遅ればせ『24(トゥウェンティフォー)』もシーズンⅢまで完食。週一の放送じゃなく、パッケージソフトでほぼ一気見のペースでⅠから視聴してくると、“製作側のテンション&意図の早送りウォッチング”みたいで独特な興趣がありますな。
この時期はまだ「ヒット作になったぞ、イケイケどんどん」な、フレッシュな空気で作っていたのでしょうしね。
それにしてもⅡまでで、殴られても蹴られても撃たれても、飛行機が墜落しても核爆弾運んでも、拷問で心停止しても平気な顔で生還して次の局面に飛び込むジャックさんが“死なないにもほどがある”ため、「視聴者が“どうせジャックは死なないんだから”とまったくハラハラしないのはユユしき事態である」と、製作サイドも考えたんでしょうねえ。Ⅲでは冒頭からジャックに時限爆弾持たせとけとばかり、“潜入捜査で麻薬漬け”設定と来ました。
しかし、クスリ打ちたい、でもいけない、打ちたい、いけない、くっそーチクショウ注射器バリーンゴムバンドバチーン!みたいな、絵的にわかりやすい葛藤があったのも最初のほうだけで、CTUに戻って何とかいう女性監理官の聴取を受けた後は、“こんなとき、ヤク中だから心配、大変”と観客がハラハラすることもまったくなくなっちゃいましたよね。
その代わりと言っちゃなんだけど、Ⅰからおなじみだった人物が続々“完全退場”しました。
まずは拘束されても拘束されても何かしらの理由つけては出てくるニーナ・マイヤーズ。最後のほうは悪女と言うより、なんだか妖怪みたいな質感になってましたな。この人が出てくると、ジャックとトニーが協調してても“被害者友の会”というか、ぶっちゃけ“穴ブラザーズ”に見えてしまうのがね。ご本人もトニーに聴取された際「(同じ自供を)ジャックの次はアナタ…昔を思い出すわね」とか何とか言ってたし。
Ⅱで墜落現場から連行される間際、ジャックが耳元で何かささやいていたように見えましたが、字幕も音声も何も拾っていなかった。何て言ったのかな。「くたばれ」「二度とシャバに来るな」などじゃなさそう。一応、元カノだし。「オマエの鎖骨萌え~」とか。
「生まれ変わったら一緒になろうな」………ないか。もんのすごいS同士のカップルってのも悪くないと思うんだけど。
結局、嘘発見器で拾われたマーカス・アルバースとのゴムなし行為経由でHIVもらった疑惑は、トニーがカマかけただけだったのかな。あの、魂が九つあるヘビの様なニーナが、銃弾でも爆弾でも毒物でもなく、情報収集のため愛なくかかわった男からもらったHIVで命を落とすというのも、ちょうどⅢがウイルステロの話だったし、ある意味象徴的でよかったかなと思いますが。ヘタに改心なんかせず、ギリギリ足掻いて足掻いてジャックにとどめをさされる、彼女らしい最期。
本部のライアン・シャペルはちょっと惜しかった。Ⅱのジョージ・メイソンのように、一時にせよあからさまに逃げ出そうとしたバチ当たりの要素もないし、クロエの赤ん坊の一件で「キムに(世話を)やらせろ」「はい~?」の場面なんか、短髪に刈り上げて下ぶくれっぽくなったルックスとも相俟って、少しすっとぼけ鉄仮面系のおもしろキャラになりかかっていたのに。
そしてシェリー・パーマー、策士策に溺れると言うより、愚かで弱いから利用される立場になった者にも五分の魂があることを軽視した、これも天罰。
彼女のおかげで、黒人初の(劇中)合衆国大統領デイヴィッド・パーマーもⅢに来て大幅に株を下げました。現実主義だが忠実だったマイク・ノヴィックを切ってまで首席補佐官に抜擢した実弟ウェインが過去のつまらん下半身火遊びで足を引っ張るのも、デイヴィッドの人を見る目のなさの結果だし、その収拾のために、人もあろうにせっかく縁切ったはずのシェリーを担ぎ出し、案の定、彼女の無敵のあくどさを制御できなくなってやんの。再選立候補取り下げも遅きに失した。
反対に株を上げた筆頭はCTUのミシェルですね。ホテルで一般市民がバタバタ流血して死を待つ、自分も感染しているかもしれない地獄絵図を気丈に乗り切って、一難去ったら今度は拉致監禁。自力で脱出したが「人質交換が犯人逮捕の唯一のチャンス」とジャックに説得されて、勇敢にも武器を捨て再度拘禁されるに任せました。
彼女の存在で、夫トニーも心おきなくデレ披露できたし、まあそのせいで国家命令に背いた容疑で逮捕されちゃったけど、次シーズンは鉄格子越しの再会なんかもあるかしら。
爆弾娘キムは短髪プリンスのチェイス・エドモンズといきなり相思相愛設定でスタートしたシーズンでしたが、彼のジャックとの相克や前カノとの赤ちゃん問題を経て、序盤「僕らは厳しい競争試験でCTUにやっと入れたのに、パパコネで入りやがって」と敵対的だった若手分析員アダム・カウフマンのほうに、協働を通じて惹かれていく流れかな?と思ったのですが、ロバ顔アダムくんにあまり視聴者人気が出なかったのか、片手を失ったチェイスと相愛続行、切断張本人のパパも詫びて公認の流れのまま終了しました。総じて今季のキムはあまり捜査の足を引っ張らず、結構働きもあった印象です。ハイスクール時代は反抗的な遊びガール、母親テリーが楽しみにしていた大学進学も果たした描写がないわりには、コンピュータのスキルなんかは結構使いものになるのねキム。
テロ張本人のスティーヴン・サンダースは大物だったのかそうでもなかったのか。Ⅰで明らかにされたおなじみコソボの“夜のとばり(ナイトフォール)作戦”との接点があっただけで、伏線回収と満足して瞑すべしかな。俳優の有川博さんに似ていたこと以外特段の印象もない。シロウトのガエル妻に、結構な距離から私怨狙撃されてあっさり死んでるし。
“大勢の犠牲を防ぐための少人数の犠牲”“公的貢献のための私的、家族的幸福の犠牲”など、シーズンⅢはⅠ・Ⅱよりも社会メッセージ性において収斂度が高かったように思います。Ⅳではデイヴィッド退きし後、誰が合衆国大統領になっているのかな。
あとさ、この後のシーズンで、こんなのないかな。
Ⅰでテリーの妊娠カムアウトにカリカリきてたニーナが、実はこっそり隠し子を出産してて、そいつが19歳ぐらいのイケメンになって、大学中退のフリーターかなんかで、キムのだめんずマインドをキャッチして恋に落ちたりするのね。ほら、キムってⅢではモティベばりばりの若手のやり手チェイスに惚れてたけど、Ⅱではアタマより手足が先に出るミゲルと付き合ってたし、Ⅰでは気はやさしいけど臆病虫のリックに深情けだったし。
ところがニーナは生前一時ジャックと関係持ってたから、母親がニーナと知ってジャックパパは心穏やかでないわけ。
…ところが、いろいろあったあとに「父親はトニーでした」とわかってジャックと3人で「幸せになれよ」とハグ………んなわけないだろ!!どんだけ昼帯の観すぎだ。