前の記事では韓国製ドラマのプチ総論みたいなことを書いたので、『赤と黒』のドラマ本編をもう少し各論で掘り下げようと思いますが、その前に、サウンドトラックCDがなかなか愉快です。
まずジャケ写=歌詞ブックレットの表紙が、まあ型通りなんだろうけど、ドラマ完走したあとで見ると、えらく楽しいことになってますよ(←←←左柱←)。ゴヌクは下のほうでがっちりジェインの手をとっているし、テラさんは反対側からゴヌクの腿に掌を載せている。ぬほー。フトモモ。脚の付け根に近いフトモモ。何テンション上がってるんだ。テソンがゴヌクと反対側でジェインと向き合い背後から腰に手を回している。テソンの背中には、モネちゃんがもたれて軽く腕を組みにっこりグラビアスマイル。こらこら、微笑んでる場合かと。最終話のアレはどうしてくれると。
んで、全員カメラ目線でキメ。ぬぉぉぉー、ドラマであんなにさんざんくんずほぐれつしたのは何だったんだ。なぜここにホン家夫人、テソン継母にしてテラモネママのシン女史がいないのか。いてほしかったなあ。存在がでかすぎて背景が埋まってしまうか。
主要人物勢揃いでキメ顔決めポーズ、というこの構図は、韓国ドラマのサントラCDやDVD‐BOXのパッケージでよく見かけます。この国製ソフトらしい、根性の入った作りモノくささで、上等上等。
日本のドラマサントラだと主役ひとり映りや、主役カップルの2ショットはよく見かけますが、勢揃いカメラ目線決めってあまり見ないような。スーパー戦隊のなら、結構あるか。変身前素顔ヴァージョンの勢揃いも、ジャケ写裏あたりでは結構見ますな。仮面ライダーシリーズのそれだと、勢揃いしても、わりとてんでんばらばらな方を見ていたりする。
日本でも『白い巨塔』なんかこれ式にすればおもしろかったのでは。オベリスク背景に浪速大医学部勢揃い。くれない会も。ジャケ面積が狭すぎるか。西田敏行さんの陰に何人か隠れるな。財前が身長を気にして「安西くんは離れて」とか言うかも。出来上がり写真より、撮ってる最中のほうがおもしろそう。
話がそれた。いままで視聴した韓国製ドラマの劇伴音楽と言えば、大半ヴォーカル曲、しかも歌手のヴォイスが前に出まくった楽曲ばかりで「ここぞというところで朗々」という印象だけしかなく、視聴中も音楽が入ると音を絞っていました。ここは人物の気持ちになって余韻を…といきたい抱擁シーンや、忍び泣く後ろ姿のロングなどで、勝ち誇ったように♪サランへ~だの♪宮根よ~だの来ると、正直、引くし、醒めますもんね。
でも今作『赤と黒』は1~2話の段階で、初めて視聴する現代ものだからそう聞こえたというだけでもなさそうな新鮮な才気を感じたし、上半期〆の時期とあって、ささやかな地元商店街の買い支えとばかり贔屓にしていた本屋さんから、スタンプ満杯の感謝券壱千円ナリもいただいたところなので、だまされたと思ってとにかく購入。
上述の、見てるとニヤニヤしてくるおもしろジャケのフタをあけると、盤面が真っ赤。それもツヤありの、クリスマスツリーの飾りつけに使うカラーアルミホイルのような、浮かれた真っ赤。真っ赤に黒のアルバムタイトルロゴ。いいですねえ。『赤と黒』は日本放送時用のタイトルで、母国での原タイトルは『悪い男』だそうですが、このロゴもそっちなのかな。光り赤地に黒ロゴの「悪い男」。劇中のゴヌクよりも、テソンよりも、この盤面のほうがエロくて軽薄でワルそう。
全23曲中、半分の13曲が歌もの。感動系・切なさ押しのバラードが多いのは、やっぱりね…という感じですが、歌っている歌手の皆さんの顔触れ…はわからないけれど“声触れ”がなかなか多彩で、意外と飽きません。
異色作もあって、男声のM‐2『オニバスの花』は80年代前半の、マーティ・バリンなんかがホウフツとなる、AORそのもの。AOR、エーオーアール、なんと懐かしい響きよ。ギターソロバックに、サビでするするっとファルセットになる辺り、なんかカフェバーで飲んでるような気にもなれますぞ。ひゃー、カフェバー。どこまで懐かしくしてくれるんだ。
また、女声のM‐10『馬鹿』は、思いもよらぬ恋のときめきに自分を叱咤したり、相手にすねたり甘えたり、ダメダメ…と逡巡したりする、ういういしくもこっ恥ずかしい少女の気持ちを、かわいいメジャーコードにのせた、たぶんモネちゃんをイメージしたのであろう曲で、日本でも、歌唱力あるほうの女の子アイドルの、シングルC/Wに入っていそうな好作です。たとえば、そうですねぇ、往年の山口百恵さんがB面で歌っていたら、25年後ぐらいに半田健人さんが「こんな可愛い声だったんですよ!」と昭和歌謡番組で力説しそう(伝わってるのか)。
月河はやはり後半のインスト曲のほうのヘビロテ率が高いです。さあこっから韓流ターイム!というくすぐり感とともに空気の湿度、粘度、甘味度を上げ、お話世界にぐぐっと前のめりにさせるM‐13『main title』、M‐14『sub title』は繰り返し聞いてもイメージ喚起力が褪せないし、M‐19『郷愁』のタイトル通りノスタルジックな三拍子はモノクロのヨーロッパ映画のよう。刺激的なパーカッションが背後で煽るM‐21『スタントマン』や、ストリングスの闇の中をホーンの息づかいが切りひらいていくようなM‐20『Tatoo』は、これまた80年代の井上鑑さん編曲のJ‐POP群をしばし思い出させます。
『スタントマン』と来れば70年代末期アイドルの渋谷哲平さんも思い出すな。末期は失礼か。80年代に入ってもサンデーズで活躍してたか。
……書いているとつい喩えに“80年代”という言葉を出したくなってしまうのですが、「いつか聴いたことがあり、好きだったことも確実にある音色、声質、音並び節まわし」、これがこのサントラの魅力の本質らしい。
ドラマ本編の持ち味ともシンクロしている。親の恨みの仇討ちモノ、階級違いの恋愛モノは言うに及ばず、生き別れ親子の再会を目指す放浪モノ、連れ子再婚や妾腹庶子が作る“ビッグファミリーの光と影モノ”も、ある時期はさかんに制作されて、大勢の日本人が前のめりで観たり読んだりしたのでしょう。でもいつからか、「もうみんな飽きただろう」「いまさらこんなんやったら、観てたら、時代遅れと笑われる」と、誰も手をつけなくなった。
でもやっぱり、どこかで耳目に触れると、やはり、ある程度確実に、心の琴線に来るのですね。取り返せない幼少時代、家族との平和で温かな日々、奪って行った者たちへの憎しみ。あるいは欲しても、渇しても手の届かない、眩い世界、憧れの人。
「いつか観てた、好きだった、嵌まってた」という懐かしさ、帰郷感、タイムスリップ感が、韓国製ドラマを日本の視聴風土に馴染ませている要因だと思います。おかしな言い方だけど、真っさらさらの、いま生まれて初めて目にし耳にするような新鮮さや独創性があまりないからこそ、韓国製ドラマは心地よいのです。
…なんだかリスペクトしてるんだかディスってるんだかわからなくなってしまったな。とにかく『赤と黒』サウンドトラックは好盤です。「どうせ“ここぞ朗々”だから」と毛嫌いしないで聴いてみてよかった。10月7日(金)からBSプレミアムで日本語吹き替え版も放送されるそうで、韓国製劇伴にもこの際、スポットが集まってくれるとおもしろいことになりそうです。