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イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

迫力のある生活

2010-04-30 15:44:21 | アニメ・コミック・ゲーム

『ゲゲゲの女房』のおかげで、たびたび耳にするようになった“貸本(かしほん)漫画”という言葉。BSマンガ夜話』でも、昭和のベテランどころの作品がお題になると触れられることはありましたが、“実物”が展覧に供されることはなかったように思います。

月河が、“チマタをにぎわすマンガなるもの”に初めて触れたのは昭和3839年頃で、すでに漫画雑誌が出回って、年長のいとこや、そのまた友達が持ち込んでくるやつを読めたし、NHKしか映らない地域ではあったけれどTVもしっかりあったので、『ゲゲゲ』劇中のこみち書房のように、“子供も大人も集まる、町のちょっとした社交場のような貸本屋さん”は覚えがないんですね。

でも、昭和40年代の中盤ぐらいに住んでいた家の近所に一軒、確かに貸本屋さんはありました。

地方でも一応県庁所在地の、比較的住宅の密集した地域で、夕方になるとそれこそ買い物カゴを提げた奥さんたちが野菜や魚を買いに集まる市場の片隅で、お世辞にも繁盛している感じのお店ではなかった。店内は両壁と土間の真ん中にびっしり本棚あるのみで、こみち書房風に駄菓子の量り売りもなかったし、食べながら腰かけて読めるテーブルなんかもなく、ただ、劇中で佐々木すみ江さんが座っているような番台みたいのはしっかりあって、あんまり愛想のない、漫画好きそうでもないおじさんがいたような。少なくとも、佐々木さんのような、味のある、一度見たら忘れられない系のおバアちゃんではなかったな。 

遠からぬ距離に大学もあり、下宿屋さんやアパートなどもぽつぽつあった地域なので、お客さんらしい人影があるときはたいてい学生さんか、もっと年上の男性が中心でした。

当時就学前~小学校低学年の月河の、同じ年頃の近隣の子がわいわい利用していた記憶はないし、クラスで貸本の話題が出たこともありません。当時の子供たちの興味の主役は当然、とっくにTVでした。

子供を持つ親の例にもれず、月河実家両親も貸本・売り本・雑誌を問わず子供が漫画を読むことに基本的にネガティヴで、子供月河にとっても、本そのものは好きだったとは言え、新刊書店に比べて狭くて、“お古”ばかりでキラキラしてない貸本屋さんは、積極的に足を踏み入れてみたい場所ではなかった。

事情に関しては記憶がおぼろげなのですが、確か、いとこが借りて持ってきたのを返しに、一度か二度入ってはみたのですね。棚に並んでいたのは『恐怖ミイラ人間』とか『秘境の帝国』とか『闇の魔人なんちゃら』みたいな、就学前~低学年の女の子としては背を見ただけで引くようなやつが多かった記憶。

BSマンガ夜話』で貸本漫画について言及されると決まって「絵柄が暗い」「黒ベタの面積が大」という話になりますが、さもありなんと思います。

いとこは幼かった月河のために、そういう品揃えの中でも一応少女漫画っぽいのを選んで持ってきてくれたはずで、いま思えばメジャーになる前の赤塚不二夫さんが別の筆名で書いていた作品だったかも。“河井(かわい)まつげ”なんて名前の、ひみつのアッコちゃんにちょっと似た女の子キャラが出てくるのも含まれていました。

それにしても、すでに『マーガレット』『りぼん』『なかよし』などの華やかでオシャレな絵柄に接していた目には古臭く見え、もっと読みたいとは思わず、結局それきりになりました。こみち書房の美智子さん(松坂慶子さん)が言っていたような会員制だったかどうかも覚えていませんね。子供では会員になれないし、上記のような理由で親が一枚かんでくれたはずは100%ありませんから、すでに社会人だったいとこがどうにかしていたのかな。

『ゲゲゲ』劇中で「大手出版社が続々漫画雑誌を創刊するので、貸本漫画は旗色が悪い」という台詞が何度か出て来ましたが、設定昭和36年の東京で起きていた潮流が、78年遅れで地方にも来ていたのだと思います。八百屋さん、魚屋さん、酒屋さん米屋さん、あるいは床屋さんや薬局兼化粧品屋さんなど、近隣の人たちの日々の暮らしの、活き活きした匂いに満ちた商店街の一角で、思えばあの貸本屋さんだけ、大袈裟に言えば斜陽の色合いが漂っていたような気がします。

貸本漫画にとってかわった漫画雑誌も平成22年のいまや下降線で、それどころか紙に印刷した本全体が売れなくてこの先どうなる?みたいな時代になっていますが、漫画であれ劇画であれ、あるいはそれに先立つ紙芝居であれ、また絵のない小説や戯曲であれ、“おもしろいお話にワクワクしたい”“魅力的な人物、キャラに感情移入したい、萌えたい”という気持ちが、ある程度の文明レベルに育った人間ならば、完全にすたれることは決してないと思うのです。太平洋戦争突入前の地方の町、もちろん家にTVはまだなく、映画館もちょっとした遠出になる(←ユキエ姉さんの内緒のデート)地域に育った布美枝には、昔話語りの達者な登志おばば(野際陽子さん)がいました。

ただ、“媒体”は、人間が求め追求する“便利さ”“快適さ”の進化に従って、どうしても興隆と衰亡のサイクルに巻き込まれるのは仕方がないかなという気がする。人気を得る作風、絵柄、キャラクターも、時代背景によって変わるでしょう。

劇中の布美枝(松下奈緒さん)が「毎日朝までお仕事(=漫画執筆)で、ろくに話もできん」「あんなに働かれとるのに、なんでお金にならんのだろう?」と案じるのをよそに、水木しげるさん(向井理さん)は「描けばええんです」と涼しい顔をして(装って?)いますが、戦後から高度成長期の右肩上がり日本、読者は戦後生まれ、団塊世代以降の子供たち。紙芝居や貸本で当たっていた作品が、衣食足りた子供たちを喜ばすための週刊雑誌のウツワに盛って、そのまんまヒットするとは思えません。月河も一応、床屋さんの待ち時間で『少年マガジン』を読み、白黒TVで鬼太郎アニメを見た経験上、昭和40年代に入れば水木さん、すっかりメジャー漫画家になるのがわかっているから一応安心してドラマも見ていられますが、まだ設定昭和36年。あと34年はキツキツの生活が続くのでしょうねえ。

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疾風 切札 水中花

2010-04-28 14:18:28 | 朝ドラマ

『仮面ライダーW(ダブル)』3132話エクストリーム進化篇と言えば特筆せずにいられないポイントがもうひとつ。

Bパート、例のダム上の、エクストリーム降臨前の再変身のくだりのアフレコ、役者さんたち燃えただろうなあ。

 特撮には、映像芝居と、映像ができた後に役者さんがつける声のアフレコ芝居との2段階があります。今エピ、Wのスーツアクター高岩成二さんが、“独走でパワーアップした右半身に、ついて行けない左半身(←31話)、左半身のために力をセーブしようとしてうまくいかない右半身”“「セーブしなくていい、全開で行け、耐えて見せる」と右半身に請け合う左半身という、脳味噌爆発しそうな難業アクションを現実に演り、演出監督、撮影班もそれに応えて撮ってくれたのです。変身前の、“人格担当”の俳優さんたちが見て、意気に感じないわけがない。

「やはり力を抑えるのは難しい…」のフィリップ菅田将暉さん、「遠慮するな、俺がついて行くから!」の翔太郎桐山漣さん、アフレコルームでスタンドマイクどれくらいの距離感だったのかしら。手を伸ばせば届く距離かな。

…なんだか腐女子思考だな。

ひとつの画面、ひとつのシーンから、“物語上の燃え”で熱くなり、然る後に、“作る人たちの、作る過程の燃え”に思いを致して再びヒートアップこれぞ特撮鑑賞の醍醐味。

いや、特撮に限らず、実写ドラマでも、時代劇でも事件ものでも、観客が観て熱くなれる出来ばえの作品は、作る人たちも必ずや熱いに違いないのですが、特撮ワールドは“この時間帯の、ここにしか存在しない”という、“結晶度”“自立自足度”の極めて高い物語世界です。

人物たちが「このワールドだけで生き、戦い、泣き、笑う」「死ぬときも滅びるときもここあるのみ」という一期一会感、裏返しの孤絶感。だから一層、“虚構として作り上げて行く体温の熱さ、集中力”に、観るほうも想像力フル回転で追いついて燃えたくなるのです。実生活実社会と地続きの“いわゆるリアリティ”の中に終始する実写トレンディお仕事ドラマや家族ドラマのたぐいには、この角度の燃えはないでしょう。

いやホント、絵を見て、台詞を聞いてひと燃え、アフレコ想像してもうひと燃え、というこのひと粒で二度美味しい感覚を堪能させてもらったのは、ここで何度も書いている、何度書いても飽きない『剣(ブレイド)』38話=レンゲル挑発→ブレイドキングフォーム化→暴走→ワイルドカリス参戦寸止めのくだり以来でした。『剣』のライダーたちはアンデッドという、人類生存のアンチである生命体の力と融合して機能するヒーローでしたから、それぞれが(人間であれ間であれ)人のためのヒーローでなくなる、ギリのところにいるときがいちばん燃えましたね。

さて、『ゲゲゲの女房』は安来篇のこまやかな家族の心情交流世界を離れて東京篇に入りひと休みといったところです。

“田園風景”とは言え調布も東京、しかも夫は堅気の仕事ではなく漫画家とあって、安来にいた頃なら信じられない、良く言えば新鮮、悪く言えばわけのわからない人々との出会いが布美枝(松下奈緒さん)に続々。

週明け早々、おめかしショッピングみたいなお洒落ハンドバッグで、茂(向井理さん)の(絵描きの手になるとは思えない!)超アバウトな地図を頼りに地元の商店街に夕食のおかずを買いに出た布美枝、手つきがあまりにおっとりのんびりさんなのでヒヤヒヤしていたら、案の定置き引きに遭ってやんの。期待と不安に胸ふくらませてやってきた新居はどえらいボロ家だわ、原稿料が入るまで無一文だわ、失業中の兄貴一家は子連れで貰い風呂に来るわ、相談しようにも旦那さまは仕事部屋に籠もりっきりで話し相手すらいないわで四面楚歌の布美枝、火事場のガイなチカラを発揮するのはいつの日か。

出会いがしらで置き引きを、大きな風呂敷包みで阻止してくれた通りすがりの貸本屋女主人役で松坂慶子さん登場。昨クール『宿命 19692010』の政治家夫人役でお見かけしたばかりですが、セレブお着物でない下町おばさんルックでも、映った途端画面がパッと明るくなる華やかさにやはり脱帽です。1952年生まれ57歳、すっかり年相応(以上?)の体型になられても、“華”のある人はとことんあるものなのね。いまだに化粧品、スキンケア品のCMキャラが成立する、抜けるようなお肌の白さとツヤのせいもあるかもしれない。顔と首と手の色白さが、ナチュラルに一貫している。きれいに見せることが仕事の女優さんでも、若くても、そうはいないですよ。顔単体で見れば隙がなくても、首・手と下りていくと“色ムラ”が目につく人が多い。

立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花…と言うには最後の一項目がいささかヴォリュームオーバーですが、この御年で「大輪の花」と揺るぎなくお呼びできる女優さんはそういないでしょう。今作では特に、“人情と元気担当”のようなポジションだからか台詞のお声もワントーン高めで、置き引き犯を追いかけてきての2ショットになると、驚くことに25歳とふた回り以上若い松下奈緒さんのほうが地味に見えました。

安来篇での古手川祐子さん、竹下景子さんも含め、昭和の美人女優アイドル女優の皆さんがしっかり“脇でもいける”“親世代も演れる”重鎮に入っておられるのですから、コッチもトシとる道理だわ。

もう、そうこうする間に布美枝7歳役・ドリームメルヘンな菊池和澄さんは『かりん』当時の細川直美さんのような感じで、10歳役・体当たり演技派佐藤未来さんは『私の青空』の田畑智子さんのような感じで朝ドラヒロイン役登場するかもしれません。「○年前はヒロインの子供時代役だったので、ヒロイン役は実質2回めです」なんて報道されたりして。光陰矢の如し。

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誰も完全じゃない

2010-04-26 22:25:52 | 特撮・ヒーロー

『娼婦と淑女』で「必ず太一に爵位を継がせます!」と、ひときわ通るお声と滑舌で息巻いている、ご本妻一族より背筋のピンシャンしたお妾さんを“剛演”中の魏涼子さん。昼帯では06年『新・風のロンド』で、この枠恒例の“ひとりだけ独走で常識人”ポジションを勤め上げてくれましたが、『仮面ライダーW(ダブル)』3132話(1825日放送)で、美人演歌歌手ばりのしっとり和服姿でお目にかかるとは思わなんだ。健気でかわいそうな極道の妻…で終わるわきゃないと思ったら、案の定ドーパントだったし。うなじのコネクタに手をやる仕草が色っぺえ。座敷に常備した将棋盤も伏線でしたか。

 パリシャキな口跡と和でも洋でもいける身のこなし、いかにも劇団青年座の実力派中堅さんそのものという佇まいの魏さんがまたナンデ『W』に?と思ったら、ウェザードーパント井坂先生役・檀臣幸(だん・ともゆき)さんのリアル奥様でした。ともに青年座の舞台活動の傍ら、アニメ・洋画吹き替え声優としてもご活躍のカップル。今エピの井坂先生は、W→エクストリーム進化の産みの苦しみを際立たせる物語上のアシスト役(「不調ですねぇ、診察しましょうか」)だけで、魏さん扮するゾーンドーパント=鈴子との直接の共闘はありませんでしたが、仮面ライダーシリーズの同エピ内で実生活のご夫婦が共演したのはこれが初かしら。

ゾーンみたいな間・非生物型のメモリってのも、ミュージアムの底力を感じさせて不気味でしたな。いまブーム?の水木しげるさん漫画よろしく、トップに目玉オヤジつきで、ドーパントでなければ正月飾りかなんかの代わりになりそう。和服美人の鈴子が正座したまま伏せて変身するので、非生物ながら何となくジャパネスクというか、江戸の火消し組が持ってそうな造形でした。

 エクストリーム新登場イベントのこのエピ、進化したメモリにパワーがついていけなくなり、Wへの変身不能になった翔太郎(桐山漣さん)の絶望、喪失感を表面は主調にしつつ、根底にはシュラウドから「左とは縁を切りなさい、あの男では(相棒は)もう無理」と宣告されたフィリップ(菅田将暉さん)の孤立感と苦悩が米のメシになっている。“能力不足”を嘆き、悔しがるより、“能力の並み外れた優秀さ”に苦しむほうが伝統的仮面ライダーのコードにかなっています。

 翔太郎の悲哀は“スペシャルな凡人”のそれであり、フィリップの苦しみは“普遍的な間”ゆえのもの。

 物語としては、「Wは戦闘マシーンであってはならない」「翔太郎、キミの優しさが必要だ」とうまいこと着地して名コンビ復活、しかし“優しさも無い凡人”“弱いだけの凡人”も世の中、多いのだよなぁ。ここらあたり、仮面ライダーも、戦隊とは違った角度からのそれだけど、基本的にはファンタジー。

それにしても復活後ダムの上での二度めの変身は、エクストリームが“下りて”くるまでが泣かせました。「遠慮するなフィリップ、おまえは全開で行け!俺がついて行くから!」「こんなバチバチ(←フィリップ側のサイクロンが翔太郎側のジョーカーに比べて強すぎるための摩擦火花)なんてこたぁねえ、耐え切れるさ!」「オマエが相棒だと思っててくれる限り、オレは二度と降りねぇぞ!」→エクストリームメモリ降臨、はまさに少年漫画の王道。こうして台詞を再録してるだけでも、血沸き肉躍るとともに、胸が締めつけられそうになります。

ひとり分の場所しかない至高の高みに、何としてもふたりで上り詰めようとする無茶な野郎どもの無茶さが、エクストリーム(=頂点)という名の地球の記憶を集結させました。

 苦渋の決断で「ボクと組む気はあるかい」と持ちかけたフィリップを「つまらない質問をするな」と、いつになく“つまらない”と余分な形容詞を付けて斥けた照井(木ノ本嶺浩さん)にも武士の情けを感じました。翔太郎とでは変身できない現実をつきつけられ、ままよとフィリップがアクセルに放ったサイクロンメモリを、確かにアクセルは一体化して使いこなしウェザーを退散に追い込みましたが、引き揚げて返却したときのフィリップの沈痛な固まり具合を見たら、“コイツも本当は、力のためだけに左を切って自分と組むことは本意としてない”がビンビン伝わってきてしまう。「俺はひとりでヤツらを追う」と向けた背中には、“相棒を持たない運命の者”の覚悟と、“相棒がいるっていいな、内緒だけど、本当は羨ましいよ”の憂愁がにじんでいたりなんかして。

 今エピは雨降らしと、水際での濡れバトルが多く、しかも撮影は2月後半か3月上旬のまだ寒い頃と思われ、特に桐山さん木ノ本さんは心おきなく水漬けにされて、燃え展開から落ち着いて再度録画観返すと、観てるほうの歯がカタカタ鳴りそう。エクストリームを驚嘆の眼差しで仰ぐ照井も、ゾーンに川に突き落とされ亜樹子(山本ひかるさん)とフィリップに救出される翔太郎も、目の下真っ黒クチビル真っ青でした。どうか皆さん、最終話までご健勝で完走を。

 あとね、人にシンパシーを示すことに滅法不慣れなフィリップが照井を呼ぶときの「テルイリュー!」って、『新・三銃士』の枢機卿リシュリューみたいですな。放送時間(日曜朝)一部かぶってますが。

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結構なお住まいで

2010-04-24 14:54:09 | 昼ドラマ

『ゲゲゲの女房』と言えば、Aniコレ(@『お試しかっ!』)の初代殿堂・杉浦太陽さんのウザズル男役も新鮮ですね。なにしろ水木しげるさん漫画の金字塔キャラ・ねずみ男のモデルになった人物だそうですから、ウザもズルもかなりの筋金入り設定のよう。起用するほうも勇気あるけど、受けた太陽さんも上等だなあ。

 いまだ『ウルトラマンコスモス』のムサシ隊員のイメージもある太陽さんも気がつけば29歳。ムサシ以外の役で動いて演技しているのを見たのは『浪花の華 ~緒方洪庵事件帳』でちらっとだけですが、「この人、ぼんぼんっぽい役とか正義役より、もっとガラ悪い役とか憎たらしい役のほうが合うんじゃないかな」と、ドラマ以外の場面で一瞬思ったことがあります。

 故・岡田眞澄さんと藤井隆さんがサルさんサルくんの特殊メイクで司会していたなぞなぞ番組『サルヂエ』の2004年頃、ゴールデンタイム進出して緩くなってしまう前の、おもしろかった頃です。“イケメン俳優大会”ということで、ゲスト回答者4人は金子昇さん、沢村一樹さん、速水もこみちさん、そして太陽さん。太陽さんは最初の23問不調で、一度も早抜けサルーンに行けなかったのですが、後半に入って、どんな問題だったか突然ポンと早抜け成功。負け残り回答者席の背後に映るスクリーンからひと言「おや?兄さんたち、どないしはりました?」…

…ナイナイ矢部ばりの敬語毒ガス。6年前、23歳でいまより顔の肉付きがみずみずしく、食べちゃいたい系フェイスだった太陽さんが、すっとぼけた顔で白い歯を見せてこう言い放ったとき、この人、イケメンとかママさんたちのヒーローとかより、もっと毒のあるキャラ持ってるなという気がしたのです。その後、アイドル辻希美さんとのおめでた婚なんかもあって、白い歯のさわやかヒーローからほどほど“ヨゴレ”入ってきた矢先でもあり。太陽ねずみ男、意外に内ラチ一杯をするする抜けてくるかもしれません。

布美枝の東京在住の長姉が旦那さんの勤め先にから差し向けてくれた迎えの車のウィンドウに「ゲゲー!!」と追いかけて張りついてきたときは、イタチというよりゴキブリみたいでしたな。一度で二度効くコンバット。せっかく実家のお母さん兄嫁さんが駅に駆けつけ持たせてくれたおむすびもお茶もちゃっかり完食して退散しちゃってこのヤロウ!と思ったら、座席をとられて怒った乗客に「失礼な男だなあ、アンタがたのお知り合いですか!?」とキレられて布美枝&茂揃って「…すみません」と低頭。2人の動作がシンクロしたのは番組始まって以来。夫婦揃っての“初めての共同作業”を、ねじれたカタチでイタチがアシストしてくれたことになる。“いろいろイタチにかき回されるけど、結果、雨降って地固まる”という、夫婦の未来の暗喩だったか。

イケメンの太陽さんだから、笑えるだけでなくもっとガチにダークなワルにも見える瞬間があり、結構、奥深いキャスティングだったなという気がします。

……ところで23日(金)の、そのお迎えに東京駅まで参上した社用車の運転手さん、OPクレジット見ると、『娼婦と淑女』のヘタレ婿養子役を爆演中の岸博之さんでした。これはクレジットなしでは、到底わからなかった。制服効果、というよりお帽子効果で若く見えるのなんの(24日放送回の調布宅到着時「お幸せに」挨拶で脱帽、識別がつきました)。おかげで同日夜の録画再生は、期せずしてプチ岸さん祭り状態。芸名が経済産業省官僚くずれみたいだけどそれはともかく、ちょこまかした動きが雇われ運転手役にぴったり。こういう持ち味の人を華族の書生あがり婿養子に起用するという、いやいや昼帯もかなり奥深い人員配置をしてくれてます。

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蕎麦みかん赤飯お茶

2010-04-23 16:27:11 | 朝ドラマ

いやぁ、行ってしまいましたねえ、布美枝ちゃん。東京へ。

「来てしまった」と言ったほうがいいのかな、今後の舞台を考えるとね。

『ゲゲゲの女房』、昨日(22日)の駅ホーム旅立ちは、単なる親子愛・家族愛、郷愁なごりのお涙にとどまらない、大勢の人のこまやかな心情の交流が表れた、本当に丁寧で中身の濃い場面だったと思います。NHK朝帯のソコヂカラを見せつけられた15でした。これに比べると30分、CM引いても24分ある昼帯は最近ラクしすぎだなあ。

 駅までの道、右腕ひとつでトランクを軽々と持ってくれた茂(向井理さん)に初めて頼もしさに似たものを感じはじめた布美枝(松下奈緒さん)ですが、昭和36年当時の安来から東京は一日がかりの距離で、嫁いだら滅多なことで里帰りもできない遠さです。列車待ちのホームで泣き別れのカップルを目にして心細さがつのる様子の布美枝に「(布美枝実家の)大塚のほうに(出発前に)泊まれなくてすまんでしたね」と気づかう茂、そこへ駆けつけてくる布美枝実家の面々。

 ここからが濃い。

高校生で日中、学校のある妹・いずみ(朝倉えりかさん)は、茂とは初対面です。活発な性格のいずみはそつなく「初めまして」の後「姉がお世話になります」と頭を下げますが、つい腕のない左袖だらりに目が行ってしまい、打ち消すように彼女なりに笑顔をつくります。その様子に“余計なことを言わんでごせよ…”と案じる弟・貴司(星野源さん)と、“大丈夫さ、いずみもそれぐらいの分別はあるし、村井さんは気にしない人だ”と自分にも言い聞かせるように口元を引き締める兄・哲也(大下源一郎さん)。

嫁ぎ先から駆けつけてきた姉・ユキエ(星野真里さん)も含めて、布美枝のきょうだいたちは、それぞれの体温と世間知経験値で茂の片腕に配慮しながらも、「こういう(障害のある)人と連れ添う姉さん(妹)は苦労するかもなあ」と、同情の重心はもっぱら血のつながった布美枝のほうにあります。

 そこへ母ミヤコ(古手川祐子さん)と、哲也妻の邦子(桂亜沙美さん)に連れられて、幼い甥っ子の俊文くん(馬渕誉さん)も駆けつけます。日頃布美枝になついていた俊文くん、大好きな叔母ちゃんがどこかわからないけどえらく遠くに行ってしまうらしいのが淋しいのですが、それはさておきとにかく好奇心盛りの子供ですから、もう茂の手のない左袖にまっしぐら、目をまん丸にして、言葉も出ない勢いでまじまじと見つめてしまいます。

 このときの布美枝の表情がいい。“あ、甥が失礼な振る舞いを…たしなめなければ”と喉まで出かかるのですが、同時に“あぁ、でも、どうたしなめれば茂さんが傷つかないかしら”と、甥っ子を一瞬コッチにおいといてまでも茂に向かう思いやりのベクトルが、新妻布美枝にすでに芽生えているのがわかるのです。駆けつけてきた家族に思いがけず囲まれて、気持ちはまだ9割がた実家に沿うているのですが、頑是ない子供に怖れ半分に物珍しがられる茂を見ると、「いままでもっと心ない好奇の目を浴びてつらい思いをしてきたに違いない」「私が支え、力になってあげたい」と、夫となった人に寄り添う心情も1割から23割と広がってきている。

村井家に泊まった前夜、義手について「無いものを、カタチだけあるように見せても、しょうがないですけん」と一笑に付し、人前に出るときは着けなさいと叱る母(竹下景子さん)に「邪魔だけん」と拒む茂を見た後でもあります。知らない者からは不気味に見える片袖だらりも、“これがこの人のスタイル、考え方なら、受け入れて私が味方になってあげよう”と、最愛の実家家族と対面していても、心はちょっこしずつ卒業して“茂さんの妻”になる、最初の階段に(サイズ十一文の)足を載せかけている。

 …と見る間に、茂は微笑んで肩先で空っぽの袖をふわり持ち上げ腕組みの格好にして見せ、硬直しかかっていた場の空気を魔法のように救います。本物の魔法を見たように俊文くん、これまた無邪気に開いたクチがふさがりません。「うまいことするもんですね」といずみが素直にリアクション、「器用なほうですけん」と茂。兄弟たちは茂の即妙さでやっと微笑むことができ、背に乳飲み子を負う邦子さんも「すいません」と俊文を手元に引き戻すタイミングができた。

このとき茂を見やる布美枝もいいですね。見合いの席でストーブ点火してくれたときのことを、一瞬思い出したに違いありません。“掴みどころがないようだけど、明るさも優しさもある人”“幸せになれそう、きっとなれる”と、新しい伴侶へのリスペクト、里心に負けそうになる自分を駆り立てて前を向く健気さが滲み出ていました。

たった5日前の見合いで顔を見知ったばかりの相手、しかも超マイペースで奇矯な言動、地方のコンサバ商家育ちには想像もできない漫画家という職業。不安に押し潰されそうだった布美枝が、“ゲゲゲの女房”となるファーストステップの、そのまた口火の取っ掛かり。

相手が漫画家でなくても、将来斯界の大家になる運命ではなくても、見合いでなくても、スピード婚でなくても、生まれ育ちの違う他人と、共白髪の人生を分け合う決断と実践の過程とは、普遍的にこういうものではないかと思う。

布美枝の表情が映るカットはほんの僅かだし、松下さんの顔面表現力も決して引き出し豊富とは言えないのですが、共演の人たちの表情の移ろいの拾い方、カメラ視点の移動の間合いで、ちゃんとそれなりの心情の波紋が伝わるように撮り、放送している。

木戸銭払って大画面で見るよそゆきの劇場映画でなく、朝の忙しい時間に、僅か15分の、端切れのような時間、食卓でも台所でも待合室ででも、日常にまみれたまま観られるTVドラマだからこその丁寧な仕事に、久しぶりに会った気がします。

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