震災の衝撃というものは、ある。「まさにその時」のショックは大きなものだ。概して大きな事件には、ボディブローのように潜在的余波があるものだが、今回は「恐るべき事態が始まったに過ぎない」と考えられる点が、これまでにない。地震がこれで終わったわけではないだろうということ、被災して故郷を離れざるを得ず、あるいはそれまでと同じ日常生活を送れなくなった人たちが多くいるという現実、そして、何より原発事故による放射能汚染の脅威がある。政治の空洞化、日本経済の暗澹たる未来が、大きく黒い穴のように、行く手に広がっている。……多くの知己の劇作家たちが「こんな時に何を書けばいいのだろうか」「あらゆる虚構が無意味に思われる」と悩み、じっさい、苦しんでいる。それでも私たちは、専門家であるという意味では、書くことでしか、この事態を乗り越えられない。私自身も例外ではない。現実とかけ離れた劇の場合には、思いきって意識を切り分けることもできるのだろうが、今まさに目の前にある世界との繋がりを抜きには成立しない劇を構築しようとする以上、どのようなリアリティーを選択するべきなのか、思案せざるを得なかった。……既に進行中だった戯曲『帰還』は、震災以前の時期設定であることから、辛うじて押し切った。それでも現実とのコミットを意識することは避けられなかった。予定よりも遅れた。私は同時並行で二本を書けるほど器用ではないため、そして『推進派』は、過去時制を取るのでなく、「現在」を舞台とすると判断しただけに、大幅な進行の遅れに直面した。「まさに今」と対峙することは、避けては通れない。劇団員の中からも「震災の現実を前に、演劇を続けていいのかどうか」という悩みや相談があった。そして「まさに今」を描くことへの畏怖を表明する者もいて、また、私自身も考えを変える過程もあり、結果として軌道を修正する部分があった。……進行の遅延、予定の変更により、多くの皆さまにご迷惑をお掛けしたことを、心よりお詫びいたします。いろいろとたいへんな日々だったというか、今もまだまだたいへんでないわけではないのですが、『推進派』、初日があきます。
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