代替案のための弁証法的空間  Dialectical Space for Alternatives

批判するだけでは未来は見えてこない。代替案を提示し、討論と実践を通して未来社会のあるべき姿を探りたい。

国交省はハゲ山で踊る ―八ッ場ダムをめぐって

2010年02月15日 | 治水と緑のダム
 多忙につきブログの更新を怠っておりまいた。申し訳ございませんでした。
 八ッ場ダム問題に関連して前回と前々回の投稿に書いた、利根川の治水基準点より上流の54流域のすべてで一次流出率が0.5、飽和雨量が48ミリという値で統一されていたという問題について続報いたします。
 私はこのパラメーターに関して、「森林を皆伐でもしない限り、あり得ない数値だ」と酷評し、その私のコメントが1月16日の東京新聞の朝刊の記事でそのまま引用されました。あの記事が載ったあと、「ああ、国交省から何されるだろう?」などとちょっと怖い思いをしておりました(じつは私はけっこう小心者だったりします(苦笑))。

 ところが私の心配とは逆に、うれしいニュースが入ってきました。国交省の「今後の治水のあり方に関する有識者会議」の第4回会合(2月8日開催)で、東京新聞の報道が取り上げられ、有識者会議の鈴木雅一委員(東京大学大学院教授)から、利根川流域のパラメーターに関して深刻な疑念が提起されておりました。
 
 ちなみに、この有識者会議はジャーナリストも締め出された非公開の密室で行われ、委員の多くもダム推進派学者であることから、「これじゃ、政権交代の意味ないじゃないか」と多くの批判が寄せられているいわく付きのものです。
 そうした会合であるだけに、私もあまり期待していなかったのですが、利根川流域の「飽和雨量48ミリ」問題が大きく取り上げられていたので、予想外のうれしい驚きでした。

 有識者会議の鈴木雅一委員(東京大学大学院教授。森林水文学専攻)の資料の中で、東京新聞の報道が大きく引用され、以下のようなコメントが付されておりました。

 以下、国交省の下記ページの鈴木雅一委員の配布資料の20ページより引用いたします(このページ参照)。


*******引用開始*************
 
 この事例の一次流出率、飽和雨量は、鈴木の知るハゲ山の裸地斜面の流出より大きい出水をもたらす。一般性をもつ定数ではないと思われる。
 このような結果となったとき、上流域など雨量観測点以外でより多量の雨が降った可能性、観測流量が過大である可能性を疑う。
 この定数表を他の降雨の出水予測に用いることは、困難であるとするのが妥当と考える。
 
 今後の検討に待たねばならないが、新聞報道のとおりとすると計画降雨に対して過大な流量を推定している可能性。

*******引用終わり***********

 ・・・・・これを読んで、「ああ、この世にはまだまだ良識や正義は存在するのだなァ」とうれしくなりました。

 鈴木委員は、このパラメーターだと「ハゲ山以上の流出をもたらす」と言っております。私は、このパラメーターは(森林を皆伐でもすればあり得るかも)と考え、東京新聞の取材に対してそうコメントしていたのに対し、鈴木委員は(ハゲ山の裸地斜面ですら、もう少しまともな値になる)と考えています。国交省が同定したパラメーターのいい加減さに関して、私以上の酷評を加えているわけです。

 皆さん、「ハゲ山以上に荒れた状態の森林」って、どんな森林を想像できますか? およそ、この日本国には存在しないはずのものなのです。国交省はそのような「森林」を想定しながら、洪水の流出計算を行い、八ッ場ダム建設の根拠としているのです。

 鈴木委員は、このようなあり得ないパラメーターが同定されたということは、雨量観測点以外の場所で、観測に引っ掛かっていない大量の雨が降ったか、そうでなければ、そもそも建設省(現・国交省)が行った観測流量のデータが過大であるかのいずれかではないか、と述べています。
 要するに、こんな非常識なパラメーターが算出されているということは、国交省の観測データそのものが信用するに値せず、さらに、この非常識なパラメーターを用いて行われた利根川の洪水の流出予測をダム建設の根拠として用いるのは妥当ではないと、こういうことなのです。

 このように、鈴木委員は、八ッ場ダムの反対派市民たちが主張し続けている「八斗島の治水基準点における基本高水流量2万2000立米/秒はあまりにも過大である」という主張をサポートしてくれたわけです。

 この指摘を受けて、まず前原国交大臣がやるべきことは、次のようなことでしょう。国交省が所管するすべての一級河川の基本高水流量の決定にあたって用いられたすべてのパラメーターや観測データーをはじめ、流出計算の全情報を公開するのです。そこからようやく議論が始まるのです。こうした情報が公開されていないから、市民の側も、国交省の計算が正しいかどうか検証しようにも、情報が不十分で検証できないでいるわけです。

 利根川では、裁判の過程でようやく、これら一連の「疑惑のパラメーター」が明らかになったわけですが、国交省は八斗島上流の54流域がどのように分割されているかという情報を公開していないので、原告住民の側が国交省の計算を検証しようにも、いまだ情報不足で検証できないのです。
 
 だいたい、利根川のパラメーターの異常さの「発見」過程も、正常な民主主義社会であったら以下のようになるはずでしょう。

 つまり、国交大臣が諮問した有識者会議の場で、一級河川の基本高水の算出過程が全て公開された上で再検討され、その議論の内容がマスコミや一般にも公開され、その中で利根川のパラメーターや流出計算の問題点が明らかにされ、新聞に報道され、国民が知る・・・・・このようなプロセスが本来の姿でしょう。

 ところが実際に起こったことは逆なのです。住民が起こした裁判の中で、裁判所に命じられて国交省がシブシブ出した資料の中でパラメーターの異常さが明らかになり、それを東京新聞(のみ)が報道し、その新聞記事を読んで初めてパラメーターの異常さを知った有識者会議の委員が、国交大臣諮問の有識者会議の場でそれを問題にする・・・・・・。
 
 「科学」というのは、誰がやっても再現検証可能な営みを指します。国交省の場合、計算の前提として用いられた諸情報を隠した上で、「利根川の基本高水は2万2000である。これは科学的な事実だ」と言うのです。こう言われても、検証しようがないのですから、信用などできるわけがありません。そんなことが許されるなら、観測データのねつ造も、非常識なパラメーターの恣意的な設定も、何でも可能になってしまいます。

 国交省は、「データそのものがねつ造ではないのか?」という疑惑をもたれたくないのだったら、正々堂々と情報公開すべきでしょう。

<補記> この記事は当初、「ハゲ山より荒れた森林は実在するのか?」というタイトルでエントリーしていましたが、インパクトがイマイチかなと思ったので表記のようにタイトルを変更しました。
 

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1 コメント

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日経は嫌いですが (新潟より)
2010-03-01 20:29:48
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20100216/212818/
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