策ではあるのかも知れません。でもよく分からないです。回答になっていなくてすいません。
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ご丁寧な返答ありがとうございます (バク)
2008-10-11 18:14:36
フリーエネルギー(常温核融合)に関する記事を見つけました。
http://blog.goo.ne.jp/princeofwales1941/e/b0e468d0f950ab83d70b6b66fc7d61f1
参考までにお知らせします。
私はまだ懐疑的ですが
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爽快感、ありがとうございます (yohkuma)
2008-10-13 23:08:03
いくつかリンクをたどって、たどり着きました。
そしていくつか記事を拝読しました。
爽快感に満たされた気分です。
実現可能な「代替案」こそが、経済社会の抜本的転換に重要なことと再認識しました。
ありがとうございます。
http://blogs.yahoo.co.jp/yyohkuma
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バクさま ()
2008-10-14 22:33:00
 情報ありがとうございました。にわかには信じ難い話しですが、今後の研究の進展に期待しましょう。
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yohkumaさま ()
2008-10-14 22:35:26
 はじめまして。励ましの言葉、まことにありがとうございました。今後ともなにとぞよろしくお願い申し上げます。
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まあ、予断を積み重ねるだけかもしれませんが (Cru)
2008-10-18 20:59:26
バクさま

その記事に実験には、(当然の如く)批判がありますよ。
http://blackshadow.seesaa.net/article/100635085.html
2chのコメを信じるならコントロールすらまともに出来てない実験だったという事になります。

#私も常温核融合出来たら良いなとは思いますが、同様に9分9厘無理だと思っとります。
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