いつも週終わりの土曜日に急展開がある『梅ちゃん先生』、先々週末(6月16日)はいきなり下村家お隣の安岡製作所に新入り工員くん参入。まぁノブ(松坂桃李さん)がアテにしていたネジ職人としてはドシロウト同然でまったく使えなかったのですが、この新入り・木下、ひょいっとどっかを向くと微妙な寄り目なのは何かで見たような…と思ったら、2008年の大河ドラマ『篤姫』以来久しぶりの竹財輝之助さんでした。
あのときは堀北真希さん扮する皇女和宮の許婚=有栖川熾仁親王役で、結ばれぬ両思いだったのに、今度は堀北さんのことノブに「カノジョっすか?」とかからかってますよ。ドラマデビューになった04年の『仮面ライダー剣(ブレイド)』の頃は中性的と言うか植物的にスレンダーな体型で、どう考えても着物での時代劇が似合いそうには見えなかったものですが、『篤姫』でお公家さんスタイルなら結構イケるなコレ、と見直してはや4年。お公家さん役なら今年は大河『平清盛』になんぼでもありそうなのに、昭和もの朝ドラのこっちに来ましたか。ネジ経験ゼロとわかって速攻クビかと思いきや、ノブと昼間っから酒飲んだり、ノブ旅立ち(?)後は親父さん(片岡鶴太郎さん)とも息子の契りを結んだり、結構なじんできているのでまだ出番ありそう。ここはひとつお銚子より、腰に手当ててビン牛乳の一気飲みしてほしいですね。
第10週(6月4日~9日)の中盤、心中未遂で心を閉ざしていた患者・弓子(馬渕英俚可さん)が松岡医師(高橋光臣さん)への好意を梅子に打ち明けたのをきっかけに、生きる希望を取り戻してもらいたい…と及ばずながら(及ばなさ過ぎる)梅子が奔走しはじめた辺りから、『梅ちゃん』は驚くほど見やすくなりました。弓子「好みなの」梅子「ヘンな人ですよ?」弓子「人の自由でしょ」が良かったですね。馬渕さんの薄幸かつ控えめな色気の漂わせ方がナイス助演で、梅子の、翳りが無いにもほどがある天然さをツヤツヤと浮かび上がらせ、コッチが梅子に「いやアンタもヘンだし!」と思いっきりツッコめる機会をくれた。
よしそれじゃ弓子さんのためにと、結婚観を訊いて探りを入れた松岡が予想以上の朴念仁なので「この件はもう少しチョウキセンで行きます」、弓子に感触を訊かれて「いまいろいろとフセキをウッテいるところです」、翌11週、教授から論文を要求されて「注射一本打つのもシクハックの状態で…」など、ここへ来て梅子が、“自分の図抜けたドジさトロさを客観視している”ような語法を使いはじめた。何と言うかね、“ドジでトロいコがこういうカタい物言いしたらおもしろいよな”とおおかたが思う物言いを、本当にしてくれちゃうようになったのです。「オトコってメンドくさいイキモノ」とかね。
視聴者へのサービスというより、これは梅子という架空のキャラを書く書き手の吹っ切れと見ていいでしょう。従来のNHK朝ドラ型の“誰からも好かれる、清純な努力家さん”ヒロインに若干筆が重かった作家さんが、自分で設定した“ドジ属性”を興がりながら書く余裕が出てきたと思う。それもこれも、松岡という触媒の投下が大きいのですが。松岡は、どうやら作家さんが、原稿用紙の上で(原稿用紙に書かないか、いまどきTVシナリオ)転がしているといくらでも勝手に動いて活きてくれるお気に入りキャラクターらしく、第9週での梅子との再会以降は、松岡が出てくるたび目に見えて画面が輝いている。
要するに『梅ちゃん』というドラマにおける梅子は、観客が新人医師・梅子の身になって「どうしよう」と困惑したり「くーっ」と悔しがったり泣いたりするタイプのヒロインじゃないんですね。梅子にそういう役割を求めると、万事ズレていたり寸足らずでイライラするだけ。
梅子は“ときどき親に連れられて訪ねて来ては、子供ならではのKY発言や、本人はオトナなこと言ってるつもりの言い間違い勘違いで大ウケを取る親戚の子”なのです。「違うでしょッ!」と熱くなって怒ってもしょうがない。それは自宅へ帰ってからの親の仕事です。こっちは単なる、責任のない親戚なんだから、「○○ちゃんはいっつもおもしろいこと言うね~」と爆笑したり「そうかそうか、よしよしいいコだね」とナデナデしたりして、大人が自分を見て笑ってるもんだから子供もうふふキャハハと上機嫌。そんな頑是ない表情や仕草に癒されていればいいのです。
第1話、昭和20年の終戦時に16歳だった梅子、放送中の昭和28年時制では推定24歳ぐらいでしょうが、このキャラが続く限り“永遠の幼稚園年少さん”で鑑賞してっていいのではないでしょうかね。朝ですもの、「とにかくカワイイものが見たい」「カワイイ可愛いとウケたい、目を細めたい」というニーズに全力でお応えする、そんな動画ソフトがあってもいいし、それがたまたまドラマ形式であってもいい。世界は梅子の天然発言、おっちょこドジにウケたくてウズウズしているのです。
…なんだか今日はカタカナオノマトペの多い記事になったような気がしますが、気のせいでしょう。気のせいということにしましょう。新装開店の安岡製作所ノブももっと頑張れ(記事タイトルを↑↑↑にしたかったから付け加えたわけではなくて)。今回はまさか跡取りの影武者ではなかろうし。