代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

岡谷市と箕輪町の土石流現場 

2006年08月06日 | 治水と緑のダム
 去る8月3日、飯田市で行われた「脱ダムから緑のダム」へというシンポジウムにパネラーとして呼ばれて出席してきました。その途中、岡谷市と箕輪町の土石流の災害現場を見てきました。上の写真が箕輪町の土石流災害の先端の崩落箇所で、下の写真は岡谷の土石流が流れた跡の写真です。カモシカがさまよっています。崩れた場所は私が見た二箇所はいずれもカラマツ人工林でした。7月25日の記事でも書きましたがカラマツやヒノキは根の張りが浅いので、とくに崩壊しやすいのです。
 
 箕輪町の土石流の現場で避難所生活を送った地元のお婆さんにお話しを伺うと、真っ先に「山が荒れててね。マツはコナラになんか比べて崩れやすいでしょ」という話しをされていました。崩れた場所は村の有林(旧入会林野。現在は財産区所有となっている)らしいと、お婆さんは言っていました。昔は村の総出で下草刈りや除伐など行ったが今は誰も山に入らなくなって、荒れ放題になっていたそうです。
 長い間、放置しているので、崩壊箇所が有林なのか、それとも私有林なのか私有林ならば誰の所有する山なのか、地元の人でもにわかには分からなくなっているとのことでした。
 いずれにせよ崩落した先端は見てのとおりの急傾斜で、そもそも拡大造林の際に広葉樹を切ってカラマツに植え替えるという選択そのものが間違っていたといえるでしょう。
 
 田中知事は盛んに「山の保水力が落ちているから土石流がおきやすい。もっと森林整備を」と訴えていましたが、あからさまに「反田中」の立場の『信濃毎日新聞』のような地元マスコミは土石流と森林荒廃の因果関係についてはほとんど何も報道していませんでした。
 土石流の原因となった崩落箇所が有林か私有林か、樹種は何か、手入れはされていたのか否かといった情報は、マスコミが報道すべきだと思うのですが、そういった報道は一切出てきていなかったのです。被災した地元の人々の多くは放置人工林の荒廃と土石流が関連していると考えているのに、そうした意見が紙面にも紹介されないというのは、記者の取材能力不足なのか、あるいは意図的なものなのでしょうか・・・。田中知事が盛んに森林要因を指摘していたのに、地元紙は地質問題ばかり報道していたのでした。

 さて、本日は長野県知事選です。
 

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6 コメント

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マスコミが動けば知性はふっとぶ・・のか! (山澤)
2006-08-07 00:02:30
同志社でのレポート読ませて頂きました。気付きをブログに書きhttp://real.zoom-in.to/blogn/index.php?day=20060804

るいネットにトラックバックしたところ、秀作に選んでいただきました。



るいネットでは嘉田滋賀県知事への注目度もアップ中です。http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=127361



今回の長野県知事選挙も要注目ですが・・・今、ネット確認したら田中知事落選ですね。



>出遅れを取り戻すきっかけは、先月の豪雨災害だった。防災担当相の経験をアピールし、「田中県政は必要な公共事業を削減し、対策を怠った」と批判。じわじわと支持を広げた。



と毎日ネット版にあります。



「マスコミが動けば、知性はふっとぶ」は国政だけではないのですね。マスコミにかわる世論形成の場づくりがまさに急務ということでしょう。



今回の長野の反動をこそ改めてバネにしていかなくてはいけないでしょうね。



(田中知事のスタンドプレー体質の問題もあるのでしょうから、マスコミばかりを批判するのも問題なのかもしれませんが・・・関さんの選挙結果を受けてのエントリーをお待ちしています)









今回の長野選挙
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山澤さま ()
2006-08-09 00:48:41
 長野県知事選は残念な結果でした。



 豪雨災害がどの程度村井氏に有利に作用したのかはにわかには判断できません。ただし、地元の地方紙は豪雨災害を利用しながら村井氏に風を吹かせようとしていた形跡は紙面から伺えました。



 田中氏はこの間、ダム予算を削減する一方で、森林整備予算を増額し、崩落しやすい放置されたカラマツ人工林を針葉樹と広葉樹の混ざった混交林に変えようと賢明に努力してきたのです。それは土砂災害対策としては、費用対効果の面で、もっとも適切な政策でした。



 豪雨災害を契機に、村井氏は「公共事業を削ったには田中康。もっと公共事業を、もっと土木事業を」という叫び声を挙げました。地元紙の報道は、そうした村井氏の姿勢に加担するかのようなものでした。別に田中氏が中止したダムの上流が崩れているわけでも何でもないのですが・・・。

 そして災害と森林を関連づける報道を一切しようとしなかったからです。

 

 私も田中氏の独善的なスタンドプレーには多くの批判を持っています。対立候補がもう少し改革志向の方でしたら、そちらを応援したことでしょう。

 しかし村井氏の場合、せっかく脱ダムの流れがここまで来たのにそれを引き継ぐのではなく、元に戻そうとしているようでした。そこで、やはり村井氏は支持できないと考え、田中氏を応援しておりました。

 

 田中氏に関しては、独善的な性格という欠陥はあるのですが、あの頭の良さ、問題の本質を見抜いて果敢に行動する能力は類稀なものだと思います。ぜひ第二の政治家人生を国政の場で活かして欲しいと願います。具体的には来年の参院選で国政を目指し、永田町で活躍してくれればと願います。

 また、石原慎太郎氏の後釜で東京都知事を狙うというのも面白いかも知れません。

  

 長野県に関しては、村井県政の下でダムプロジェクトが復活してしまうかも知れません。災害を防ぎ、災害の大元である地球温暖化を防ぐためには「ダムよりも森林」ということは、村井新知事ご本人も含めて、これからも重ねて訴えていきたいと思います。

 
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今回の長野選挙 (サカシタ)
2006-08-09 06:27:11
お久しぶりです。

しばらくROMしてました

今回の知事選は、かなり迷いましたが村井氏に投票させていただきました。

理由は以下の通りです。



1.田中氏の政策は正しい物が多い。しかし実行する手段が問題である。県会やそのほかの首長との対立構図を見ていると、県政の停滞感は否めなかった。また、住民票問題など、全く理解出来なかった。



2.今回の土石流災害を身近に感じ(私自身は被害に遭いませんでしたが)、濁流の流れる砥川や天竜川を眺めていると、大雨の度に決壊をおそれる河川の周辺に住む住民の気持ちとしては、一刻も早い対策を望んでいる。森林政策が長い目で見た土砂災害抑制に効果があることは十分承知出来るが、即効性のある対策を同時に取ってゆく事は出来ないのか。



特に1の要因が大きいと思います。村井さんの公共工事を増やそうという主張に共感して投票した県民は少ないのではないでしょうか。協調して政策を進める推進役を求めたのだと思います。県民としては、今後の村井氏の政策行動を注視する必要があると感じています。



関様>昔のメールアドレスにメールを入れておきました。ごらんいただければ幸いです。
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サカシタさま ()
2006-08-09 10:32:51
 ご無沙汰しております。私の前のメールアドレスは使えなくなっていますので、こちらからメールします。



>田中氏の政策は正しい物が多い。しかし実行する手

>段が問題である。



 まったくその通りだと思います。かつて田中氏に投票した多くの県民は、まさに苦渋の決断で村井氏に投票したことでしょう。やはり「知事の人格問題」が本当の争点だったのではないでしょうか。

 住民票問題のゴタゴタは、かなり致命的だったと思います。(ただ、私も住民票を信州に置いたまま、他の地域で住んでいたこともありましたし、あの件に関しては田中氏の主張が正しいとは思います。でも、県政改革の本質的な部分とは離れたところで延々とゴタゴタを続けたことはあまりにもマイナスでした。反対派勢力とは、もっと本質的な部分で争って欲しかった)。



>大雨の度に決壊をおそれる河川の周辺に住む住民の

>気持ちとしては、一刻も早い対策を望んでいる。

 

 一刻も早い「対策」として考えても、やはり土木ではなく森林です。間伐していないヒョロヒョロのカラマツ人工林を見ると本当に危ないと思います。また、土石流の危険がある沢筋の下流には、行政の計画規制によって住宅を造らせない努力をしなければいけないと思います。

 財政的にも、もはや土木予算の大増額は不可能ですが、森林整備なら最小の予算で実行可能なのです。



 ローカル・ネタですが上田の里山の象徴である太郎山は、自然植生の広葉樹林なので崩れにくくて、見ていて非常に安心できます。サカシタ様の母校の裏手にある黄金沢流域など、あれだけの急傾斜なのに、天然の広葉樹林なのでちっとも崩れないでしょう。



 岡谷の災害現場も、砥川の上流もヒョロヒョロのカラマツ林ばかりです。

 それでも、今回の豪雨で砥川が氾濫していないところを見ると、県の洪水計算の数値が根本的に捏造されたものであることが分かるでしょう。詳しくは、以前も紹介した、この記事を参照ください。

http://www1.doshisha.ac.jp/~rc-socap/publication/12green_seki.pdf



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「脱ダムから緑のダムへ」 (こば☆ふみ)
2006-08-14 18:08:32
関さま ただいま「脱ダムから緑のダムへ」を読ませていただきました。機会がありましたら引用などさせていただいてもよろしいでしょうか?

長野県の事業決定のずさんさを感じ、新しい基準での再検討が必要だと思っています。長野の流域住民にはこの事が伝わっているのでしょうか?

情報としてきちんと伝えることも大切ですね、選択肢を広げ、多面的な検討が出来ることが前提ですからね。

先日飯田市においでいただいた「先生」だとは知りませんでした(^^)今後ともよろしくお願いいたします。ではでは。
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こば☆ふみ様 ()
2006-08-16 09:42:50
>機会がありましたら引用などさせていただいてもよ

>ろしいでしょうか?



 もちろん大歓迎です。私はこの6年くらい、あそこに書いたようなことを多くの人々に懸命に説明しようと努力してきたのですが、なかなか分かってもらえずに苦労しました。国交省はそれこそヤクザのように、こうした主張に食ってかかってきて、恫喝してきます。マスコミも、国交省の恫喝に怯えているのかなんなのか、ちっとも報道してくれませんし・・・。



 田中知事は、雇用吸収と経済波及効果の面で林業が鉄とコンクリートの土木よりも優れているという点はすぐに了解してくれましたが、森林の機能を組み込んで基本高水を再計算するという点の重要性に関しては終に分かってくださいませんでした。



 私は定職のない「フリーター研究者」ですので、先生なんていうシロモノではございません。

 今後ともよろしくお願いいたします。
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