田中荘の画伯・笹井さん(神戸浩さん)(@『てっぱん』)の作風はすごいですね。ジミー大西さんのようでもあり、横尾忠則さんのようでもあり。故・黒沢明監督の絵コンテを思い出させたり、80年代の湯村輝彦さんらのヘタウマ系の流れを汲む感じもする。ダイナミックと言うかエスニックと言うか、素朴なようで結構ねちっこい筆致だったりして、一筋縄どころか十筋縄でも行かない。
第4週に続いて先週も笹井画伯のアトリエ?が2シーンほど映りましたが、キャンバスや板絵のほかに、缶のような壜のような函のようなものにもびっしり描いて積んであったし、ポストカードサイズとか、大漁旗サイズの作品もあり、狭い壁いっぱいに開いた窓枠と窓の外の風景を描いた、だまし絵風のやつもあった。なかなか多彩かつスケール大ですよ。故障で表舞台を退いてはいるもののかつて箱根駅伝の星だった10人抜きの滝沢(長田成哉さん)といい、田中荘はすごい才能を宿しているなあ。
この笹井さん、あかり(瀧本美織さん)が田中荘に落ち着いた当初は、ジェシカさん(ともさかりえさん)が解説する通りの極度の対人恐怖、なかんずく女性アレルギーで、他人と同席ではご飯も食べられないくらいのトゥーシャイでした。ほとんど『仮面ライダーキバ』の渡くんの“この世アレルギー”に近い挙措だった。
朝ご飯のお膳を取りに来るファースト登場シーンで、上っ張りの袖に絵の具のシミを洗ったあとがあるので、ひょっとしてイディオ・サヴァン系の天才さん?とも見えましたが、第4週の民男くん(前田航基さん)のバースデイ夕食のエピソードで、あかりが駅伝滝沢くんを「一緒にご飯食べて欲しいんです」と口説こうとすると、「ボクたちと一緒に食べませんかッ!」「ボクもやってみますッ!」と勇気をふるって援護してくれて以来、どんどん人好きのする“キタナかわいい”変人さんに。
出張の欽也兄ちゃん(遠藤要さん)があかりのために買ってきたホットプレートでの尾道焼き昼食会にもちゃんと顔出してるし、かつお武士社長(趙珉和さん)がお局社員の小夜子さん(川中美幸さん)と衝突して家出ならぬ“社出”して来たのを見つけると、部屋にかくまってあげて冷蔵庫から食料かすめとって来てくれたり、結構世俗的に使える、動けるところを見せてくれました。尾崎紀世彦さんも知ってたしね。
小夜子さん送別会転じて“さよなら、無しよ”罰ゲーム会になった30日(土)では、ジェシカさんから「締めの音頭とって!」まで任されていましたよ。この世アレルギーどころか、普通に愛嬌ある愉快なおっちゃんじゃないですか。
宴おひらきの後、住人たち列席客たちが辞去して、あかり&初音さん(富司純子さん)ふたりの、おなじみ微妙に布団の間に唐紙隔てた就寝場面では「大家さんか、お祖母ちゃんか、どっちかに決め」と初音さんから現時点で新記録の大幅譲歩が得られました。
結局、毎週末、こうやってらせん状にダブルヒロインの心理的距離が縮まり、心の波長が協奏して行くプロセスを作るための、下宿人さんたちや大阪の職場の人たち、尾道家族と地元の人たちも含めて、脇役と言うより“動く大道具”と言ったほうがいいのかもしれませんね。パーソナリティ、個性を持った、動いてしゃべる、繊細に念入りに作られた大道具たち。
多少、登場当初と話が進んでからとでキャラが違ったり、部屋や置いてあるモノの印象が類型的(ジェシカ=ホンモノの芸能界を知らない芸能人、駅伝滝沢=体育会男子にしては小奇麗ゆえのますます殺風景)だったりするのは仕方がないか。
“ブラバン王子”だったはずの柏原収史さんは“そしてなぜか王子”に変身を遂げましたし。あのテロップ笑ったね。岩崎先生に関しては、徹頭徹尾、スタッフも攻めますな。何としても笑かしたいんだ。