それでもいささか心配になったのも事実です。『紅白歌合戦』、予想していたこととはいえ冒頭から怒涛のごとき“あま押し”。
いや、“押し”にとどまらず、“あま寄り”“あま差し”“あま掛け”“あますかし”。
そうでなくてもここ4~5年の『紅白』は、つまみ食い的に視聴しただけでも歴然と“(歌・音楽以外で)この1年間話題になったもの、流行ったもの、ウケた人、ウケたわけじゃないけどなんか露出が多かった人、なんでもぶっこんでくる”見事なまでの節操なさです。『あまちゃん』は久々にNHKがオリジナルで生み出した、全方向に胸を張って「当たった!」と言えるヒットコンテンツですから、『紅白』にからめてこないわけがないと月河もにらんではいました。
しかし、あれだけ大っぴらだとねぇ。いくら人気ドラマだったとは言ってもたかだか視聴率20数パーセントです。いやこれでもドラマとしては当節大変なヒットと言えるのですけれども、『紅白』は腐ってもまだ40以上は取ってるわけで、単純計算で『紅白』を見ていた人の半数近くは「なにアレ?」状態だったのではないでしょうか。
我らあまちゃニアンとしては、ユイちゃん(橋本愛さん)が鉄拳アニメ合成のワザ使ってでもなにしてもとにかく北三陸から東京の土(無いか)を踏めただけでも大感激拍手喝采だし、GMTとアメ女正規軍との、シャドウの壁を破った『暦の上ではディセンバー』共演にアキちゃん(能年玲奈さん)とマメりん(足立梨花さん)も同列で、しかも笑顔全開で並んで歌い踊っているのも溜飲の下がる絵。しかもしかも、GMTの緑担当・寿脱退したアユミさん(山下リオさん)も復帰している。しかもしかもしかも、涙の抱擁和解したリーダー(松岡茉優さん)の隣のポジだ。感動だ。
アキユイ歌唱の『潮騒のメモリー』に続いて、前段のスナック梨明日(りあす)での寸劇の衣装のまま天野春子(小泉今日子さん)が登場、さらには鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子さん)は着物でセリから、しかもまだ音痴治ってる・・となったら、全国のちゃニアン(略し方が中途半端だ)瞬殺です。死因:贅沢死。
しかし半数以上の、お茶の間の“普通の”紅白視聴者の皆さんは、「なんでひっさびさのキョンキョンがあんなチープな光り物ニットにスケバンスカートなんだ?」「歌が売れてた1980年代にも一度も出場してない薬師丸がココで歌う?」「そもそもこの曲、この歌詞何?“千円返して”とかフザけてんの?」と、キツネの大群につままれリレーされたようなOPと10数分のコーナーだったような気がします。
意味がわからない。わからないものがウケている、ウケている人たちには意味がわかっているのだろうが、自分はわからないからウケることができないというのは、ストレスがたまるものです。
大晦日のお茶の間娯楽の超王道、超定番だったはずの『紅白』も、いつの間にか「わかるヤツだけわかりゃいい」という姿勢を隠さなくなった。これはいい事なのか、あまりいい事じゃないのか。
1983年(昭和58年)の紅白で、総合司会に“深夜密室芸人”だったはずのタモリさんが起用されただけでも、当時はまだ普通の日本人として紅白ウォッチャーだった月河は「くぁ~~」と思ったのですが、冒頭そのタモリさんが客席に向かって「そろそろ始めてもいいかなー!?」とコール、満員のNHKホールに「いいともー!!」のレスポンスが響き渡ったときは、大袈裟に言えばひとつの時代が終わったなという気がしたものです。
「いま、これをやればウケるな、いい反応来るな」と思ったからタモリさんはアレをやったのだろうと思います。当時の『紅白』視聴者の中には「いいとも」の意味、タモリさんがそれを言うことの意味を全然知らない人もいるだろうし、そもそもタモリっちゅうのが何者で、なんで総合司会なのかさえわからない人もいるだろう。それでもそういう人を置き去りにしてでも、「ウケるな」に賭けた。
「いまやればウケる」に、当時はまだ冒険心というか、度胸、気魄、もっと言えば“良き山師根性”のようなものが感じられました。
だからこそ2013年=平成25年の「わかるヤツだけわかりゃいい」“あま押し”の臆面もない大っぴらさに、一抹の空虚感をおぼえたことでした。もっと腹の底からウケてもよかったのですけどね。軽く“贅沢死”はしたけれど。