日々日の入りが早まり、いつの間にか帰宅時間には夜道同然になってきた今日この頃。
菅総理肝いり政策のひとつ“デジタル社会の推進”。それ自体には個人的には大賛成でも大反対でもないですが、“昭和の昔は技術立国だったはずの日本が、二十一世紀、令和2年のこんにちになってナニユエ「世界レベルでは周回遅れ」と揶揄され憂慮される、隠れもないデジタル後進国に成り下がってしまったのか”という、ネットの辺境弱小無名泡沫ブログの身の丈に合わないにもほどがある国家的歴史的問題を、秋の夜長のつれづれに考えていたところ。
・・んで、「それは、日本人に“几帳面な人”“細かい手間暇を惜しまずきちんとするのが好きで、得意な人”が多すぎるからだ」「日本人の大半がズボラで面倒くさがりで無頓着でヌケサクで、しかもその自覚のない人ばっかりだったら、デジタル化はもっと進むべくして進んでいたはずだ」と、思いっきり暴論を展開しようと思っていたら、・・・・・
・・・今年相次ぐ国内外有名人の、前兆なき突然の訃報のダメ押しのように来ました。サッカーの“神の子”=ディエゴ・マラドーナさん死去。
まぁここ数年の報道や近影を見るに、心身万全で元気いっぱいとはお世辞にも言えない外観にはなっておられましたが、コロナ禍で世界のスポーツ界が混乱と沈滞を余儀なくされる中での巨星墜つ。
何がびっくりしたって、60歳。もうそんなになってたのかと思う向きと、まだ死ぬようなトシじゃないのにと思う向きとあるでしょうが、まるっきり月河と同年代じゃないですか。世に出てきたのが早くて、その時の姿が少年然としていたので、いまだにずっと若いイメージを持っていたのです。
いまも昔も、あまりまじめなサッカーウォッチャーではない月河でも、マラドーナさんと言えば、顔と名前が一致した外国人サッカー選手として、“王様”ペレの次くらいに来た人でした。
名前単体では、“皇帝”ベッケンバウアーのほうが先だったかもしれない。ただ、あちらは名前の響きの仰々しさだけが独走で、顔やプレースタイルがなかなかついてこなかった。当時は、地元で視聴できるチャンネルの、敷居の低い時間帯のTVで、海外のサッカー情報なんてまず入って来なかったですから。
マラドーナさんは、あれは伝説の86年W杯メキシコ大会の後ぐらいのオンエアだったのか、缶コーヒー“NOVA”のTVCMで、月河も「これが噂のマラドーナか」と、初めて名前とビジュアルが一致したものです。一人写りでも小柄(身長公称166cm)なせいか若く見えましたが、当時25歳のマラドーナさんが教科書のようなボレーシュートを披露、商品名が見える角度に缶を傾けてグビグビ飲んで「のば!」とサムアップしていました。あのCMを何度も巻き戻しリプレイして華麗なボレーシュートを習得せんとするサッカー小僧が相当な数、日本国内にいたと思われ。蹴り出す足元がスローアップになりますからね。
NOVAの商品名はその後、WANDAに変わりましたが、CM単体ではいまでも動画サイトで見ることができるようです。シュートが成功してもしなくても、そのあとグビグビして「のば!」でサムアップ、までがデフォルトで“マラドーナのマネ”ということになっていたような。
いま思えば、よく日本のCMに起用されたなアと思います。大会前、もっと言えば代表選出前から、禁止薬物使用疑惑はかなり取り沙汰されていました。TV画像でも歴然とわかる、筋肉の塊りというか“結晶”のような大腿部。重心をとる軸足の絶妙な角度と魔法の様に振り出される左足の躍動など、“神の子”と称されるにふさわしいパフォーマンスの数々が、薬物でブーストアップして成ったものとは考えたくはないですが、とにかく比類なき才能に疑いはないものの“光まばゆいほど影も濃い”を、競技キャリアでも人としての人生でも体現した一生だったと思います。
サッカーは世界的人気スポーツで、競技人口が多く参入してくる新人の数も半端ないですから、平均するとベテランの選手寿命が長い種目ではない(我が国にも“キング”というでかい例外はいるものの)のですが、それにしても60歳です。指揮官、指導者、啓蒙発信者としての可能性も含めて持てる力量のわりには盛(さか)りの時間が短い人だった気がします。
もっとざっくり視野を広げると、月河にとってそれまで、タンゴと『母をたずねて三千里』のイメージしかなかった“アルゼンチン”という国を強烈に印象付けてくれたのもマラドーナさんでした。最近のワールドサッカー事情はどうかわかりませんが、アルゼンチンと言えば「マラドーナのようなサッカーをやる国」「ああいうタイプのサッカーがもてはやされる国」という納得の下地ができました。コレ、同国人の皆さんには本意なのかどうか。もっと緻密で紳士なプレースタイルとキャラを持つ選手も、月河が知らないだけで、きっと居るのだろうとは思いますが。
5000%のハイパーインフレとか、通貨紙屑化でIMF介入とか、この国がしでかすいろんなことが「マラドーナを輩出した国だから」で説明がつく。
極めつけは、国民的英雄の逝去だからと国葬扱いで全土が三日間の喪に服することになり、大統領官邸の大広間に遺体が安置され一般ファンの弔問を受け付ける、遺族も同意しての格別の計らいがなされたものの、「弔問時間が短い、延長しろ」と要求する集団が一部暴徒化し警官隊が出動、というニュース。ファンも血の気の多い人が多い・・というより、マラドーナさん自身が“人の血気を沸き立たせずにおかない”稀有な才能をお持ちだったということかも。死してもなお。
輝かしいプレーの数々にわざとのように汚点をつける薬物や奇行の数々は、決して本意ではなかったでしょう。同年代で同時代にプレーしたチームメイトやライバルたちを5人抜きならぬ数十人“抜き”で旅立ってしまわれましたが、彼岸で初めて、何にも捉われず溺れず、才能の溢れるまま自由にボールを蹴ることができているかもしれない。ご冥福をお祈りします。