前の記事で、酒酔い強制猥褻TOKIO山口達也さんを“山口メンバー”っておかしくない?そんな日本語無いし、と誰にともなくイチャモンつけてみたら、まるで聞こえたかのように翌日朝のよみうりテレビ『ウェークアップ!ぷらす』で辛坊治郎メンバー、じゃなくてキャスターが手際よく説明してくれました。
かいつまんで言うと、逮捕報道なら“誰某容疑者”ですが、今般の山口さんの場合、すでに示談が成立しての書類送検報道なので、逮捕よりは処分が軽微で済むことが多く不起訴になる可能性もある、となると人権的に“~容疑者”は厳し過ぎるのではないかという、これは取り決めではなく、報道各社ごとの判断で、「~さん」「~氏」といった敬称ではなく、呼び捨てでもない“肩書呼び”、つまり官公庁なら「~局長」「~課長」、政治家なら「~議員」「~県議(or都議、市議・・)」、有名・知名人ならその職域分野で一般的に使われている呼称「~医師」「~アナ(ウンサー)」「~監督」「~教諭」「~弁護士」等が使われることが多いのですが、芸能人の場合どうする?と苦肉の策でひねり出したのが「~メンバー」だそうです。
聞いていると、今回に限っては、とりあえず身柄勾留無しの書類送検かつ示談成立済みだったことで、悪質性や厳罰可能性が低いというエクスキューズがつき、ギリギリ「“~容疑者”でなきゃおかしい」を免れたといったところらしいのですが、報道機関によっては“山口達也容疑者”と堂々と(?)表記したところもちゃんとあるらしい。月河は見ていないですけど。
月河が感じた「日本語としておかしい」感、馴染まない感は、ひねり出した報道各社も切実に感じているようで、今回の山口さんはたまたまTOKIOというグループの“メンバー”だからコレが使えたけれども、ソロで活動している人だったら?となると「事件を起こさない様に願うしかない」(デイリースポーツ)とのことです。いや、それはみんな思ってますから。
思い出したのですが、韓国ドラマではよく登場人物間で“肩書呼び”してますね。王を頂点とした官位や職位が重要な、封建時代を舞台にした時代劇は言うに及ばず、現代の業界お仕事もの、戦後復興期の立志ヒーローものでも、カンとかハンとかチョンとか同じ作品内に何人も出て来るまぎらわしい名字に「〇〇常務」「××室長」「△△秘書」と付けて、仕事を離れたシーンでも軽く呼び合っています。
韓国語に堪能なかたならもっと正確に事情をご存知でしょうが、儒教の影響が濃く長幼の序を重んじる韓国の社会では、家族や親しい仲ではないからファーストネーム呼びはできない、さりとて敬称でもどうなのかというとき、“肩書”はたいへん便利らしいのです。「上下関係をしっかり意識してあなたに話しかけていますよ」というメッセージにもなりますからね。
ただ、これは日本向け字幕制作時の拾い方にもよるのでしょうが、こんな時にも肩書?と奇異に映るときもある。『私の心は花の雨』の最終盤、悪人スチャンが息子ガンウクへの親心から、息子の想い人でヒロインのコンニムを庇って車に跳ね飛ばされたとき、コンニムが「営業部長――!」と泣きすがっていたのはさすがに笑いました。盛りあがるところだったのにね。
そう言えば、日本語に翻訳された韓国の活字エンタメ媒体に新作のたびに載るドラマ制作情報記事で、監督・ディレクターは“◇◇監督”ですが、脚本家は大体“〇〇作家”と表記されていますね。これも儒教社会の習慣の延長線上か。“作家”ってそもそも厳密に言えば肩書ではなく、“物を書くことで生計を立てている”という現象の名称に過ぎないし、部長の下に課長、社長の上に会長といった職位制度みたいなものも存在しないのですが、今回の“~メンバー”同様「何か付けないと呼び捨てになっちゃうから」とひねり出された苦肉の策なのかもしれません。日本では制作発表の記事で「橋田壽賀子作家」「三谷幸喜作家」なんて死んでも書きませんわね。逆に失礼感、バカにしてるのか感があふれてしまう。
何年か前に反社会的組織関係者との黒い交際疑惑で芸能界を去った漫才師出身のタレントを「〇田▲助司会者」と表記する媒体が続出して、あまりの無理くりっぷりにさすがに批判の声が上がったことがありましたが、肩書とは無縁に芸能や芸術や文筆の才一本で生きる人に、醜怪な急造肩書をひねり出さなければならない状況は、それぞれの当事者やファン以上に、媒体に携わる人たちにとって悩ましい話ではあります。
今回の山口メンバーも、警察沙汰になっているんだから被害者の心情を考えれば“さん付け”“氏付け”はあり得ないし、かと言って「“~容疑者”付けるほど犯情悪いか?」となると、親兄弟も、離婚したとはいえ幼いお子さんもいるし・・と躊躇するのも仕方がない。
“メンバー付け”は決してベストではない、ネクストベストでもない、ネクストのネクストのそのまたネクストの・・・六十五番めぐらいのベストの選択かもしれません。それにしてもスッと腑に落ちないにもほどがありますけど。
そこでですね、ついでと言ってはなんですが、あってはならない、あってほしくないこういう事態が、それでも起きてしまったときのセーフティネットとして、ユニットやグループで活動する芸能人の皆さんは、あらかじめグループ内での“肩書”を決めて、媒体関係者に周知徹底しておくというのはどうでしょうか。
TOKIOなら、たとえば、城島茂さんは“リーダー”で定着していると思うので、
「国分太一室長」(なんとなく秘書室っぽいから)
「松岡昌宏店長」(なんとなく居酒屋っぽいから)
「長瀬智也技師長」(なんとなくガテンっぽいから)
・・・なんのセーフティにもなってないな。異論爆発。「“メンバー”のほうがまだマシだ」で後退。こういう事態自体、二度と起きませんように。