NHKの“朝ドラ”=連続テレビ小説は毎年春と秋、二回改編になって新作に切り替わるので、「朝ドラが一本終わって新しいのが始まったタイミングしか更新しなくなった」と記事で自虐してた年が何年かありました。
別に、合わせてたわけじゃないんですけど、季節の変わり目を意識すると自然とそうなる。さぁ冬に向かうな、さぁ新年度だな、と思うと、なぜか、当方の動きを見すましたように朝ドラが切り替わっている。
今年もややそれに近いペースになりかかってますが、4月からほぼ完伴走してきた『虎に翼』もそろそろ巻き→着陸撤収モードのようです。
トラちゃんこと寅子(ともこ)(伊藤沙莉さん)が念願の弁護士になって、専門書絶版差し止め訴訟を奥付の発行期日徹夜チェックで逆転勝訴したり、親権訴訟でチャッカリ托卵妊婦に一杯くわされたりしていた辺りがいちばんおもしろかったかな。刻々と濃くなる戦争時局の圧迫で息苦しい空気感ではありましたが。
戦争と愛する人たちとの別れ―夫と兄は出征先から生還ならず、父は病死-を経て、戦後は焼け跡から立ち上がり、まだ女性の前例のない裁判官採用を直談判、戦後のGHQ主導の民法改正チームに抜擢されて保守派の識者に噛みついたり、新制家庭裁判所の設立に奔走し、発足直後の人手不足を利してついに特例判事補の座をつかんだぐらいまでが、結果的にはこのドラマのヤマだったと思います。
贔屓目に言えば、家裁制度の広報アピールのため急遽企画された『愛のコンサート』、有名歌手招聘成るか?来るか福来スズ子(from『ブギウギ』)・・と一時視聴者をザワザワさせておいて茨田りつ子(菊地凛子さん)きたーー!となったくだりまではギリ、勢いが続いたと言っていいかもしれない。
このテの“同枠過去作の人気キャラ”ご本人降臨、ってヒーロー特撮では結構やるんです。“枠”についてる客が多いからね。特に今作と前作は舞台となる時代設定がほぼそっくりかぶっているので、やらないテはないくらいだった。
その後は見どころがまるっきり無くなったわけではありませんが、女性の、特に法曹界での働き方と取り巻く環境との摩擦、葛藤と打開策の話に終始して、伊藤沙莉さんの演技は依然、変わらず活き活き冴えているものの、ドラマとしては“明日が見逃せない、待ち遠しい”月~金帯なればこそのテンションは薄れていきました。
4~9月、10~翌3月と、それぞれ連休やら学校の長期休暇、帰省や受験シーズンやらを挟んで6か月放送が続くんですから、これくらいでゆるんで当然というか、ドラマも人体の相似形と考えれば、健康的なバイオリズムと言えるのかもしれない。これだけ暑い夏を越え、台風やことによると地震まで乗り越えてくると、観客も「あとは無事着地してくれれば」と、どこかゆるゆる寛大モード、少々の粗(アラ)は見逃してあげモードになってくる。
連続テレビ小説の場合、おおむね、新作の放送開始の前の週、早ければ10日前ぐらいに“公式ドラマ・ガイド”というムック本のvol.1=第一巻が発売になり、ここに主要登場人物と演者=俳優さんのグラビア、インタビュー記事等とともに、だいたい前半二か月~二か月半ぶん(放送9週~11週ぐらいまで)の、一部カギカッコ付きセリフも入った“あらすじ”が掲載されています。
月河の経験で言うと、NHKの朝ドラはこの“ドラガイ第一巻のあらすじ掲載分までがヤマ”です。いちばんおもしろい、エンタメドラマとして濃厚美味なところはこの中で、ここまでと見てほぼ間違いない。放送開始前に仕込んで、まとめて文章化して本にできるくらい深耕、熟成がすすんでるわけですから。
厳しく言えば、放送開始の頃、脚本家さんが大車輪で書きまくりスタッフがキャスティング・撮影手配している、ドラガイvol.2以降掲載分は、おおむね惰性です。言っちゃっていいと思う。“名作”“良作”、或いは尻上がりに数字を上げたと言われる“当たり作”でもだいたいそうです。惰性でも、前半部分の評判が良ければオールドメディアがしきりに採り上げ後追い企画を出したりしますから、ドラマ本体はすでに巻きモードに入っていても新規客を呼び入れることができる。
『虎に翼』は平均より少し長く第13週(7月第一週)までがvol.1掲載でした。まさに『愛のコンサート』に“有名歌手”来演の週です。
戦争が終わり寅子が新憲法の文言に力を得て再起したのが第9週(=5月最終週)で、「こんなに濃くて、まだ二か月=放送期間の三分の一しか終わってない、ってすごい」と視聴者が舌を巻き「あと三分の二、どこまでいくんだろう」といやがうえにも期待が高まっていました。
・・パーティーやお芝居でもよくあります。あと恋愛でも。「これからがいちばんいいところに違いない」と思った地点が、あとから振り返れば、実は一番いいところだったりするわけです。