ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土国後島を電撃訪問したとのことで、地元紙・地元局だけでなく全国メディアでもかなり騒がれています。崩壊前の旧ソ連時代から通算しても、現職元首が北方領土に足を踏み入れたのは初めてだそうです。
いままで来なかったのが不思議です。プーチンさんなんかつけつけ来そうな感じだったのに。ロシアにしてみれば、「占領したんだからウチの国土だ、ウチの元首が気が向いたら好きなときに来て当然」と思っていることでしょう。
月河は北方四島をのぞむ地方からは遠いですが、一応北海道民として育ちました。小学校・中学校時代、街の目抜き通りのカド地のビル壁面に“呼び返そう 父祖の築いた北方領土”という大看板が掲げられていて駅前広場から見通せました。昭和50年代まであったと思います。プレバブル~バブル期の地上げブームでビルが建てかわり、その後どうなったか。
子供心に、「戦争で負けて持って行かれたものを、“もう戦争はしない、軍隊も持たない”と憲法にうたってる国が“呼ぶ”だけで“返って”来るものだろうか」と不思議に思っていました。戦争体験者である親世代は「日ソ中立条約というものがちゃんとあったのに、日本が連合国側に降伏して武装解除した途端、ソ連はずかずか泥棒みたいに踏み込んできて占領してしまったのだから、あれは正当に戦争に勝って得た領土じゃないんだ」と憤るのですが、戦争やってドンパチ撃ち合い殺し合い、血を流して死体の山築いて領土取った取られたの話に、正当も不当もないでしょうに。「条約さえ結んでおけば敵になることはない」と思い込んでいた日本が甘ちゃんだっただけです。
帝政時代から、ロシアの南下政策の阿漕なことには伝統があります。南にある日本が米英相手にズタボロになって、原爆2発落とされて存亡の危機にあると見たら、「さあ南が手薄になった、今だチャンス」「手近な土地から、占領するだけ占領しとけ」と動くのがロシアです。
外交における条約なんて、言ってみれば“何かあったときのアリバイ作り”みたいなものだと思う。中立条約だの不可侵条約だの結んだところで、結んだそのことが永遠の幸福を約束するゴールになるわけではない。特に相手が国境を接している国なら「条約締結国だから、○○国さん仲良くしましょうね、文化交流とかもしましょうね」とニコニコ笑って会話したり握手したりしながら、国境線においては黙々と厳戒し、ちょっとでも相手がうっかり(或いはうっかりのふりで)侵犯してきたら条約を盾にとって、「ダメよん、ホラ条約結んだでしょお忘れ?」とニッコリ笑ってメッと睨み、二度めからはずけずけとペナルティを課すぐらいの肝っ玉の太さ、腰の強さは堅持していなければなりません。
連合国にズタボロにされて、北方で何されようが目を光らせる気力も、何かあったら対抗する体力もない、“かつて国だったものの残り滓”みたいな状態になったら、他国との中立条約だの不可侵条約だの空手形より意味ないと思わなければならない。国と国があって国境があったら利害が対立するほうがむしろ当たり前で、条約とか同盟とかかりに結んでも、日々のブラッシュアップ再確認、抵触の際の罰則実施ができないズタボロ状態になったら、その条約なり同盟なりは実質速攻消滅と思ったほうがいいのです。まして相手は南下の鬼・ロシアです。
いまさら「日本固有の領土」「条約破りの不当占領」なんてゴタクを並べたって詮無い話です。日本は、自国の固有の領土を、奪われぬよう守る力、結んだ条約を維持管理補強する国力がなかった。力のないところからは奪うを旨とするのがあの国です。
返して欲しいと思ったら、力をリカバリーしてもう一回、今度は絶対勝てる戦争を仕掛けて、勝って奪うしか手はありません。それはしない国になったと、もう憲法で謳って宣言してしまった。ならば「負けるような戦争をすると、父祖の築いた領土でも、こうして他国の元首に来たい放題言いたい放題されるんだよ」と子孫の代へ語り継ぐ教訓として、遥か千島海峡の向こうを指くわえて仰ぐ、それがいちばん賢明な“北方領土の使い道”だと思います。
菅総理大臣や前原外務大臣が「わが国の固有の領土であるという立場を一貫してとっており、大統領がその地に来られたというのは大変遺憾だ」という主旨の談話を発表していますが、残念ながらその“立場”に居るのは、世界中で日本だけじゃないかという気がします。日米同盟だなんだあったかもしれない、いまもあるかもしれないけれど、日本が“同盟”をブラッシュアップし、ツヤツヤぴかぴか世界に冠と光らせ続けておく努力をしないから、ロシアが日本に何しようと、中国がどうしようと、アメリカは何も援護実働してくれなくなりました。
北海道民として言います。北方領土は返ってこなくていい。返って来ないほうがいい。日本という国が如何に外交力が無いか、昔もいまも日本国民のために領土財産を守る力がないかを後世に伝える記念碑として、永遠に千島海峡の彼方にあるのがいちばんいいと思います。