まだ4話ですが(9月30日)、結構いけるんじゃないですか『てっぱん』。
アロハの持ちネタ「一瞬一瞬を全力で!海空花子です!」そのものの、大阪発朝ドラヒロインのテンプレ的“全方位明朗で、意味なく常にポジティヴの大安売り”“元気前向きであらゆる人物のあらゆるトラブルに善意介入、なぜか一挙解決”みたいなのだったらイヤだなあと思っていたのですが、意外と、周りに気ぃ遣いで、溜め込んでは放射、溜め込んでは放射の、素朴な不器用ちゃんみたいなんです、あかり(瀧本美織さん)。
造船下請け鉄工所経営の、陽性な職人気質お父さん(遠藤憲一さん)、美人で天然風味なお母さん(かつて降板騒動を起こしたNHK同枠に仰天復帰の安田成美さん)、ちょっと頼りないけどまじめが取りえの地元信金マン長兄(遠藤要さん)、高校留年二度めの3年生で妹あかりと同学年になっちゃった、明るさが取りえの次兄(森田直幸さん)、あかりを含めて、全員、学校の偏差値はお世辞にも高そうじゃない家族に、降ってわいた様な初音さん(富司純子さん)来襲で、算段あって必死に隠してたわけじゃないけどなんとなく言い出しかねて17年過ぎてしまったあかりの出生の秘密が露見。本当のお母さんてどんな人だったの?なぜウチに居たの?トランペット吹く人だったん?それより何より、お父さんは誰なん?と質問攻めにしたい、説明言い訳いろいろしたいところを全員グッとおさえて「びっくりやったねぇ」「ほんまびっくりやったわー」と、無理に決まっているのに懸命にほんわかやり過ごそうとする風情がいいですね。
家族って、“いつもと変わらない”を死守せんとするシステムなのですね。家族の誰かが血縁のない他人とわかっても、誰かが不治の病の告知を受けても、誰かが道ならぬ恋愛をしていると全員の知るところとなっても、新聞に載る級の犯罪に加担していても、“昨日と何も変わらない”を何としても維持しようとする。
実際には、平穏な家庭でも、子供は日々成長して、進学し就職し、彼氏彼女を作って家を離れて行くし、親は日々老いて、衰え、死に近づいて行く。“永遠に変わらない”家族なんて存在しないのですが、良きにつけ悪しきにつけ、或る日、或る出来事を境に一変してしまうということを認めたくない。とにかく“連続性”“一貫性”が確保されていてこそくつろげる家族だ、安らかで満ち足りた家庭だにこだわる。全員こだわる。
あかりちゃんも、亡き実母千春さんの遺品であるトランペットをベッチャー祖母ちゃんに返しに大阪へ行こうとなって「けじめや」なんて言わずに、「もう一度あのベッチャーとちゃんと向き合って話がしたい」「育てのお母さん、お父さんお兄ちゃんに訊いても、答えてくれそうもないし、答えてくれたらくれたでいろんなことが一気に崩壊しそうで怖いことどもを、ベッチャーからなら聞けそう、聞きに行きたい」と、正直に言ったらいいのです。あかりは普段なら、ずばっと言ってしまうキャラの女の子なのだと思う。
でも、こればっかりは言えない。自分が17年育ってきた村上の家族、お父さんお母さん兄ちゃんたちを、どれだけかけがえのない、壊れてほしくないものと思っていたか、この状況になってあかりは初めて自覚したのでしょう。大阪発朝ドラ好みの、陽性、前向き少女ではあるけれど、こらえるところはぐっとこらえ、取り繕うところは、稚拙でも健気に取り繕う。結構、奥行きのある、深読みのし甲斐のあるヒロインですよ。見守ろうじゃありませんか。
ロケ地尾道とゆかりの深い尾美としのりさんのナマグサ住職・隆円さんがいいですね。“ペット吹いたら千春さんのDNA、村上の子じゃなくなってしまう”との思いに襲われ、練習を飛び出して鐘の中で「うわぁあああーー!」叫ぶあかりに「…煩悩じゃのぉー」。
事情を承知していた者としてのあかりへの親ごころ、そりゃもう実の親並みに親身なんだけど、「それじゃあ俗人と変わらんじゃん、オレ一応出家してるし」と、無理やり混入させた悟り風味がなんともいい味で。“可笑し味”のブレンド具合が抜群なんですね。これで、村上家が多少ぎくしゃくしていても、今後も隆円さんが出てくればホッとできる、安心感が持てます。
最後まで口角にマヨついてるし。