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その多くの謎とは、次のとおり。
・わずか10ヶ月しか存在しなかった。
・140点余りの大首絵(版画による今で言うブロマイド)をその10ヶ月の間にのみ描き上げた。
・それまでと全く視点の違う作風である、歌舞伎役者が喜ばないシワも遠慮なく描き、売れるはずのない無名の下っ端の役者の姿も描いた。
・なぜか作品上に荒々しい線と繊細な線が同居している。
・無名のこの作家の作品を板元の蔦屋(つたや)重三郎が異例の待遇で世に出した(即座に、大量に、歌麿・北斎クラスの高級な摺り方で)。
・後に実は自分が写楽だったと言った人物が皆無。
・蔦屋はじめ出版の関係者や当時の浮世絵師など関係者が誰一人写楽の正体について沈黙したまま。…
つまり、「風のごとく現れ、それまでとは全く違う作風で作品を描き、出版元の異例のバックアップを受けリリースし、その後わずか10ヶ月で姿を消し、それが何者であったかだれもしゃべらない」というのが写楽の謎なのである。
それに対する作者の最終的な答えは、「もし○○が○○の時に○○したのだとすると、すべての謎を説明することができる。」というもの。そして、それが史実と照らし合わせ矛盾が生じないことも示し、自説の根拠としている。他の説をよく知らない自分としては、東州斎写楽という名の意味の解釈も含めて非常に納得できる結論であった。素直に面白いと思ったし、上下2巻をあっという間に読み終えてしまった。
なお、物語性を加味するための主人公によるサイド・ストーリーにより本作品は進行する。主人公の回りに登場する美しい女性教授の存在が最終的に写楽の正体とリンクすることは少し作りすぎかなと感じたが、江戸編に登場する人物達の「べらんめぃ調」は北海道に住む自分にとってはとても新鮮だった。
作者は後書きで、全てを説明しきれなかった、心残りであると述べている。そして本作品続編の執筆を示唆しているのだが、もしそうなれば、今度は即読みたいと思う。それほど楽しめた小説である。