平成29(行フ)3 執行停止決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件
平成29年12月19日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄自判 札幌高等裁判所
村議会の議員である者につき地方自治法92条の2の規定に該当する旨の決定がされ,その補欠選挙が行われた場合において,同選挙は上記決定の効力が停止された後に行われたものであったが,同選挙及び当選の効力に関し公職選挙法所定の期間内に異議の申出がされなかったという事実関係の下では,上記の者は,上記決定の取消判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできない。
毎日新聞の報道です。
留寿都村の元村議が村議会の失職決議の取り消しを求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は19日付で、元村議が本訴と併せて申し立てた処分の執行停止について認めた札幌地裁の決定を取り消した。札幌地裁の決定は元村議の失職に伴う補欠選挙があった投票日の3日前にあり、補選はそのまま実施されたが、小法廷は元村議が補選について異議を申し立てていなかったことから「補選の効力は争えず、村議の地位は回復できない」と結論付けた。
小法廷決定などによると、元村議の山下茂氏(61)は昨年7月、地方自治法の兼業禁止規定に抵触するとして村議会で議決を受け失職した。山下氏は議決の取り消しを求めて札幌地裁に提訴。緊急時に裁判所が行政処分の効力を止められる「執行停止」も申し立てた。補欠選挙は村長選と合わせて今年3月21日告示され、同26日を投開票日としたが、地裁は同23日に申し立てを認めて失職の効力を停止した。高裁も5月に支持し、村側が最高裁に抗告していた。
地裁で失職の効力が停止された直後に補欠選挙が行われたのが問題のようです。たしかに、最高裁まで持って行けるのに、選挙管理委員会のフライングの感じが否めません。自治体にも顧問弁護士がいる時代ですが、何か言わなかったのでしょうか。
では事実確認です。
(1) 相手方は,平成27年4月26日に行われた留寿都村議会議員選挙において当選し,同議会の議員となったが,同議会は,同28年7月14日,本件決定をし,これにより相手方は上記議員の職を失ったものとされた。
法律ニュース部によると、留寿都村の山下茂元村議会議員は、自分の経営する建設会社が村から請け負った仕事の割合をめぐって去年、議会の決定で失職。山下元議員は、この決定の取り消しを求めて出訴した。そして、この取消訴訟(本訴)を併せて、失職の効力停止(執行停止)を申し立てており、本件最高裁決定はこの申立てに対するもの。
(2) 相手方は,本件決定に不服があるとして,北海道知事に審査を申し立てたが,これを棄却する旨の裁決を受けた。そこで,相手方は,平成28年11月16日,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,さらに,同29年3月3日,これを本案として,本件決定の効力を本案の判決の確定まで停止することを求める本件申立てをした。
(3) 留寿都村選挙管理委員会は,相手方が留寿都村議会の議員の職を失ったことに伴う補欠選挙(以下「本件補欠選挙」という。)について,平成29年3月21日,その選挙期日を同月26日とすることを告示したところ,原々審は,同期日に先立つ同月23日,本件決定の効力を本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで停止する旨の決定(原々決定)をした。しかし,本件補欠選挙は,同月26日にその投票及び開票が行われ,相手方以外の者が当選した。
(4) 本件補欠選挙及び上記当選の効力に関し,公職選挙法202条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。
相手方は,原々決定により,本件補欠選挙の投票及び開票がされる前に留寿都村議会の議員の地位を暫定的に回復していたのであり,同選挙について公職選挙法所定の異議の申出の期間が経過しても,相手方が上記地位を喪失することはない。そして,同議会の議員としての職務の遂行が制限されることによって相手方が受ける不利益は,その性質上,金銭賠償によって容易に回復し得ないものであるから,そのような重大な損害を避けるため本件決定の効力を停止する緊急の必要がある。
と原原審では判断しましたが、最高裁では
(1) 公職選挙法に定める選挙又は当選の効力は,同法所定の争訟の結果無効となる場合のほか,原則として当然無効となるものではない。・・・したがって,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできないというべきである。
(2) 相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって,本件決定の時から上記のとおり留寿都村議会の議員の地位を回復することができなくなった時までの間における議員報酬を請求し得ることとなるから,相手方が本件決定の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきであるが(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照),現時点において,相手方はもはや上記議員の地位を回復することができない以上,本件決定の効力の停止を求める利益はないものといわざるを得ない。
・・・したがって,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできないというべきである。
確かに訴えの内容に沿って判断しなければならないのは分かりますが、何とも歯切れの悪い印象です。
続けて裁判所は、
留寿都村議会の議員の地位を回復することができなくなった時までの間における議員報酬を請求し得ることとなるから,相手方が本件決定の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきであるが(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照),現時点において,相手方はもはや上記議員の地位を回復することができない以上,本件決定の効力の停止を求める利益はないものといわざるを得ない。
いや、金寄越せという話ではなく、選挙管理委員会の不法行為が問題だと言ってるのだと思いますが。
裁判官岡部喜代子の反対意見
平成28年7月14日になされた本件決定により留寿都村議会議員の職を失った。しかし,相手方は,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,これを本案とする執行停止の申立てをしたところ,平成29年3月23日に本件決定の効力を停止する旨の決定がなされた。これにより,本件決定の効力は存在しない状態となり,相手方の同村議会議員としての地位は回復することとなった。同村選挙管理委員会は,同村議会に欠員が生じたことに伴う本件補欠選挙を同月26日に行ったのであるが,上記のとおり本件決定の効力が停止されたことにより,相手方の同村議会議員としての地位は回復していたのであるから,本件補欠選挙の当時,同村議会に欠員は存在せず,したがって本件補欠選挙は実施することができないものであったことになる。
このように,実施する根拠を欠く選挙は本来実施すべきではなかったのであるから,その効力は否定されるべき
筋が通ってますね。私もこの意見に賛成です。選挙委員会も山下議員も上訴する機会を奪われたのであり、重大な法令違反ですよね。にも拘わらず、やらかしてしまったことを追認するのはどうなのよと思います。
裁判官木内道祥の反対意見
国会議員の資格争訟については,憲法55条が裁判所法3条1項にいう「日本国憲法に特別の定のある場合」に該当し,裁判所で争うことはできないが,地方議員の資格争訟については,そのような憲法上の定めは存しない。
したがって,相手方が本件決定の違法を争い司法の判断を受ける機会は必ず確保されなければならない。
その通りです。
(1) 多数意見は,選挙又は当選の効力に関する異議の申出や訴訟(以下,併せて「選挙争訟等」という。)を行うこと以外の方法では,その効力を争うことはできないとするが,そうすると,相手方が本件決定の違法をどこで主張し,判断を受けることができるのかが問題となる。・・・相手方が選挙争訟等を提起しても,本件決定の違法についての判断を得ることはできないのである。
(2)選挙争訟等を提起して当該選挙が無効である旨の判断を得るという手続を経ることを求めることは,既に本件決定の取消訴訟を提起している相手方に無用な負担を命じるものであるというほかない。原々決定により,その決定以降においては議員の欠員の存在が否定されたにもかかわらず,本件補欠選挙が実施されたのであるから,本件決定を取り消す旨の判決が確定して本件決定が遡及的にその効力を失った場合と同様に,先行処分である本件決定が効力を失った状態で行われた本件補欠選挙については,無効と解するべきである。
(3)原々決定の取消しを待つまでもなく,本件補欠選挙の効力の確定により相手方の議員資格の喪失が確定するというのであれば,本件補欠選挙の当選の効力発生の時点から,選挙争訟等がなされればその結果の確定までの間,異議申出がなかったとしても異議申出期間が経過するまで(本件においては平成29年4月9日まで)の間,一つの議員資格に2人の議員が存在することになる。
相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって議員の地位を回復することができると解するべきである。
これは行政訴訟ですからね、民事みたいなやったもん勝ちの問題とは違い、きちんとやってもらいたいところですが、多数派はどうもグダグダの印象です。
第三小法廷
裁判長裁判官 岡部喜代子 非常によい
裁判官 木内道祥 非常によい
裁判官 山崎敏充 ダメ
裁判官 戸倉三郎 ダメ
裁判官 林 景一 ダメ
平成29年12月19日 最高裁判所第三小法廷 決定 破棄自判 札幌高等裁判所
村議会の議員である者につき地方自治法92条の2の規定に該当する旨の決定がされ,その補欠選挙が行われた場合において,同選挙は上記決定の効力が停止された後に行われたものであったが,同選挙及び当選の効力に関し公職選挙法所定の期間内に異議の申出がされなかったという事実関係の下では,上記の者は,上記決定の取消判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできない。
毎日新聞の報道です。
留寿都村の元村議が村議会の失職決議の取り消しを求めた訴訟で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は19日付で、元村議が本訴と併せて申し立てた処分の執行停止について認めた札幌地裁の決定を取り消した。札幌地裁の決定は元村議の失職に伴う補欠選挙があった投票日の3日前にあり、補選はそのまま実施されたが、小法廷は元村議が補選について異議を申し立てていなかったことから「補選の効力は争えず、村議の地位は回復できない」と結論付けた。
小法廷決定などによると、元村議の山下茂氏(61)は昨年7月、地方自治法の兼業禁止規定に抵触するとして村議会で議決を受け失職した。山下氏は議決の取り消しを求めて札幌地裁に提訴。緊急時に裁判所が行政処分の効力を止められる「執行停止」も申し立てた。補欠選挙は村長選と合わせて今年3月21日告示され、同26日を投開票日としたが、地裁は同23日に申し立てを認めて失職の効力を停止した。高裁も5月に支持し、村側が最高裁に抗告していた。
地裁で失職の効力が停止された直後に補欠選挙が行われたのが問題のようです。たしかに、最高裁まで持って行けるのに、選挙管理委員会のフライングの感じが否めません。自治体にも顧問弁護士がいる時代ですが、何か言わなかったのでしょうか。
では事実確認です。
(1) 相手方は,平成27年4月26日に行われた留寿都村議会議員選挙において当選し,同議会の議員となったが,同議会は,同28年7月14日,本件決定をし,これにより相手方は上記議員の職を失ったものとされた。
法律ニュース部によると、留寿都村の山下茂元村議会議員は、自分の経営する建設会社が村から請け負った仕事の割合をめぐって去年、議会の決定で失職。山下元議員は、この決定の取り消しを求めて出訴した。そして、この取消訴訟(本訴)を併せて、失職の効力停止(執行停止)を申し立てており、本件最高裁決定はこの申立てに対するもの。
(2) 相手方は,本件決定に不服があるとして,北海道知事に審査を申し立てたが,これを棄却する旨の裁決を受けた。そこで,相手方は,平成28年11月16日,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,さらに,同29年3月3日,これを本案として,本件決定の効力を本案の判決の確定まで停止することを求める本件申立てをした。
(3) 留寿都村選挙管理委員会は,相手方が留寿都村議会の議員の職を失ったことに伴う補欠選挙(以下「本件補欠選挙」という。)について,平成29年3月21日,その選挙期日を同月26日とすることを告示したところ,原々審は,同期日に先立つ同月23日,本件決定の効力を本案の第1審判決の言渡し後30日を経過するまで停止する旨の決定(原々決定)をした。しかし,本件補欠選挙は,同月26日にその投票及び開票が行われ,相手方以外の者が当選した。
(4) 本件補欠選挙及び上記当選の効力に関し,公職選挙法202条1項又は206条1項所定の各期間内に異議の申出はされなかった。
相手方は,原々決定により,本件補欠選挙の投票及び開票がされる前に留寿都村議会の議員の地位を暫定的に回復していたのであり,同選挙について公職選挙法所定の異議の申出の期間が経過しても,相手方が上記地位を喪失することはない。そして,同議会の議員としての職務の遂行が制限されることによって相手方が受ける不利益は,その性質上,金銭賠償によって容易に回復し得ないものであるから,そのような重大な損害を避けるため本件決定の効力を停止する緊急の必要がある。
と原原審では判断しましたが、最高裁では
(1) 公職選挙法に定める選挙又は当選の効力は,同法所定の争訟の結果無効となる場合のほか,原則として当然無効となるものではない。・・・したがって,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできないというべきである。
(2) 相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって,本件決定の時から上記のとおり留寿都村議会の議員の地位を回復することができなくなった時までの間における議員報酬を請求し得ることとなるから,相手方が本件決定の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきであるが(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照),現時点において,相手方はもはや上記議員の地位を回復することができない以上,本件決定の効力の停止を求める利益はないものといわざるを得ない。
・・・したがって,相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ても,上記議員の地位を回復することはできないというべきである。
確かに訴えの内容に沿って判断しなければならないのは分かりますが、何とも歯切れの悪い印象です。
続けて裁判所は、
留寿都村議会の議員の地位を回復することができなくなった時までの間における議員報酬を請求し得ることとなるから,相手方が本件決定の取消しを求める訴えの利益はなお認められるというべきであるが(最高裁昭和37年(オ)第515号同40年4月28日大法廷判決・民集19巻3号721頁参照),現時点において,相手方はもはや上記議員の地位を回復することができない以上,本件決定の効力の停止を求める利益はないものといわざるを得ない。
いや、金寄越せという話ではなく、選挙管理委員会の不法行為が問題だと言ってるのだと思いますが。
裁判官岡部喜代子の反対意見
平成28年7月14日になされた本件決定により留寿都村議会議員の職を失った。しかし,相手方は,本件決定の取消しを求める訴えを提起し,これを本案とする執行停止の申立てをしたところ,平成29年3月23日に本件決定の効力を停止する旨の決定がなされた。これにより,本件決定の効力は存在しない状態となり,相手方の同村議会議員としての地位は回復することとなった。同村選挙管理委員会は,同村議会に欠員が生じたことに伴う本件補欠選挙を同月26日に行ったのであるが,上記のとおり本件決定の効力が停止されたことにより,相手方の同村議会議員としての地位は回復していたのであるから,本件補欠選挙の当時,同村議会に欠員は存在せず,したがって本件補欠選挙は実施することができないものであったことになる。
このように,実施する根拠を欠く選挙は本来実施すべきではなかったのであるから,その効力は否定されるべき
筋が通ってますね。私もこの意見に賛成です。選挙委員会も山下議員も上訴する機会を奪われたのであり、重大な法令違反ですよね。にも拘わらず、やらかしてしまったことを追認するのはどうなのよと思います。
裁判官木内道祥の反対意見
国会議員の資格争訟については,憲法55条が裁判所法3条1項にいう「日本国憲法に特別の定のある場合」に該当し,裁判所で争うことはできないが,地方議員の資格争訟については,そのような憲法上の定めは存しない。
したがって,相手方が本件決定の違法を争い司法の判断を受ける機会は必ず確保されなければならない。
その通りです。
(1) 多数意見は,選挙又は当選の効力に関する異議の申出や訴訟(以下,併せて「選挙争訟等」という。)を行うこと以外の方法では,その効力を争うことはできないとするが,そうすると,相手方が本件決定の違法をどこで主張し,判断を受けることができるのかが問題となる。・・・相手方が選挙争訟等を提起しても,本件決定の違法についての判断を得ることはできないのである。
(2)選挙争訟等を提起して当該選挙が無効である旨の判断を得るという手続を経ることを求めることは,既に本件決定の取消訴訟を提起している相手方に無用な負担を命じるものであるというほかない。原々決定により,その決定以降においては議員の欠員の存在が否定されたにもかかわらず,本件補欠選挙が実施されたのであるから,本件決定を取り消す旨の判決が確定して本件決定が遡及的にその効力を失った場合と同様に,先行処分である本件決定が効力を失った状態で行われた本件補欠選挙については,無効と解するべきである。
(3)原々決定の取消しを待つまでもなく,本件補欠選挙の効力の確定により相手方の議員資格の喪失が確定するというのであれば,本件補欠選挙の当選の効力発生の時点から,選挙争訟等がなされればその結果の確定までの間,異議申出がなかったとしても異議申出期間が経過するまで(本件においては平成29年4月9日まで)の間,一つの議員資格に2人の議員が存在することになる。
相手方は,本件決定を取り消す旨の判決を得ることによって議員の地位を回復することができると解するべきである。
これは行政訴訟ですからね、民事みたいなやったもん勝ちの問題とは違い、きちんとやってもらいたいところですが、多数派はどうもグダグダの印象です。
第三小法廷
裁判長裁判官 岡部喜代子 非常によい
裁判官 木内道祥 非常によい
裁判官 山崎敏充 ダメ
裁判官 戸倉三郎 ダメ
裁判官 林 景一 ダメ